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マレビト来たりて  作者: 安積
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第7章 (8)

「本当に、これを着なきゃいけないんですか?」


明日は早いですよ、と昨晩エメラさんに言われていたとおり、まだ暗いうちから起こされて、連れて行かれたのは大きな浴場。

普段使っている場所とはちょっと違っていて、何処と無く静謐とした雰囲気を感じるところだが、滔々と湛えられた水面には湯気は見えない。

気温が高いから然程辛くは無いとはいえ、水を被れば半分寝ぼけていたような頭も一気に覚醒させられた。

廊下の窓から差し込む、顔を出し始めたばかりの太陽の光に、冷えた体を温めながら部屋に戻れば、見たことのないような、何処と無く見覚えがあるような派手な服が部屋で待っていた。

多分、これは神官の正装だろう。

見たことがあるような気がするのは、かつて一度だけ行った離宮でアカシェに拝謁するときに着せられていた服に似ているからだろう。

ただ、どう思い返してみても、明らかに装飾品の類が増えている。

帯も若干色が派手目になっているような気がするし、額飾りや髪飾り、首飾りや腕輪などは無かった筈だ。

地の布の色も白単色ではなく金糸や銀糸の刺繍、裾や縁などにも装飾が施されている。


正装は重ね着が基本だし、これ、ちゃんときたら相当重いんじゃないだろうか……?




「はい、行きますよー。」


エメラさんの声と共に、袖の無いハイネックのワンピースのようなものをかぶせられ、腕を通す。

既に下には裾に刺繍をあしらった幅広のズボンを穿いている。

因みに、靴下もカラフルな模様が織り込まれていた。

更に言うなら靴は彫刻された木靴である。

袖なしワンピの上に暗色系単色の帯をきつく締める。

実質、これが実用的帯であり、色鮮やかな帯は飾り帯びだ。

そこに、厚手の生地を使い様々な装飾を施された上衣を重ね、どこか和服の帯にも似た飾り帯を締める。

細い紐も何本も使った、私には一体どうやって結んでいるのかさっぱり分からないような飾り結びだ。

固めの帯で腰やお腹周りがきっちりと固定されて、正直なところ少し辛い。

こんな思いは、二十歳のときの成人式の着付け以来だ。

全体的な仕上がりとしては、まるでどこか中央アジア系統の民族衣装に似た雰囲気がある。

綺麗な衣装ではある、あるのだが……一つ言いたい。


今の季節は夏である。


日本のようにじめっとした蒸し暑い暑さではないが、それなりにエグザーダナも暑いのだ。

早朝の沐浴で冷えた体は疾うに温まっており、既に陣割と汗が滲み始めている。

祭りの本番は夜だというのに、何で今からこんな格好をしなければならないのだろうか。




「ではこれから髪を結い上げますね。」


そのあとにお化粧しておわりですよ、とにこやかに微笑むエメラさんたち侍女さんたちの笑顔が恐かった。

まるで着物の着付けのような一種の拷問ではないかとも思える時間が終わったと思ったら、まだ受難は続くらしかった。

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