第7章
護衛二人やハルディアさん、それからエメラさん達にも聞いてみたところによる、1年で最も重要な祭りの一つである光舞祭、そのクライマックスである神事も、ナイルにとっては「ただ歩くだけ」というまるで普段の散歩のごときものと化してしまったことに、流石の私も若干の衝撃を禁じえなかった。
例えば、某ネズミーランドのエ○クト○カル○レードを「ただ電飾が派手なだけの行列だよ」、という人はまさか居まい。
光舞祭を見るのも参加するもの初めてだからあれと比較していいのかは分からないが、多分、他の人の反応を見るに、ナイルの考えはそれに近いものがありそうだ。
「ああ、因みに貴女には輿に乗っていただきます。」
何と言うべきか迷っているうちに、先に口を開いたのはナイルで、何でもないことのように彼は告げた。
どうやらとことん感覚が違うらしい。
「ですから、ただ座っているうちに全て終わりますよ。
まあ、少しばかり堅苦しい格好をしていただきますので、窮屈かとは思いますが。」
輿……。
……皆が歩く中、一番後ろでキラキラと光る神輿に乗った自分の姿が思い浮かんだ。
「あの、それって非常に目立つと思うんですが……。」
「大丈夫です。
両脇には布を下げますから、顔などは見えませんよ。
それとも、私たち三人の中の誰かが抱き上げて歩く方がいいですか?」
「……輿でお願いします。」
しぶしぶ、といった感じで了承した私に、ナイルは苦笑いを浮かべた。
「――申し訳ありません。
このような扱いは嫌いでしょうが、警備上その方が確実なのです。
祭りの時期はどうしても外からの人が多くなります。
今でも、渡り人の存在を疎ましく思っている人間はゼロではありません。
それに、この街に渡り人が訪れるのはもう20年ぶりくらいですから、多くのものが貴女を一目みたいと思っているはずです。
その為にも少し視線が高くなる輿は都合がいいのです。」
警備上の理由とやらを持ち出されると、普段から多くの人の世話になっている身では、そう贅沢も言ってはいられない。
「分かりました。
ありがとうございます。
それで宜しくお願いします。」
「それでは、他に分からない点はありませんか?」
「えーと服装についてなんですが――」
そうして、色々と聞きながら夜は更けていき、分からなかった点や新たに生まれた疑問などを解消したときには大分夜は更けていた。
翌朝は微妙に眠い目を擦りながらもハルディアさんの下に赴き、今度は神宮北大路の見学へ出かけた。
こちらにはほとんど簡易テントなどの店舗は見当たらず、変わりに見た目からして老舗や大店、といった雰囲気の店が連なっている。
それは、普段とあまり変わらないような光景ではあったが、それでも祭りにあわせて普段とはちょっと違った店作りやサービスをしていることが見て取れた。
そんな感じで、祭りを凄し、ついにその時はやってきた。
2011/10/16 加筆