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マレビト来たりて  作者: 安積
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第2章 (4)

あれから5日経ち。

未だに私はベッドの中にいた。

医者もそういったし、私自身ただの過労と思っていたのだが、なかなか快復することなく今に至る。

夜はひたすら眠り続け、昼もまた時折り目が覚めるものの、食事やら生理現象やらを除けば眠っている時間のほうが多い。

起きている間も僅かな時間を除いて、どこか夢現と言った感じで意識がはっきりしない。

寧ろ、最初の日より悪くなっているような感じさえしてくる。

あまりに眠ってばかりいるので、まるで猫みたいだ、とも思う。

折角休んでいるのだからと少しは勉強でもしようと思ったところで、気付けば本を抱えたまま眠る、と言う事が幾度が続き、エメラさんによって本は取り上げられてしまった。

暇だ、と目が覚めている時間は思うものの、睡魔を感じることもなく、いつの間にやらと言うよりは唐突に意識が落ちているようだ。

そして眠りと微睡みの間を行き来している。

見舞い客も数人訪れてくれたようだが、大体の場合において私は眠っていて、ろくに会うことすら出来ていなかった。


地球にいた頃は、健康であることが数少ない私の長所であり、風邪で寝込んだ記憶は小学生以来ないし、記憶にある限りインフルエンザにかかった事も無く、こんなことは初めてだ。

もしかして、これもまた"渡り人"としての特性なのだろうかと聞いてみたが、少なくともエメラさんが知る限りではそういうわけではないようだ。

そもそも、"渡り人"は強靭な体を持つのが常らしい。

それが、最初の日にナジクが私に言おうとしていたマレビトの特殊性のことらしい。

元の世界ではどうであろうと、大概の場合、この世界の常人とは比べ物にならないくらいの能力を発揮するようだ。

それは、熟練の戦士が思わず規格外と言ってしまうほどのもの、トリップもののテンプレとも言えるチート仕様が"渡り人"のデフォルトらしい。

そう聞けば、規格外には程遠い、今の私の状況やそもそもの私の体力の無さはどういうことなんだ、と聞いてみたいのだが、"渡り人"についての詳しい生態?は高位の神官しか知らないのだと言う。

しかも、"渡り人"は同じ場所から来たもの同士でもそれぞれ異なる特性を持つことはよくあるそうで、これがもしかしたら私にとっての特性の表れであるかもしれないし、それとも全く違う何かが原因なのかもしれないそうだ。

まあ、つまるところ、現状では何も分らないという事だ。

こんな時こそ奴の出番だろうと思うのだが、倒れた日に会ってから、彼と会う機会もまた得られないままだった。

正しくは、何度か彼も様子見に訪ねてきてくれているらしいのだが、何とも間の悪い事にその度に私は眠っているらしい。

この場合、間が悪いのは私か彼か。

私の後見を勤めてくれているとはいえ、仮にも高位神官。

仕事も多いのだろうから、きっと間が悪いのは私なんだろう。




眠りと微睡みの合間の僅かな覚醒時間に、そんなような事を考えたり、話したりしながら時間は過ぎ、七日目の夜。

それまでは唐突に意識を落としては、微睡みの中からゆっくりと覚醒すると言う事を繰り返していたのとは異なり、唐突に明確に私は覚醒した。

あんなにも長引いていた体のだるさも熱もすっかりと消え、意識はしっかりと冴え渡っていた。

ベッドからそろりと足を下ろしてみれば、ふらつく事も無く、1週間もほぼ寝たきりで過ごしたとは思えないくらいに体は軽い。

窓から見える空の色は暗い藍色で、まだ夜明けが遠い事が分る。

1週間も寝ていたからなのか、妙に体を動かしたい衝動に駆られて、朝まで我慢する事が出来ずに、私は初夏の夜の涼しい空気の中へとそっと足を踏み出した。




今回短めです。

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