第7章 (6)
「タキ、これなんて如何かしら?」
「悪くないと思いますよ。」
色鮮やかな反物を前に、ハルディアさんは楽しそうに聞いた。
今、私達は喧騒賑やかな神宮大路の市に来ている。
普段のある意味で長閑でほのぼのとした様相とは一変して、酷く騒がしくもあるが活気に溢れているその様は、けっして不快なものではない。
各地から行商に訪れた流れの商人が、様々な品を並べ、この街の人だけでなく、近隣の――といっても距離は数日から数十日離れた――町や村から訪れた人々が行き交う様は色鮮やかで目にも楽しい。
道行く人々は大人も子供関係なく、皆喜びと楽しさを露わに各店を覗いては去りまた戻りと巡り歩いている。
中でも、ハルディアさんが今見ているような、布地や貴金属、アクセサリー類の店では、幅広い年齢層の女性が、望んだ品を予算の範囲内で少しでも良い物を手に入れる為にそこここで交渉に励んでいる。
特にこの当たりは女性向けの品揃えの店が揃っているのだろう、あまり男性の姿を見かけない。
それでも、中には恋人や思い人、家族へ贈る品でも探しているのか、一つ所で難しい顔で立ち尽くす男性の姿も見受けれれた。
それ以外といえば、女性の勢いに押されたかのように、遠巻きに覗うように連れ合いを見守っている、微妙に引き釣った顔をして大量の荷物を持たされた男性だけである。
まあ、世界は変われども、女性の買い物にかける情熱……否、執念と言うものに変わりはないらしい。
そんな中に、仕事とはいえ足を踏み入れざるを得なかったイドゥンさんとフィズさんの二人は、涼しい顔をしてハルディアさんの大量の買い物に付き合っており、その忍耐強さに深く感謝するばかりである。
逆に私はといえば、元よりの人ゴミ嫌い、及びそれほど装飾品の類にあまり興味がなかったこともあり、二人より先にへばりそうではあったが、ふとするごとに今朝方の気になる発言に気をとられ、そのお陰で何とか持ち堪えているような有様だった。