第7章
「さあ、タキ。
今日はたっぷりと祭りを楽しむわよ。」
あれこれと悩んでいた昨夜は一体なんだったのかと思うほど、あっけらかんとハルディアさんは準備万端の状態で訪ねた私たちを出迎えた。
「あら、彼らのお店に真っ先にいくとでも思ったの?
行ったでしょう、市を見るついでに、って。」
唖然とした私に、ハルディアさんはそう言ってのけた。
確かに、彼らのところに行くと入ったが、それがメインだとは言っていなかった。
何だか、昨日の自分が馬鹿みたいだ。
「さあさ、後ろの二人は荷物持ちをしてもらうわよ。
しっかり働いて頂戴ね。」
「え?」
私があっけにとられているうちに、イドゥンさんとフィズさんが了承の意を示し頷いていた。
よく分からないうちに周りだけが進んでいく状況に戸惑っていると、ハルディアさんが言った。
「タキ、仕事は昨日でお終いよ。
貴女にとっては初めての月祭りでしょう?
今まで勉強ばかりで全然見ていないのだから、今日からはしっかり楽しんで頂戴。」
「確かに、当日はとても楽しむ余裕はないでしょうからね。」
と、続けるのはイドゥンさん。
明日は祭り本番の宵祭りの筈だが、何かあっただろうか?
「忘れましたか?
上級神官殿にも言われたでしょう。」
「えっと、何かありましたっけ?」
「宵祭りの祭礼には、貴女も参加するんですよ。」
呆れたように告げられた言葉に、そういえば、と大分前にナイルに言われていたことを思い出す。
「ただ離宮まで歩くだけって言われたように思うんですが……。」
言われたままのことを言ってみれば、ため息二つと、感嘆の声が返った。
「全く、あの方は。」
「あら、それじゃあ、漸くタキを正式にお披露目するのね。」
呆れた呟きを漏らしたのがイドゥンさんで、フィズさんは無言を貫き、ハルディアさんは何か嫌な予感のする言葉を放った。
「あの、一体どういうことでしょう?」
先ほどから一人取り残され気味の私としては混乱する他ない。
その問いに答えてくれたのは、先ほどから沈黙を貫いていたフィズさんだった。
「上級神官殿が仰った、離宮まで歩くだけ、というそれがこの祭りの最大の見所なのです。
神官長始め、神殿に属する全ての者が正装で離宮までの道のりを練り歩きます。
恐らく、今回の最後尾を勤めるのが貴女になるでしょう。
現時点においてはそのように聞いております。」
「それって、凄いことなんでしょうか?」
話を聞いて浮かぶのは、祭りの踊り流しや、神輿の行列などで、私の拙い想像力ではそれが精々だ。
「当日は、精霊の力が特に強まる夜です。
神官たちは皆、精霊の光を手に道を行きますが、その周りを多くの精霊たちが舞い飛び、幻想的な光景だと街では人気ですよ。
特に貴女は、それだけに精霊を引き連れているのですから、よく目立つことでしょうね。」
若干苦笑気味にイドゥンさんが告げた言葉に、私の頭は一瞬固まった。
……ちょっと待て。
脳内で、描かれていた素朴な祭りイメージは脆くも崩れ去り、代わりに現れたのは、某ネズミーランドの光り輝く夜のパレードだ。
つまり、だ。
つまり、アレを、しかもアレのとりを私に勤めろって、そういうことか!?
2011/10/06 一部修正、加筆