第7章 (5)
「ところで、彼の部屋の住人達はどうしているのかしら?」
そう、ハルさんから聞かれたのは昨日の帰り際。
「さあ、どうしてるんでしょうね。」
苦笑いで誤魔化したけれど、それなりに情報は小耳に挟んでいる。
というか、アレだけ見た目だけはイイのが揃っているとやはり人目を引くようで、聞こうと思わなくとも自然と耳に入ってくるのだ。
最近まで知らなかったが、彼らはやはり様々な世代の女性陣の注目を集めているらしい。
彼らは全員学生ということもあり、専業のギルド員より身近に感じられるようで、実力派のギルド員たちよりも一般の女性方からは人気が高いようだ。
更に彼らを上回る人気を誇るのがナイルやアカシェだと聞いたときには驚いた。
最もこの二人に関してはある意味で画面の向こうのアイドルに向けるような、手が届かない高嶺の花への憧れ的な感情のようだが。
まあ、そんな有る意味での人外二人のことはどうでも良い。
つまるとこ、通称変人の巣窟の住人達は、手を伸ばせば届くかもしれない、そう少女達に思わせるに足る人物が揃っているという事だ。
どこでそんな話を聞いてくるのかといえば、意外な事だが神殿である。
聖職者も婚姻が推奨されているこの世界、年若い神官見習いの少女たちや神殿づとめの女官も、まるでどこぞの女子高生のように恋バナやそういった情報には敏感だ。
食堂で食事をしている時にふと耳に入ることもあれば、私もまた変人の一人であることを知る人が、色々話に来てくれてりするのだ。
話は戻って。
今、彼らがどうしているかという事だが、どうやら祭りに合わせた出店の中の一つとして出店しているらしい。
しかも、場所は神殿にも程近い、神宮南大路の端の方だという。
そのあたりはかなり人気の高い激戦区らしいのだが、毎年その場に出店しているのだそうだ。
当然といえば、当然のことながら、予想にたがわず女性のお客さんがひっきりなしでやって来ているらしい。
しかしその一方で、意外にもその大量の女性人にもめげずにやってくる男性ギルド員も多いそうだ。
それもその筈、商品は例の美味しいポーションを初めとしたギルド員なら喜んで金を出すであろう、美味しさを追求した栄養補助食品類であるからだ。
荒仕事が多いギルド員がそれらを求めるのは当然のことではあるのだが、逆に言えば、売り子に釣られてそんな日常生活では必要としないであろうものを買ってしまった巷のお嬢さん、お姉さん方が、一体それを何に使うのかは謎である。
因みにその情報をくれた神官見習いの少女は、その列に並びたかったけれど使う当てもないものに使えるお金はないから諦めた、と言っていた。
但し、場所が神殿からすぐなのを良いことに、友達数人と心行くまで彼らを眺めていたのだそうだ。
とまあ、そんな訳で、間接的な情報は持ってはいたが、未だ巣窟への立ち入り禁止は解かれておらず、その後の音沙汰もなし、と言う状況ではハルさんに言えるようなことは何もなかった。
尤も、ハルさんにはそんなこと位お見通しだったようで――。
「その分だと、彼らのお店のことは知ってるみたいね。」
と、朗らかに笑った。
そして、
「丁度、精霊術の抗議も終わった事だし、折角だから明日は祭り見物を兼ねて彼らのお店を訪ねましょうか。」
何か企んでいそうな含みのある笑いをすると、それを決定としてしまった。
2011/10/4 加筆訂正