第7章 (2)
「それが誰も何をするのか教えてくれないんですよ!」
「あらあら、そうなの?」
「はい、それで自分達だけ楽しそうにしちゃって。」
若干一名ほど疲れた目をしていたけれど。
「タキは皆のことが気になるのね。」
相変わらずハルディアさんは微笑を絶やさない。
優しい顔でそう聞かれると胸にくすぶっていた苛立ちも静まっていく。
「まあ、あとで教えてくれる、とは言ってるんですけどね。」
やっぱり、一人だけ教えてもらえないというのは何となく気分が悪い。
「暫く、部屋にも来るなって言われちゃいましたし。」
私の感情に反応して、精霊たちが細かく瞬く。
それをなだめるように、ハルディアさんは手をかざすと一瞬勢いづいた水は再び春雨のような柔らかな勢いに戻った。
感情を俗座に反映させてしまうなんて、私はまだまだ精霊の制御が甘いようだ。
祭りまで残すところあと1週間。
学校の授業が全て終わったのを機に私はハルディアさんの元で精霊の制御の勉強を兼ねた畑仕事の手伝いに来ていた。
因みに全ての授業で高得点で合格をもらい、落第は免れた。
散々悩んだ中間考査と違い、精霊が見えないという問題を克服した今、問題となる科目は一つもなかった。
祭りを控えた街はますます賑やかになり、護衛の二人がいつも付いていても誰も気にしないくらいになっていた。
寧ろ、二人がいないと私はまともに街を歩けないくらいだ。
祭りまでの間を、ハルディアさんのところに来る以外は変人の巣窟に入り浸ろうと思っていたのに、何故かあの日以来立ち入り禁止を言い渡されて私は不貞腐れていた。
「さてと、畑の水遣りも終わったしお茶にしましょうか。
私はお茶を淹れているから、タキは裏の二人を呼んできてちょうだい。」
「はい、ハルさん。」
私が、水の精霊の力を借りて畑に水を撒いていた間、護衛の二人は裏庭の草むしりをしていてくれた。
ハルディアさんのところに来るのは私の都合であって、彼らはそんなことをする必要はなかったと思うのだけれど、自ら申し出て彼らは除草作業に勤しんでいた。
「さあ、暑かったでしょう。
冷たいお茶を淹れたから召し上がれ。」
「はっ、ありがとうございます。」
「頂戴いたします。」
……なんだろうか。
ハルディアさんのところに来てからずっと二人とも態度が堅いんだよね。
もともと武官だから、他の神官たちに比べて堅いことは堅いんだけど……。
これは堅いというか……そう、緊張だ!
「イドゥンさん、フィズさん、何でそんなに緊張してるの?」
「あ、いや……。」
「その……。」
どうにも歯切れの悪い二人に堪えかねたようにハルディアさんが噴出した。
「あはは、何よ二人とも。
タキが不思議がってるでしょう。
私は今じゃただのおばあちゃんなんだからそんなに恐がらなくたって良いじゃないの。」
「いや、しかし。
ハル教――。」
教?
教諭、かな?
ハルディアさんが教職に付いていたっていうし。
でも、それは街中の普通の学校であって、神学校ではなかったはずだけれど。
「あのね、タキ。
この子達は私の教え子なのよ。」
「イドゥンさんもフィズさんも神学校の出身じゃなかったんですか?」
二人は神官である以上、神学校の出身だとばかり思っていたのだが。
「以前は街の先生をやっていたけれど、もっと前、若い頃に最初はギルドで精霊術を教えていたのね。
そうしたら、神学校でも教えてくれないかって神官長様に頼まれて。
その頃の教え子なの。」
「前、ギルドの人から鬼教師だったって聞きましたけど……。」
「あらあら、そんなことを言ったのは誰かしら?
そんなことなかったわよね?」
優しげに微笑まれたハルディアさんから目を逸らした二人の表情が、全てを物語っていた。
貴重な情報提供者の名前は、決して漏らすわけにはいかなそうである。