第6章 (10)
あのあと、夜明け近くまで精霊たちが瞬く中で、私たちはいろんな話をした。
色々とお互いの話を、どんな子供だったとか、くだらないことも色々と。
驚いたのは、ナイルもまたかつて変人達の巣窟の住人の一人だったということ。
彼だけじゃなく、ブラーシェ先生やツェフ爺もまた、昔々にはその面子の一人だったのだという。
……なるほど、変人の巣窟の名に偽りはないようだ。
明け方まで、その場で話し明かして、エメラさんを困らせない為にも夜が明け切る前に神殿へと戻った。
そのまま寝なおして、目が覚めたのは昼前くらいだった。
蛇もどきは枕元にとぐろを巻いていて、やっぱり毛が生えていても蛇という印象に間違いはなかったようだ。
ふさふさの毛皮を撫でれば目を開いて起き……浮き上がった。
確かな実体があるように感じらるのに、この生き物が精霊だなんて、分かってはいても信じがたい話だ。
けれど、目の前で数メートルに及ぶ巨体からたった数十センチという伸縮自在な様を見せ付けられては信じざるを得ない。
これは、私が知る常識の範囲外の生き物だ。
昨夜、私に記憶を受け渡すという役目を終えた彼/彼女は好きにしていいという私の言葉に反して私の傍を離れようとしなかった。
もしかしたら、長く"竜"と近くあったために、その影響を受けたのかもしれない。
ファンタジー小説で読んだドラゴンと違い、この世界に連れて来られた竜は群れる。
群れ、お互いを大切にする。
彼/彼女にとって、仲間といえるのはもしかしたら他の精霊たち以上に私なのかもしれなかった。
好きにしろといった手前、付いてくるなとも言えず、結局、普段の生活の中で邪魔にならないサイズに縮んでもらうことになった以外に特に変わりはなかった。
ナイルには特定の精霊をそばに置くなら名付けた方が良いと教えられたけれど、どうやら彼/彼女もそれを望んでいるようだったけれど、しっくり来る名前が浮かばず、未だ名無しの蛇もどきのままである。
頭のすぐ脇を飛ぶ彼/彼女をつれ、部屋を出ると隣室にはエメラさんが控えてくれていた。
ナイルが昨夜連れ出したことを話してくれていたようで、あまり夜更かしをしないよう注意されただけで、怒られる様な事は何もなかった。
その日は結局一日を神殿で過ごした。
私が精霊を見れるようになったことで、今まで私の傍に群がっていたという精霊たちが度々干渉してきた為だ。
確かに数が多く、群がっていると評したセムたちの言葉は的確であった。
それぞれが持つ力は小さくとも、群れればそうとも言っていられない。
傍で明滅を繰り返されたり、一斉に声をかけられたりはまだしも、あたり構わず水やら火やら暴発させる精霊が相次いだのだ。
お陰で一部庭園が変形しかけたりした為に、庭師のおじさんに起こられてしまうという一面もあった。
ただ、彼らとしても悪気があったわけではなく、純粋に私と話が出来るようになったことを喜んでいる彼らを責めるわけにもいかず、苦労した。
兎に角彼らと話をすることで漸く静まってくれたのだが、その頃には既に日も落ちていた、という有様だった。
話を聞けば、彼らの多くはアトルディアに命じられ、私が目覚めてから今までずっと傍にいてくれた精霊たちだった。
他にも、もともと竜とは仲が良かった精霊たちの裔や、アトルディアが私のために作ったという聖域で生まれた新しい精霊たちだということが分かった。
私は、知らず知らずのうちに、多くのモノたちに守られていたというわけだ。
今までの感謝と、これからもよろしく頼むと告げると、彼らは満足したように姿を消していった。
それでも、近くに気配は感じていたから、ただ私に見えないようにしただけなのだろうと思う。
それから二日後。
私は無事、精霊交流術の講義時間内に精霊召喚を成し遂げ、唯一残っていた最後の中間考査に合格したのだった。