第6章
ナイルに連れ出されて、今私は昼間来ていたあの廃園にいる。
夜は不気味かもしれない、と思っていたのだけれど、予想に反して月明かりと精霊のお陰でそんなことは全くなかった。
神殿で目覚めたときいなくなっていた蛇もどきは、深夜目覚めるとまるでそこが定位置であるかのように枕元にいて、今もすぐ隣を浮遊している。
そういえば、誰も蛇もどきについて言及しなかったけれど、一体何者なのだろうかと言う思いが今更ながらに沸いてきた。
そんなことを考えていると、ナイルは廃園のある場所で立ち止まり、私をベンチの上へと下ろすと自分もその隣に座った。
そこは石造りの泉水池の跡で、中央の噴水は枯れていたが、昼間の名残だろうか、長年放置されていた場所とは思えない澄んだ水が僅かばかり溜まっていた。
蛇もどきがスルスルと近付いてきて、日中のように私の首に纏わり付いたが、とりあえず気にしないことにした。
身長差で見下ろしてくるナイルを見上げ、その視線に真っ向から向き合った。
「それで、教えていただけるんですよね?
ここのことについて。」
「私が知る限りのことを話しましょう。」
所々苔むした、大理石に似た白い石で出来たベンチに座り、ナイルはそう頷いた。
「さて、何から話しましょうか。」
今はもう枯れた池を見つめながら、その瞳はずっと遠くを見据えるように、彼は話し始めた。
「全てを話すには、今夜だけでは時間が足りません。
まずは、あなたが一番知りたいだろうことからにしましょうか。
ここが、あなたのために作られた仮初の聖域だと言いました。
あなたのため"だけ"ではないのですが、それも大きな要因の一つです。
あなたは今日、ここで"なにか"を見ましたね?」
その言葉に一瞬どきりとしたが、それは私に返答を求めるものではなかった。
寧ろ、彼はそれを確信していたようだった。
「私は、"それ"は何であったのかを問うつもりはありません。
ただ、私は"それ"を知っています。
私は継承者ではありませんから、実際に見たわけではありませんが。
どのようなものを受け取るか、と言うことに付いては知っていたとだけいっておきましょう。」
その告白は、驚きだった。
この世界の人々の、"竜"に対する拒否反応を目の当たりにしているだけに、尚のこと。
ただ神殿で歴史を学んでいたときには、文字情報として損なものか、と思っただけだったけれど、学校に通って、その中で受けた歴史の授業の中で、学生達の生の反応を見たとき、否が応でも理解した、させられた。
子供でさえも、狂気にも似た竜への忌避感を抱くのだ、この世界では。
「ここは、あなたがその記憶を受け継ぐことを目的の一つとして作り出された聖域の一つです。」
なのに、私がその"竜"の一族の一匹であったことを知っていたというのだ、この人は。
何の恐れも抱かずに!
「生み出したのは、アトルディア。
あなたを、この世界に再生させた精霊です――。」