第6章 (9)
濃紺よりも尚深い空にはいつもと同じ七つの月が。
その月に照らされて花々は昼間とは異なる輝きを見せる。
日の中よりも鮮やかに精霊たちは宙を飛び交う。
「それで、教えていただけるんですよね?
ここのことについて。」
「私が知る限りのことを話しましょう。」
所々苔むした、大理石に似た白い石で出来たベンチに座り、ナイルはそう頷いた。
ギルドでの報告は、手続きこそそれなりに時間が掛かったもののそれ自体はあっけないものだった。
精霊との対話で分かったことのみを伝えると、それで依頼は一応の完了となった。
あの時起きたことについては、誰もが口にせず、故に私が何かを聞かれることもなかった。
ただ、精霊を見ることが出来るようになったことに祝いの言葉をかけてもらった。
この後のことに付いては、ギルドの上層部でアトルディアへの調査依頼を出すかどうかを検討するとの事だ。
だが、最高位の精霊の一人であるアトルディアの下へ調査に行くというのはある意味無謀なことであり、その依頼を出すことになるかは微妙なようだ。
どちらにせよ、彼の精霊がいる森への立ち入りは学生のギルド員には禁止されている為、私たちには関係のないことと言えた。
まあ、私自身はこの件は関係なく、いずれ私の名の由来となったその精霊の元へと行かねばならないのだが、それも先の話だ。
ギルドでの報告が終わり、もう自力で動くのも億劫になっていた私は、抵抗することなくフィズさんの腕に抱かれたまま皆と少しばかり遅すぎる昼食を食べに行った。
既にちらほらと出店が始まっていた夜の屋台街は、昼の屋台街とは異なる趣で、結構楽しかった。
雰囲気的には居酒屋を屋台に買えて、夜鳴き蕎麦やらおでんなどといった飲み屋街に近いものがあった。
それでも、まだ時間も早いこともあって、酔っ払っている大人の姿もなく、子供の集団がいても(一部大人が混ざっているが)さほど浮いた感じはなかった。
こうやって、日本にいた頃に近い食べ物が、そのものの名前であったりするのは、過去のマレビトたちのお陰なのだと思うけれど、そう考えると、日本人てこの世界の食文化にかなり貢献している気がする。
まあ、そのお陰で非常に助かっているので何も言うことはないのだけれど。
流石は、「世界中の一流の食事を食べたければ東京へ行けばいい」と言われた国の出身なだけはある。
尤も、日本人に限らず他の国の人も過去にきていたことはあるとは思うが、少なくとも、私が学んだこの国の歴史の中では日本人と思われる人が多く載っていたのは確かだ。
そんな感じにそれなりに楽しい食事の時間を過ごしたわけだが、廃園での疲労感は私が思っていたより大きかったようで、お腹いっぱいになった後の記憶はなく、気付けば自分の部屋で寝ていたのだった。
……やっぱり、帰りも抱っこされていたのだろうな、と思うとかなり悲しいものがあるが、まあ考えなければ良いだけの事だ。
目が覚めたのは夕飯の時間も過ぎた頃で、お陰でというべきかエメラさんの怒りを買うことはなかった……明日の朝が怖いけど。
それから風呂に入って寝直したまでは良かったのだが、夕方に寝てしまったためだろう、深夜に目が覚めた。
羊を数えたり、ベッドの中でごろごろと転げまわったりと、どうにも寝付けずにいたところにやって来たのはナイルだった。
2011/08/23 一部修正。