第6章
「本当に、もう兎に角、お腹空きました……。」
精霊と会話だなんてなれないことをしたためか、とても疲れた。
よくよく思い返してみれば、そもそもアルシュやタウィーザと会ったのだって昨日が初めてだったのだ。
ゲルドにしたところで、顔見知りでは会ったもののまともに話をしたのは昨日が初で。
そう考えれば、地球にいた頃から人見知りしがちだった私にしてみればよく頑張ったほうではなかろうか。
まあ、この世界の人たちがより人好きのする人たちだというのもあるのだろうけれど。
兎に角、お腹は空いたし疲れたしで、外でさえなければ今すぐにでも横になってしまいたい気分だ。
いい気なもので、蛇もどきの精霊はヒトの頭の上にとぐろを巻いている。
若干縮んだような気がするのは、果たして疲れによる気のせいか。
果たして眠っているのか、いないのか、それは分からないがじっと動かない。
疲れているのはいくら重さをさほど感じないとはい、こんなものが頭上にいるからかもしれない。
「それじゃあ、そろそろギルドに戻ろうか。
あの辺りなら今の時間でも空いてる店多いしね。」
ゲルドが伸びをしながら言う。
回した肩がバキバキと鳴っていた。
やっぱりずっと座りっぱなしでは肩も凝るよね、そう思った矢先に――。
「そうだな、どうやらこれ以上話をしたところで詳細は分かりようもないようだ。」
結構な長時間座っていたはずなのに、アルシュがなんということはなさそうにすっくと立ち上がる。
私でさえ、さっきからあちこちギシギシ言っているというのに、なんて羨ましい……。
そんなこと重いながらも、いつまでも座って入られないので、彼らに遅れじと立ち上がる。
と、同時に思いっきり腕を伸ばしたら、ゲルドほどではないにしろ、あちこちからミシッやらパキッと音がした。
肉体年齢的には私が一番若いはずなんだけどな……。
そういえば、セムはどうしたのだろうかと思えば、ナイルが起こしているところだった。
どうやら、今の今まであのまま(?)寝ていたらしい。
非常に疲れた顔をしているように見えるのだけれど、ただ眠らされていた、というわけではないのだろうか。
気になって二人を見ていたら、ナイルが私のほうへと近付いてきた。
「では、私は先に神殿に戻りますが、貴方はどうしますか?」
「多分、これからギルドに報告にいくと思うので、みんなと一緒にそちらに行くことにします。」
「分かりました。
それでは、また後で。」
「はい。
……あ、ナイル!」
先に帰途へと着こうとしたナイルに、言うべきことを言い忘れていたことを思い出し引き止める。
「ごめんなさい、えっと、私を心配して、来てくれたんですよね?
心配かけてしまって、ごめんなさい。
それから、ありがとうございました。」
そう言って下げた頭を上げると、ナイルが私に目線を合わせるようにしゃがんでいた。
真剣な表情で言葉をつむぐ。
「今は詳しいことは話せませんが、貴方がここに来れば何かあるだろうとは思っていました。
ですから、私に謝る必要はありません。
でも、そうですね。
エメラの小言は覚悟しておいた方が良いかもしれませんね。
貴方が私が来るまで門のそばで待っていてくださったなら、弁護の余地もあったのですが。」
最後の方でにやりと笑ってはいたけれど、棄権の有無の確認も出来ていないのに私が勝手に行動したことに対して、やっぱり何か思うところがあったのだろう。
去り行く彼の背を見ながら、神殿に帰ってからを思うと少しだけ憂鬱になった。
溜息をつきたい衝動を抑えつつ、疲れた顔をしたセムの元へと向かった。