第6章 (8)
「私のための、って……仮初の聖域って、一体どういう意味ですか?」
やはり、彼はここが何だか知っていたということだろうか。
ここが何かを知っていたならば、何故知っている人間がいるにもかかわらず調査依頼など出ていたのか?
「今お話するのが一番ですが……」
と、ナイルは後ろをちらと振り返った。
セムたちほどの勢いがないにしろ、それなりの速さでアルシュたちが近付いてくるのが見えた。
「彼らの居る前で話すのは問題があります。
気になることが多々あるとは思いますが、後ほど、詳しくお話し致しますのでどうか暫くお待ちください。」
そう言われては強く出るわけにも行かなかった。
彼にも、何か話せない訳があるのだろう。
諦めきれない気持ちを宥めつつ、皆が少しでも早くやってくるよう手を振った。
そんな訳で、今私は知りたいと言う欲求を抑えている真っ最中だ。
内心にじりじりとした焦りを抱えつつも、依頼を果たすべく精霊を問いただそうとしているアルシュとゲルドの通訳をしている。
隣では、タウィーザが精霊と戯れ、セムは未だ目が覚めない――どうやらナイルは彼を眠らせたらしい。どうやってかは知らないが。そのことについてアルシュたちは何も言わなかった。――。
イドゥンさんとフィズさんは次こそは何があっても大丈夫なようにと、すぐ後ろに控えていてくれる。
まあ、精霊たちも悪気があったわけではないようだから、早々何かが起きるとは思えないのだが。
ナイルも今は何も話すつもりはないのだろう、ただ精霊たちの言葉を聴いている。
アルシュとゲルドも精霊と交流できるにもかかわらず、私が何故精霊たちの通訳をしているかといえば、ここの精霊たちは極度の人間嫌いで、私の言葉以外はまるで聞いてはくれなかったからだ。
便利なのか不便なのか、精霊の言葉は、精霊が望んだ相手にしか通じないようにできるらしい。
しかも、授業で聞いていた限りではどんな精霊とも実体のあるヒトと同じようにコミュニケーションとれるように思っていたが、実はそんなことはないという。
基本的には「何となく何を言っているのか分かる」といったレベルでしかないらしいが、精霊への交流適正が高い場合と、精霊がそれを望んだ場合に限り、そうでもないようだ。
どうやら、この場では私とナイルにのみ分かるように話をしているようだ。
時折、何人(匹?)かの精霊がナイルの方を向いたり、瞬いたりしているから、声に出さない言葉で何か話をしているのかもしれなかった。