第6章
手が止まったことを抗議する様に頭を擡げた蛇もどきの視線を受けて硬直が解ける。
バシリスクに睨まれて固まるならまだしも、その逆というのも情けない……。
兎に角、今の状況を何とかしなければならない。
こんな水没している状況じゃ、例えあの結界みたいなのが解かれていたとしても、皆はここに入ってこられないはずだ。
何故こうなったかは問題じゃない。
撫でるのを止めてコトを謝りながら、恐らく唯一この状況を打破できるだろう――他の精霊たちでは力が弱すぎる――蛇もどきに尋ねる。
「この水、どうにかできる?」
“どうにか”という曖昧な言い方では意味が通じなかったのか、首を傾げる蛇もどきにもう一度、今度はもっと明確に聞いてみる。
「この水をなくして、他の人たちもここに来れるようにすることは出来る?」
出来れば門の結界みたいなのも、と伝えれば理解したのか、高く首を擡げる。
周囲の精霊たちも動き出す。
ポン、と――音がしたわけではないが――一瞬にして辺りを水底に沈めていた水が一気に消え去った。
不思議なことに、服も髪も体も全て乾いている。
ふと、水滴が落ちてきたような感覚に上を向くと、春雨のように柔らかな細い雨がパラパラと降ってきた。
空には虹が掛かっていて、それが煌めく大気と雨と相まって幻想的な美しさだ。
うっとりと見上げた視線を下に戻せば、これで良いのか、とでも言いたげに首を傾げる……一瞬にして1mほどに縮んだ蛇もどき。
精霊たちも先ほどまでの密度はない。
もしかして、相当力が必要な他の見事をしてしまったのかと思えば、気にしないで、と言う声が聞こえてくる。
聞こえてくる声に寄れば先程までの場の安定のために、必要な精霊の数だったらしい。
もうその必要がないからそれぞれ大気に散らばって行ったのだと。
そう話してくれている精霊たちが、ふと口を噤み――口、発声器官が彼らにあるかは不明である――、一斉にどこかへ移動しようかと逡巡したのが感じられた。
それと前後するように見知った気配――気配なんて今まで分からなかったが、それが置いてきた友人達と、護衛と保護者であることがすぐに分かった――が急いで近付いてきているのが分かった。
そういえば、ここの精霊たちは人が近付くと逃げてしまうのだと教えられていたことを、今更ながら思い出す。
「逃げないで!!」
慌てて叫んだ言葉に、精霊たちが動きを止めた。
驚いて明滅を繰り返す彼らに、静かに語りかけるように頼む。
「大丈夫だから。
彼らは私の友人達。
ただ、貴方達と話をしたいだけ。
ここに、居てもらえる――?」
『……あなたが、望むなら』
「ありがとう。」
暫く、相談でもしているのか明滅していた光が静まると、その場に留まることを決めてくれた彼らに感謝する。
精霊たちが、笑うかのようにざわめいた。
いつの間にかマフラーみたいに緩く首というか肩に巻きつき、擦り寄る蛇もどきの頭を撫でていると、やがて走ってくる友人達の姿が見えた。