第6章 (7)
一度見えてしまえば、何を悩んでいたのかと思うほどに簡単に精霊達とは意思の疎通が可能だった。
尤も、聞いたこと"のみ"には答えてもらえるものの、それ以外にはそれぞれの感情だけが撒き散らされている感じだが。
それを理解するくらいには"会話"を続けた頃、地面?が動いた。
私を半ば抱きこむように包み、浮いていた柔らかなその"地面"はスルスルと動き、状況を理解出来ないままに、足場を失った私は足先から水にゆっくりと沈んだ。
地球に居た頃、泳ぎは決して苦手ではなかった。
寧ろ水泳部に誘われたことがあるくらいには得意だった。
けれど、まるで浮力が働かないかのように体が沈んでいく。
普通だったら慌てて当然のその状況なのに、恐慌をきたすどころか安心して、今度こそ地面に足をつけたことに自分自身驚いた。
その驚きはその水の中で呼吸が可能だったこと以上の驚きだった。
「なに、これ……?」
思わず漏れた言葉を、まともにしゃべれたことにまた驚く。
水の中のはずなのに全く問題なく話せてしまう。
精霊達も、沈んだ私に付いてくるように水の中に降りてくる。
そして、精霊と共に長く大きな何かが近付いてきた。
龍のようにも見えるが角やら髭のないそれは、一見、蛇のように見えた。
だが、近付き頬に擦り寄ってきたそれに鱗はなく、全身が毛に包まれていた。
その感触で、先ほどまで私を抱きとめていた"何か"であることが分かった。
そして、それが周囲で光る精霊達と同じモノであることも。
「実体を持つ、精霊……?」
それは周囲の精霊のように話すことはなかったが、肯定するかのように再び目を細めて擦り寄ってきた。
実体のある精霊について講義で習ってはいたが、実物を目にするのは初めてだ。
実体化することがある、というのが精霊を一つの種族であるとする根拠らしい。
尤も、実体化できるのは強い力を持つ精霊に限られ、滅多に遭遇できるものではないともいうが。
何故そんな珍しい生き物がここに居るのかと不思議に思いながらも、撫でると気持ち良さそうにするそれを毛を指で梳く。
暫くそうして、精霊たちの奏でる声を聞きながら、蛇に似た精霊を撫で続けた。
うっかり、寝てしまいそうになった時に、はっと思い出した。
ここに来るちょっと前の状況を。
確か、私一人がこの廃園跡を含む古い屋敷の敷地内に閉じ込められたのではなかったか……。
そして、心配する友人達を置いて、一人奥へと進んできたはず……。
「……やばい。」
今が何時かは分からないが、確実に心配している。
しかも、イドゥンさんが神殿に行っているかも、という状況だったはずだ。
もしかして、数時間耐久説教タイム、確定だったりする、のか……?