第2章 (1)
ハルディアさんの依頼から2週間、私は非常に大きな問題に直面していた。
仕事は至って順調である。
この2週間、いくつかの似たような家事手伝いの依頼をこなす日々が続いた。
草むしりはちょっと体力的にきつかったから室内作業の掃除洗濯とか、或いは半日の子守を3日間とか。
どの仕事でも自分の体力の無さを痛感させされてばかりではあったが、依頼主の期待には十分に応えることが出来たと思う。
ま、依頼内容以上にマレビトの加護なるものを期待されていたような気もするけれど、それはそれで仕方が無い事なのだろう。
地球でだって、もしも目に見える形で神の奇跡の体現があったとすれば、そのご利益にあやかろうという人はいるだろうから。
ギルドの人たちによる依頼先までの付き添いは今も続いている。
そのお陰もあってか、主に本部で仕事を斡旋して貰っている人たちとは顔馴染みになった。
何故か、声をかけてくるのは皆「まさに冒険者」と言ったような感じの、難易度の高い依頼を専門にこなしている人ばかりだったりするので、仕事はほとんど被らない訳だが。
仕事が被っている、この辺りに住んでいる年若いギルド員とはほとんど顔を会わせる事が無かったりする。
時々、出会うことがあってもすぐに逃げられてしまう。
理由が分らないので困惑するばかりだ。
現状では静観を貫いているが…その内こちらから働きかけをしたほうが良いのだろうか。
因みに、私が初仕事をした日に一気に消えた依頼書だが、ハルディアさんの依頼を終える頃にはほぼ同じ量まで、否、寧ろそれ以上に増えていた。
しかも、全て街中の、家事手伝いを中心とした単純な仕事ばかりだ。
マレビトが仕事に来るかもしれない、と依頼に来る人が殺到したらしい。
尤も、本当に人手を要するもの以外の依頼は断られたとのことだが。
エグザーダナ地区におけるギルド本部の本来の役割は地区内の統括と各支部では対応しかねる依頼の受付、及び本部がある二の街左区からの依頼の受付なのだが、どうも管轄外の区域からの依頼も多かったらしく、それらの依頼は担当地域の支部に割り振られたそうだ。
初仕事の朝のギルドでの騒動もそうだが、自分が直接引き起こした事ではないとは言え、その原因となったことは否めず、業務外の仕事を増やしてしまった事は日本人としては心苦しい限りだ。
かと言って謝ってどうにかなるような事でもなし、私自身に出来ることと言えば仕事を誠心誠意頑張るだけだ。
まあ、そういう理由もあって、当分の間は仕事に困らずに済みそうなことは確かである。
そんなわけで、仕事関係には問題はない。
では神殿関係か、と言われれば、そちらは神官が相変わらずちょっとしつこいくらいで変わりは無い。
そう、問題は仕事でも神殿関係でもない。
もっと基本的なところに大きな問題が存在していた。
話は変わるが、この国には公の休日と言う概念がない。
勤め人なら定められた日に。
自営業なら休みたいときに休むと言うのが基本である。
暦があり、月や週が定められているが、地球のように日曜日は休み、と言う考えはない。
6日間で世界を作り7日目に休んだと言う神がいないどころか、今尚他の世界から問答無用で拉致を繰り返すような神しかいないのだから仕方がない。
そう考えると、嘘か本当かは別として、ユダヤ、キリスト、イスラムの神って案外優秀だったんだな、と思う。
まあ、実際には地球を作った神々も初期には異世界からの拉致を繰り返していたらしいが。
聞くところによれば、その名残がムーやらレムリア、アトランティスと言った消えた超古代文明の伝説となったんだとか。
話が逸れた。
とにかく、この世界、この国では暦は定期的な市の開催日や季節の移り変わりの目安にされるくらいでしかないのだ。
これは長年、週休制の元で暮らしていた私にとっては驚きであり、最も馴染みのない習慣の一つだった。
で、まあ何が問題となっているかと言えば。
想像して欲しい。
例えば、急な転勤で海外へ、それも所謂後進国と呼ばれる国へ行く事になったとしよう。
そしてそこで休日もなく一ヶ月肉体労働に従事する事になったとしたら?
さて、日頃から運動など特にしてこなかったインドア派と言う名の出不精な人間はどうなるか。
しかも、体は子供、体力も当然子供並みでしかない。
さあ、ここまで言えば、もう答えは言うまでもないだろう。
私は過労によって療養を余儀なくされていた。
KAROSHIが日本人特有の現象だっていうの、何となく分ったような気がする。
何も、異世界に来てまで、しかもブラック企業に勤めてるわけでもないのに、ぶっ倒れるまで働く事は無いでしょうよ、私……。
不安を紛らわすために仕事に没頭するなんて、なんて素晴らしいワーカーホリック振りだろう。
閑話を挟む予定だったけれど変更。
もしかしたら途中で入れるかも。