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マレビト来たりて  作者: 安積
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第6章

まるで、夢を見ているみたいだ。。

地球でも、あの世界でもない別の世界。

ただただ、その美しさに圧倒される。

ここは何処なのだろう……。

私の意志に関わらず、視線の主はあちこちへと視線を向ける。


3D映画も目じゃないこれは、きっと誰かの記憶だ。

3D映画が流行る切欠になったともいえる某SF作品は劇場に見に行ったけれど、この迫力は、その比ではない。


風を掴み、空を舞う。

空気の質からして違う。

何かが満ちている大気は刻一刻と色を変え、その姿をとどめない。

濃すぎて息も出来ないような大気の底で、そんな空気の重さなんて感じないみたいに“誰か”は――ああ、歓喜を抱いて風を切る。


次々と場面が切り代わる。


広大な森。

何処までも広がる砂漠。

天を突く山々。


おおよそ人には耐えられないだろうその世界を"誰か"は悠然と飛び越える。

映画では共有できない"誰か"の感情を、私は感じている。


共に空を翔けていた仲間達が一頭、また一頭と減っていく。

けれど、その一方で新たな仲間達が生まれていく。


これは、そう、竜の記憶だ。


私が感じているのは“彼――或いは彼女――”の表層の感情だけだ。

この記憶の主が何を考えていたかまでは分からない。

でも、悲しみや、嬉しさというものは染み入るように伝わってくる。


世界は変容していく。

世界に満ちていた“力”は減っていく。


色濃かった大気の色が薄れ、徐々に仲間の数は減っていく。

生き方を変えるものも現れ始める。

空を降り、地を這うものに紛れていく。

でも、それを成し遂げることが出来たのは一部の者たちだけだ。

空への強い憧憬は、地に留まることを許さない。

それは地に降りたはずの血脈をも空へ呼び戻すほどに。


けれど、世界はそれを許容しない。


どれほど焦がれても、多くの仲間が空へ戻れなくなって行く。

空は奪われ、新たな仔は生まれない。


滅び。

それを身近に予感するようになった頃、それは生まれた。

“彼”、否、“彼ら”の特大の喜び、慈しみ、感謝、様々の感情と共に視界に写るのは一つの卵だ。

いつの間にか、視点は"彼ら"を俯瞰するものに変わっていた。


与えられる暖かな、優しい感情。

私は、これを、知っていた――?


知らないはずなのに沸きあがる懐かしさ、これは“私”が地球に対して抱くのと“同じモノ”だ。

泣きたくなる様な焦がれる想い、これは“郷愁”だ。

そして、同時に身を引き裂かれるような痛みも感じる。

寂しさ、恐怖、喪失、それらが綯い交ぜになった、痛みだ。


そうか、この卵は――。

2011/08/14 大幅改稿。

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