第1章 (10)
異世界へ落とされて2週間と1日が経過した。
2週間と言っても、これはこちらでの数え方なので、地球の数え方でならまだ13日間だ。
半月も経っていない。
その割りには、慣れたかな、とは思う。
いつ帰れるのか、そもそも帰ることが可能なのかすら分らないけれど。
神殿の外に出るようになってから1週間、これをもうと言うかまだと言うかは人によるだろう。
ギルドの仕事をしてみたし、知り合いもできた。
その中で分ったのは、私が何も知らないということ。
当たり前の事だけれど、この世界のことを、私は何も知らない。
私に分っているのは、神が実在する世界だと言う事だけ。
その事を自覚したとき、「渡り人」が1週間という本当に短い期間で安全な庇護下から放り出させれるのはこのためだったのか、と気が付いた。
頭で認識するだけでなく、しっかり心でも受け止めなければ、人は前に進めないのだ。
なまじ下手に前の世界の知識が使えてしまうから、新たに覚えなくても生きていけてしまうから、神殿や王宮のどこかに閉じこもっていたらきっと気付かないまま、忘れてしまっていた。
忘れてしまえば、孤独ではなくなるから。
でも、そうなったたら、きっと私は遠からず病んでいただろう。
今なら"まだ"全部始まったばかりだと私は思う。
私は、変わることが出来る。
果たしてこれが、ヒト種に限るものなのか、それとも他の「渡り人」にとってもそうなのかは分からないけれど、少なくとも私にとってはこの期間は最適だったと言えるのだろう。
一月もたてば、甘えてしまう以外何も出来なくなってしまう自覚はあった。
でも、多分それだけではすまなかったはずだ。
私は、きっと、この世界を見ることも拒否したに違いない。
自分が変わることを、拒否してしまっただろう。
生まれ育った慣れ親しんだ世界から一人切り離されてしまった事を受け入れたくなくて。
それは多分、生きる事を拒否する事でもあったはずだ。
停滞した命は死んだも同じだから。
私は、これからこの世界で生きていく。
いつか地球に帰るためにも。
私は、生きなきゃいけないんだ。
生きると言うのは、ただ命を繋ぐ事だけを意味しているのではない、とよく地球にいる頃耳にした。
本当に、そのとおりだと思う。
この世界での成人は12歳なのだと言う。
それは一人立ちの年を顕しているのではなく、自ら責任のある選択が出来るようになる年なのだという。
私も、そう在ろう、そう在れる様努力しよう。
自らの目で見て、耳で聞き、多くのヒトと関わり合って、色んなものを受け入れて、それらを消化して、自分の意思で選択して行こう。
それが多分生きると言う事であり、私が目指していた自立すると言う事なのだと思うから。
今回は短いです。
もしかしたら今後長くする事があるかもしれませんが。
これで第1章は一応終わりとなります。