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マレビト来たりて  作者: 安積
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第6章

「それで、概略は分かったけど、具体的にはどうすればいいの?」


「特に難しいことはありません。

 とりあえずは、移動しましょうか。」


セムと二人で依頼を受けるための手続きを終え、立ち話だったのを。

通常、複数名で依頼を受けるときはその全員が手続きを行う必要があるが、セムたちは(スクアッド)を組んでいるから代表者が一人いれば良いのだそうだ。

私のことに巻き込んでしまって悪いと思ったのだが、彼らも気になっていた依頼ということなので、甘えることにしたのだ。

セムに案内されたのはギルドの3階の個室だった。

今まで初日に2階に行ったきりで、上の階に来るのは初めてで新鮮だ。


「こんなところ、有ったんですね。」


「予約制ではありますが、ここはギルド員なら誰でも無料で使えるんですよ。

 隊や、ギルド員同士での話し合いによく使われることが多いようですね。

 俺たちも隊や例の活動のときにここをよく利用しています。」


防音魔術があるんでいろいろと便利なんですよ、とセムは笑った。

"いろいろ"とは何か、とは多分聞かない方がいいことなのだろう……。



「さ、どうぞ。」


進められて入った室内は……なんというか、混沌としていた。

セムの話だと、時間貸しとのことだったように思うが……一体どうやったら短時間でこんな有様に?

いやいやいやいやいや、短時間でこれは絶対ありえないだろう!?


「あの、セム?

 ここって、長時間借りることも可能なんですか?」


「え?

 ああ、はい。

 特に他の予約がなければ、最長半年駆り続けることが出来ます。

 延長も出来るので、俺たちの代になってからで1年、先輩達から数えると数年借りてるんじゃないですかね。」


なるほど、他に希望者がいなければ借り続けることも可能、と。

確かに、これは昨日今日形成された混沌具合ではない。

ちょっと居心地よさそうかも、なんて思ってしまう自分の性格も困りものだけど。


「あの、ギルドの一角をこんな風に占有してしまっていいんですか?」


「問題があれば借りられませんよ。

 さ、中へどうぞ。」


「じゃあ、お邪魔します。」


促されて入った室内で待っていたのは、ギルド内では年若い方である、ギルド員兼学生の面々だった。

見知った顔も多い。

ギルドだけでなく、学校で、ブラーシェ先生の授業で一緒の人もいた。

あまり広くはないが狭くもない室内に6人ほどが思い思いの格好でくつろいでいる。

部屋の隅、一部腐海を形成している一角に蹲っている?影は人に含めていいのだろうか……。

じっと見つめてくる目や呆れ返っている目、訝しむ目、私を見る目は様々だけれど誰も言葉を発しない。

もしかして、私がここに来てはいけなかったのだろうか、とそんな風に思いながらも、後ろのセムに促されるままに部屋の真ん中にあるテーブルへと辿りついた。

すると、腐海の影を除く6人とセムの合わせて7人が、ぞろぞろとテーブルに並んだ。

窓を背にしたそれぞれの顔は逆光になって見えにくい。

一瞬の静寂が流れ、上座のセムがそれを破った。


「ようこそ、我らが『若き賢人の間』へ。

 我々はあなたを歓迎します、アトルディア様。」


まるで何かの儀式のように芝居めいた言い回しをしたセムに困惑を感じる前に、一同の爆笑が響き渡った。


「因みに、別名は『変人どもの巣窟』だ。

 ようこそ、マレビト様。

 君が本当に来るとは思わなかった。」


目尻に涙を浮かべながら言ったのは、如何にもな魔法士姿の青年だ。


「この部屋に入れる女がいたなんて。

 本当に女か?

 それとも異世界の女は特別なのか?」


と、ちょっとばかりでなく失礼な科白を言ってのけたのは、訝しむ目で私を見ていた人だ。


「前から君は変わってる、って思ってたけど、やっぱり君も辺人の仲間だったようだね。」


呆れた目をしてそう言ったのは、高等学校でブラーシェ先生の講義を受けてる一人だ。



「……あの、これは一体?」


「以前、言ったでしょう?

 ギルド員で且つ学生であるものたちで集まって自主的な活動を行っている、と。

 ここがその本拠地です。

 そして、俺が今所属している隊のメンバー達でもあります。」


再び私のそばに戻ってきたセムに聞けば、そんな答えが返ってきた。


「私、まだ入るって言ってなかったと思うんですけど。」


「実はこの部屋に入れるかどうかが入部試験を兼ねてまして。

 入れた人物は問答無用で辺人たちの仲間入り、と言うわけです。」


それに、この空気嫌いじゃないでしょう?とまで言われては何とも言い返しようもない。


「あの腐海を除けば、確かに面白そうなところですね。」


そういうのが精一杯だった。

なにやら飲み物や食べ物を持ち出し始めた少年達の様子を見るに、なかなか、依頼のへの本題に入るのは難しそうである。

だが、こういう雰囲気は嫌いではなかった。

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