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マレビト来たりて  作者: 安積
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間章

扉を開いて現れたのは、相変わらず無駄なまでに輝かしい美貌を携えた人で、慣れぬこの場所で唯一といっても良いほど見慣れたその姿に、緊張していた体がほっと解けた。

いつもと違い、しかつめらしい顔でその場に現れたアカシェは警護と思しき人に何事かを告げると、微動だにすることなく直立無表情を維持していたその人は、一瞬ためらうような表情をした後に退室した。

部屋に二人だけになると、アカシェはいつもの夜のように気さくな表情を浮かべた。

仕事中だからなのか、若干疲れたように見えるのは気のせいだろうか。



「久しぶりだな、アトルディア。」


アカシェは向かいのソファに腰を下ろすと、元気にしていたかと聞いてきた。


「お久しぶりです。

 私は元気ですよ……アカシェは少し顔色悪そうですね。

 まあ、それはさておき早速本題ですが、どうぞお届けものです。」


「……少しは気にかけて欲しいものだな。」


「こんなふざけた呼び出し方する人にはこんなもので十分かと。

 あ、受け取りのサインお願いします。」


自分で自分宛に荷物頼むとか、全くの無駄としか思えない。

しかも中に何が入っているのか知らないが、掌サイズでとても軽い。

せめて形だけでももう少しもっともらしいものはなかったのか。


「まあ、待て。

 せっかくだ、茶でも飲んで行け。」


さっさと受け取りのサインを貰って帰れないかな、と思ったがやはり無理なようだ。

予想はついていたが、恐らくこちらが本題か。


「出来ればここ、早く帰りたいんですけど……。」


それでも一応悪足掻きをしてみたが一蹴された、と言うか私の発言を無視して渡したばかりの小包を手に入ってきたのとは別の扉を潜っていってしまった。

戻ったときには湯気を立てる茶器を盆に載せて運んできたから、給湯設備かなんかが隣の部屋にはあるのだろう。

漂ってくる香りは、いかにもな豪奢な内装のこの部屋に似合わない、最早アカシェとの茶会では定番のツェフじい御用達の徳用茶葉のものだ。

……もしかして。


「さっきの荷物はこれですか?」


「ああ、そうだ。

 先日街に降りたときにギルドに頼んできたのだ。」


堂々と言うことじゃない、とも思うが、仕方ないと諦めてアカシェのお茶に付き合うことにした。


「なんだって、こんな回りくどい真似を……。」


そう尋ねれば。


「夜行っても、このところずっとお前は寝ていただろうが。」


……なるほど、最近来ないと思っていたが私が気付かなかっただけだったのか。


「……あー、そういえば、最近は学校に慣れるのに精一杯で夜は熟睡してたかも?」


ということは、事を大袈裟にしたくない、と言っていたアカシェにとって、これが次善の策だったというわけか。


「それはお手数をおかけしまして。」


「全くだ。

 まあ、代わりにツェフのところに入り浸っていたがな。」


……神官長、憐れな。

あとでお菓子を買って帰ってあげよう。

意外にあの人は駄菓子系が好きだと知ったのは最近の事だ。

きっと喜んでくれるだろう。


とりあえず、ここに呼ばれた理由が一応は判明したが、聞きたいことはまだある。


「それにしたって、金貨一枚って何ですか。こんなことに血税使わないでくださいよ。」


「安心しろ、それは政務以外で稼いだ私財だ。

 私事に公費を使うほど愚かではないぞ。」


「私財、ですか……。

 でも、だからって、いくらなんでもこの金額はないでしょう?」


「何だ?少なかったか?」


「アホか!多すぎだっての!!」


思わず、素が出てしまったのは私が悪いわけではない……はずである。

て言うか、政務以外で稼いだ私財って一体……相変わらず得体の知れないところがある。


「ははっ、冗談だ。」


「金貨一枚でも冗談かと思いましたよ。」


そう半ば本心からぼやけば、すまん、と笑う声が聞こえた。

そうまでして私と話がしたかった、と言うわけでもないだろうが、幾分疲れた様子を見てしまうとこれ以上文句を言う気も失せた。

私には無茶するな、と言った本人がこれでどうするんだか。

2011/07/30 誤字修正

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