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ガリ勉優等生・山本博士の霊障事件手帖  作者: 淡雪みさ
FILE 1 落ち武者

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9/22

弱っている生徒



「山本博士の推測では、白露院が生徒たちを動物にしていってるんじゃないかって話で……」

『博士が言うならそうなんだろうな。博士の推測は大抵当たる。あいつは間違わない』


 ミナトがこちらを見ずにゆっくりと口を開いた。


『……俺、周りになんて言われてんの?』


 私は記憶を辿り、同じクラスの女子生徒たちが言っていたことをそのままミナトに伝える。


「縁起でもない話だけど、自分で死んだって言ってる子たちがいた。弟へのコンプレックスに耐えられなくて自殺だって」

『……それ、大体合ってる。俺、死のうとしてた』


 予想外の答えが返ってきて、部屋にしんとした空気が降りた。

 あんな話、噂に尾鰭が付いただけだと思っていた。けれど、どうやらただの噂も馬鹿にできないらしい。


『俺、除霊師なんて向いてないのに除霊師を目指したんだよ。何とか入学できたはいいものの、成績はずっと最下位だった。推薦枠も取れなかったし、受験も絶望的だった』


 語尾が掠れ、ミナトは尻尾を体に巻きつけるようにしてうずくまった。


『自分で勝手に追い詰められてたんだよな。周りは別に死ねなんて言ってないのに、自分で全部決めつけて、勝手に潰れて……』


 しばらく黙ったあと、彼はぽつりと続けた。


『多分そんな風に落ち込んでたせいで白露院につけこまれたんだと思う。弱ってる奴ほど乗っ取られやすいって言うけど、俺の時も、ある日自分の中に何かが入り込んできて、死にたいって思いが急に加速したような……背中を押されたみたいな感覚があった。もう死ぬことしか考えられなくなって、それで頭いっぱいになって、死のうとして……気付けば猫になってた』


 ミナトの悲しげな声に思わず聞き入る。

 ということは、白露院に動物にされやすいのは、精神的に弱っている生徒ということなのかもしれない。

 猫の悲しげな小さな背中が、一瞬、厳しい本家で育てられていた自分の家族と重なって見えた。


「……閉鎖的な競争社会で目の前のことしか見えなくなってるだけで、受験とか除霊師としての才能とか、それだけが全てじゃないよ」


 かくいう私も子供の頃は、除霊の世界が全てだと思っていた。そういう家だったから。だからミナトに何か言える立場じゃない。でもミナトがもう死のうとしないように、何か伝えるべきだと思った。それは、過去の自分や兄に伝えたい言葉でもあった。


『はは、だよな。馬鹿みたいだよな』


 ミナトの笑い声は自嘲的だった。その目はどこか遠くを見ているようだった。

 私はしばらく黙り込んだ後、素直にミナトへの尊敬を述べた。


「でも、結果が出なくて死にたくなるってことは、それくらいミナトが一生懸命頑張ってたってことだとも思う。……あんたも山本博士も凄いよね。私はもう頑張ろうって思えないから、結果がどうあれ努力できる人間は皆凄いと思う」


 ミナトは驚いたようにこちらを見た。

 そして伏し目がちに微笑み――


『君の方が凄ぇよ』


 と、山本博士と似たようなことを言った。




 ◆



 翌日の昼休み。

 バディの件は断ったはずなのに、私はまたしても山本博士に視聴覚室に呼び出された。

 まだお昼ごはん食べてないんだけど……と思いつつ、有名人の山本博士と教室内で長話でもしたら私まで目立ってしまうので渋々付いていった。

 促されるまま視聴覚室の端っこの椅子に座った私は、山本博士の話が始まる前にと焼きそばパンの袋を開けて齧り付く。

 すると、それを見ていた山本博士が険しい表情をして眼鏡を光らせた。


「真中さん、まさかとは思いますがlunchはそれだけですか?」

「ら……えっ、なんて?」


 さすが帰国子女、発音がネイティブすぎて外国語を使われると一瞬聞き取れない。


「ランチです。いつもパンだけで済ませているのですか?」

「うん……まぁ……昼はパンと珈琲だけだけど」

「それはいけません!」


 山本博士は頭を押さえて大きく仰け反る。


「真中さん、貴女は僕の作った栄養満点のお弁当を食べるべきです。炭水化物のみで済ませるのはよくありません」


 この男、勉学に励む傍ら自分でお弁当まで作ってるのか。

 本当に何でもできる男である。


 女の子が家庭科の授業で作ったかのようなやけに可愛らしいお弁当袋からお弁当を取り出した山本博士は、「さあ、好きな具をお食べなさい」と常備しているらしい割り箸を差し出してくる。

 私はおずおずと箸を割って卵焼きを摘み、口の中に入れてみる。


 ――その瞬間、私の口内に革命が起こった。


「う、うま……っ!」


 私の好きな甘めの卵焼きだった。

 私がうまいとつい褒めてしまったことに満足したのか、山本博士はうんうんと深く頷く。


「そうでしょうそうでしょう。よければ明日も作ってきますよ」

「いや、それはいい」


 そんなに毎日あんたと関わる気ないし……という気持ちで断るが、山本博士は一切引かない。


「遠慮しないでください。僕は毎朝妹の分のお弁当も作っています。具材を少し多く作るくらいなんてことはありません」


 妹と聞いて納得する。

 なるほど、山本博士の鞄にやけに可愛らしいフェルトで作ったであろうマスコットキャラクターがぶら下がっているのも、ランチョンマットやお弁当袋がやけに可愛らしいのも、妹の影響なのだろう。


「妹もこの学校の生徒?」

「はい。中等部の二年生です。可愛いですよ」


 妹のことを聞くと少し声のトーンが上がった気がする。

 どうやら山本博士はシスコンらしい。




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