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ガリ勉優等生・山本博士の霊障事件手帖  作者: 淡雪みさ
FILE 1 落ち武者

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あちら側の存在




「それって先生には……」

『報告していますが、現状なす術なしです。教員たちは行方不明になった生徒の保護者への対応で手一杯のようなので、問題解決のために動き始めるまでにはまだ時間がかかりそうです。全ての生徒が動物になっていないということは、動物化にも何か条件があるはず。せめてそれが分かれば予防に繋がるのですが……』


 山本博士は眼鏡をクイッと中指で上げ、再びスライドを用いて白露院の説明を始めた。



 白露院は平安後期、帝の落胤として生まれた。彼は幼い頃より才知に富み、霊との感応力に優れた少年だった。

 才能を買われて陰陽寮に召され、当時最年少で高い地位を与えられるが、彼が研究していたのは動物霊との融合や憑依、人間の霊格を動物に写す秘術など、当時の価値観では禁忌とされるものだった。さらに、上流貴族が飼っていた小動物を研究のために大量に殺していたことから、彼の術は恐れられ、朝廷に謀反の意志ありと誤解された。

 異端審問の末、彼は政治的な脅威として斬首されることになった。この時彼は唯一心を許していた存在、育ての親にも己の出世のために裏切られる。

 彼は死の間際、笑いながらこう呟いたという。


 ――「では、この身の魂、鷹にでも犬にでもなって、幾百年後にでも戻ってきましょう。いずれ私の恨みが獣となって人の世を支配する日が来るでしょう」


 彼は陰陽寮の中でも禁術研究に手を出した異端の天才として名を残す。

 処刑から間もなく、京の都とその周辺で動物が次々に倒れる奇病が発生した。

 猫や犬、馬、牛などが暴れ出し、人を襲った末に死ぬ。一部の人間も動物のようなうなり声をあげ、四肢で歩き、錯乱状態になって死亡。朝廷は陰陽寮に鎮めを命じるが、誰も原因を突き止められず。

 同時に都を中心に地震と山火事が起こり、一部の貴族は祟りに違いないと記録を残した。彼の死後五年で三度の大火、二度の疫病、二度の地震が起きたとされる。


 白露院は当時御三家と呼ばれていた三つの名門除霊師の家系の人々が総出で封印し、そのうち二つの血は、怨霊となった白露院との戦いによって途絶えた。


『ただ封印の際、動物に憑依する力だけは抑えきれず、各地で動物の声で人の言葉を話す怪異が現れるようになったという伝承があります。……その力も、時を経て弱まってきていたはずなのですが』

「……何故か今になって、復活してきてるってわけか」


 私は頬杖を付きながらしばし考えた。

 もしかすると、山本博士が落ち武者を追っていたのも、白露院の居場所を特定したかったからなのかもしれない。

 白露院について分かっているのは、この広い土地のどこかに封印されているということだけだ。

 具体的にどこにどのような形で封じられているのかまでは分かっていない。建物自体も何度か建て替えが行われていて、当時の記録とは位置がずれている。


 手がかりになるとするならば――白露院の気に引きつけられてこの学校に集まってくる、〝あちら側〟の存在だろう。

 幽霊たちは白露院の強い霊力に引かれてこの学校にやってくる。彼らの行き先を追えば、うまくいけば白露院を封じている場所に辿り着くかもしれない。


 スライドショーを終えると、山本博士はようやくマイクを置いて切り上げた。


「まともに幽霊が見えない僕だけでは限界があります。なので真中さんに――」

「幽霊が見えない!?」


 ぎょっとして聞き返してしまった。

 一体何の冗談だ。除霊件数学年一位が見えない側の人間であるはずがないだろう。


「ああ、本当ですよ。僕は幽霊が見えません。一般家庭の出身なので」


 しかし山本博士は本気で言っているようだった。

 うちの学校は大抵、古来より除霊をしてきた人々の血を引く家系の娘息子がやってくる。そうでなくとも、幽霊が見えることは入学の最低条件……というか、見えないなんてことがあれば絶対に試験で不利になる。見えない生徒など聞いたことがない。


「じゃ、じゃあまさか、勘で適当に幽霊の位置を把握して除霊してるってこと……?」

「いえ、そういうわけでもありません。僕はこの眼鏡で幽霊の位置を把握しています」


 山本博士が己のかけている眼鏡を指差す。目の奥が見えない、サングラスのように色の付いたそれは、確かに普通の眼鏡ではないだろう。

 幽霊の存在を捉える眼鏡は珍しくない。しかしあくまで補助的な物であり、幽霊が見えない人がかけてもぼんやりとその位置が分かるくらいで、そこまで役には立たない。この男はそんなもの一つでこれまで好成績を残してきたと言うのか。


「……あんたって、やっぱり凄いんだね」


 思わずぽつりと本音が漏れた。


「真中さんの方が凄いですよ」


 屈託なく笑う彼は、謙遜しているという風でもなく、ただ純粋に私を褒めているようだった。



 昼休み終了間近になると、話を最後まで聞いた私に、山本博士は嬉しそうにティーカップを差し出してきた。


「お近付きの印に紅茶でもいかがですか。英国から取り寄せたロイヤルブレンドです」


 よく分からないが何だか高そうで、零さないようめちゃくちゃ気を使いながら飲んだ。

 すぐに午後の授業が始まってしまうので、味わう暇はあまりなかったが。




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