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ガリ勉優等生・山本博士の霊障事件手帖  作者: 淡雪みさ
FILE 1 落ち武者

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4/11

落ち武者を追いかける男



 その時、ドタドタと後ろから何かが走ってくる音がした。


 一体何かと思い振り向けば――落ち武者がいた。


 重厚な鎧。片側の装飾が欠け落ち、前立の歪んだ兜。刃こぼれが激しく、鞘の失われた刀。

 長く伸びきった髪は乱れ、乾いた血のようなものや泥が固まって絡みついている。


「……ええ?」


 私はぱちぱちと瞬きを繰り返し、咄嗟に落ち武者の進行方向から逃げるようにして廊下の端っこにずれた。

 さすが幽霊の温床、霊冥高等学校だ。何でもありである。


 落ち武者は私の横を通り過ぎていき、廊下の角を曲がって消えていく。


「お待ちなさい!」


 その後ろを早足で駆けていくのは山本博士だ。


 育ちがいいのだろう、歩く時の姿勢が異様にいい。

 見たところ急いでいるようだが、絶対に廊下を走らないところが彼らしかった。


 山本博士は曲がり角の前で立ち止まり、困ったように眼鏡のブリッジを中指で上げる。


「一体どこに……」


 もしや、さっきの落ち武者の行方を捜しているのだろうか。

 幽霊探しをしている時に申し訳ないが、とにかく早く用を済ませたくて、「……あの」と恐る恐る声をかける。


 その瞬間、山本博士の頭がぐりんッと勢いよくこちらに向けられた。


「おや、真中さん。こんにちは」

「え……。私の名前知ってるんだ」


 一度も喋ったことがないのに名前を呼ばれたことが意外で、ちょっと驚いた。


「当然ですよ、真中(まなか) 優眠(ゆみ)さん。クラスメイトではありませんか」


 ふふっと得意げに微笑まれ、何だかむず痒い心地になる。

 ずっとぼっちで存在感のない私の名前を覚えているなんて、きっとこの人くらいだろう。


 私は周囲に人目がないことを確認しつつ、鞄の中からミナトをそっと取り出した。


「おっと。可愛らしい猫ちゃんですね」


 山本博士が目を細めて近づいてくる。


「えっと……この子は……」


 私は腕の中の猫を見下ろし、こっそり目配せする。自己紹介、頼んだよという気持ちを込めて。

 しかし、ミナトは応答しなかった。


「ニャ〜」

「…………」

「ニャニャーン」

「……ちょっと、そうじゃないでしょ。お目当ての弟来たよ」

「ニャア」

「…………」


 このタイミングで人間の意識なくなる!? 冗談でしょ!? 今!?


「あの……この子、山本くんのお兄さんで……」


 どうにか山本博士に伝えようとするが、急に恥ずかしくなってきて、自分の声がどんどん小さくなっていく。

 こんな話誰が信じるんだ。痛い子だと思われるかもしれない。よりによってこんな真面目で優等生然とした人に、初対面で……いや、同じクラスだけど、ちゃんと話すのはこれが初めてだ。初めてがこれはまずい。絶対に変わった子認定される。

 やっぱりこんな話はやめようと思った時。


「そうなのですか!?」


 びっくりするくらいあっさり信じた山本博士は、ガシッと猫の体を掴んだ。


「ずっと捜していたのですよ! 嗚呼、こんな姿になって!」

「ニャア」

「どうしましょう、何を言いたいのか伝わってきません! かくなるうえは猫語を勉強するしか……! 本日から勉強メニューに取り入れましょうか」


 なんかすごい勢いで納得してるし、やる気になってるし。

 私は呆気に取られてしまった。


「…………嘘だって思わないの?」

「嘘なのですか?」

「い、いや、本当だけど。だってこんな話突拍子もないし、同じクラスだけど私あんたと話すのほとんど初めてだし、突然こんな……」

「学友の言うことを疑ったりなどしませんよ」


 きっぱりと言われて、一瞬、何も返せなかった。


 山本博士。何でもできる完璧超人。けれど、不思議と学内に敵はいない人物。彼の元には自然と人が集まってくる。

 それは彼の、こういう純粋な人柄のおかげなのだろう。

 捻くれていていつも一人ぼっちな私とは大違いだ。


「……落ち武者探し、邪魔してごめん。私の用事はこれだけだから。じゃあ」


 ひとまず目的は果たした。あとは二人でどうにかしてもらえばいい。

 さっさとこの不可解な出来事から離れたくて、私は踵を返す。

 ……が。


「ぶっ!」


 去ろうとする間際、思い切り顔面に何かがぶつかってきた。ふわっと柔らかくて、でもずっしり重みがある。

 視界が暗くなる。息が詰まる。


 私の顔面に飛びついてきたのは猫だった。前足を私の頬に引っかけて、しがみつくようにしている。耳元で微かに「ニャア」と不満げな声が響いた。

 山本博士はその光景を見ながら、どこか含み笑いをするような声で言った。


「……その猫、どうやら僕より真中さんの方が好きなようですね」

「いや、でも……こいつ、山本くんに会いたいって言ってたし……」


 私は猫を引きはがそうとしながら、慌てて反論する。が、猫はしっかりしがみついていて、全然降りてくれない。器用に背中を伝って私の肩に乗り、そのままふんぞり返って居座った。


 何この展開。わけが分からない。

 この猫を山本博士に引き渡して、それで全部終わるはずだったのに。


「――決めました」


 猫を肩に乗せたまま困っている私に、横から山本博士が満面の笑みを浮かべて告げてくる。



「ミス真中。僕とともに学校の除霊を行いましょう」





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