闇 一
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出口が見えない。左右も上下も分からない。黒い膜のような闇が、視界にまとわりついて離れない。俺はその中心にただ、ぽつんと立ち尽くしていた。
――動けない。
足に何か重たいものが絡みついているような、空間そのものが俺の自由を許していないような感覚だ。呼吸すらままならない。肺に入る空気が重く、どこかぬめついていて気持ち悪い。
「……ふふ」
耳の奥で、誰かの笑い声がした。
そっちを見ようとしても首が動かない。代わりに、足元から這い上がるようにその気配が近づいてくる。
――いる。ここに、俺の他に何かが。
ぬるりとした存在感が、闇の中でかたちをとる。
「ようやく話せるようになったね」
声がした。まるで骨と骨をこすり合わせるような、乾いているのに湿っている、そんな声だった。
ぼんやりと浮かび上がる白い輪郭。顔のような、顔じゃないような歪んだ笑みの形。
瞳は真っ黒で、そこに俺が映っている。ニヤリと笑う唇の端が、ゆっくりと釣り上がっていく。嫌な笑み。胸の奥が冷たくなる。
「お前、誰だ……?」
そう問う俺の声は、自分のものじゃないみたいに掠れていた。
その存在はなにも答えず、まるで猫でも弄ぶように、首を傾げてこちらをじっと見つめてくる。
「いい目をしていたよ。君は悪意に取り憑かれて、闇の底に沈んでしまった。……そんな君が、愛おしいんだ」
ぞくりと背筋が冷える。
言葉にしがたい気味の悪さが、皮膚の上を這う。息をするたびに、身体の中に何か異物が入り込んでくる気がして、吐き気がした。
「ここから出せ! 俺はこんなところにいたくない! 博士に会わせろ!」
ここは、どこだ。俺はどうして、こんな場所に。
不気味な視線がずっと俺を縫い止めている。
「あの子に会おうとしていないのは君だろう?」
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