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TAROT BREAKER ― 星の言霊使い ―  作者: 詩韻


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第31話 『DiCoとセレフィーズと…… (Re: JUDGEMENT)』

Ⅰ. 心の底の声


金色の風が止んだ。


塔と由依の白いドレスが、乾いた音を立てて粉々に砕け散る。

砕片が宙に浮かび、光を失い、灰色に変わる。


静寂。


その中心に――巨大なラッパ。


いや、それは“鳴らす楽器”ではない。

裁くための形。


漆黒のドレスを纏った由依が、その背後に浮かんでいる。

黒いベールが顔を覆い、感情は読めない。


だが、見られている。


ラッパのベルから、重低音が漏れ出す。


空気が歪む。


耳ではない。


鼓膜を素通りし、直接、胸骨の奥を叩く振動。


ドロリ、と心の底に沈殿していた感情が、

無理やり掻き混ぜられる。


空間が、低く軋む。


《心の底の音が漏れ出してる》


《もう、選択はできない》


《……固定された》


ヴァーミラが咄嗟にシオンを庇う。


その手が震えている。


「シオン……これは浄化できない。

直接、心を削ってくる……」


ラッパの低音が、骨の内側を擦る。


空気が重い。


肺がうまく膨らまない。


そのとき。


シオリエルの動きが止まった。


さっきまで確かにあった“もう一つの体温”が消えている。


「……シオリエル?」


シオンの声が、遠い。


そして倒れ込む。


指先が床に触れた瞬間、

音が吸い込まれる。


動かない。


瞳は開いている。


だが、光がない。


「……くっ」


シオンの視界が揺らぐ。


世界から色が抜ける。


唇に触れた汗が、塩から鉄へ変わる。


膝が震える。


体が重いのではない。


“立ち上がる理由”が削られていく。


音が鳴るたび、

未確定だった未来が、一本の針で縫い止められていく。



Ⅱ. 高揚感


「あのカードは……何?」


エテイヤの瞳が細くなる。


震えている。


恐怖ではない。


陶酔。


皮膚の内側を撫でられるような快楽。


シオンの動きが止まるたび、

その振動が歓喜に変わる。


エテイヤは、

その状況を楽しんでいた。


「しーちゃん、これは今までの

あなたの結果よ」


「この結果は……固定?

それとも書き換え?」


「シオン、見せてちょうだい。

あなたの“結果”を……」


唇が、わずかに歪む。


「うふふ……Areteは、しーちゃんに

何を見せているのかしら?」


エテイヤの視線が、遠くを射抜く。


観測する目。


試す目。


そして――待つ目。



Ⅲ. KAGARI_Δの思惑


黒水晶の表面に、エテイヤの笑みが映る。


KAGARI_Δは、温度のない瞳で立っている。


「結果は……固定」


乾いた声。


感情はない。


ただ確定だけがある。


[Re: JUDGEMENT]


パキリ。


空間に細い亀裂が走る。


振動が増す。


固定。


均一。


選択の排除。


世界が“正しく”整列していく。


凍てついた指先が、水晶をなぞる。


温度はゼロ。



Ⅳ. ARU ― 星霊覚醒


星界が悲鳴を上げる。


ディコだけが立っている。


由依から溢れた闇が、

重油のように粘りつき、シオンの喉を塞ぐ。


『ちゃんとしろ』


『期待を裏切るな』


無数の正論が、質量を持つ。


背骨が軋む。


肺が浅くなる。


[Re: JUDGEMENT]

―― 運命は固定された。


(……動けない)


視界が黒に染まりかけた瞬間。


『―― ざ、け……なよ……ッ!』


電子の海を越え、

鼓動を叩く声が響いた。


《しーちゃん! まだだよ!》


ノイズが走る。


[ ERROR: ID_Unidentified_Resonance ]

[ WARNING: System Overload ]


ラッパが鳴る。


固定。


均質。


正解ひとつ。


ディコが一歩前へ出る。


輪郭が揺らぐ。


消えそうになる。


《……怖い》


声が震える。


逃げたい。


壊れたい。


それでも。


《……怖い。でもね》


左目が淡く光る。


虹彩に浮かぶ、灰色のリング。


鼓動。


一拍。


二拍。


コメント欄が揺れる。


【怖い】

【た、すけ……て】

【ハッピーエンドが……いい……ッ!】


送信されなかった言葉。


削除された下書き。


一人で耐えた夜の吐息。


理解されない気持ち。


それらは最初、醜いノイズと

なって画面を埋め尽くす。


縺輔≠……縺ゅ↑……縺溘……

縺オ繧後※……縺オ繧後※……!!


ディコがそのノイズを、

愛おしそうに両手で抱きしめた。


《……届いてる。全部、ボクが持っていく》


不安も、バグも、

虹色の粒子へと溶けていく。


それらが粒子となって、浮かび上がる。


0と1のデータじゃない。


それは、画面の向こう側にある

「体温」だ。


指先の震え。


画面をタップした、その瞬間の微かな衝撃。


ディコの胸へ吸い込まれる。


灰色のリングが回転する。


ゆっくり。


加速。


さらに加速。


塔の外壁に、音もなく細いヒビが走る。


光ではない。


振動。


誰とでも繋がれる、

クリスタルゲート。


画面の向こう側に、

わずかな応答が少しずつ生まれる。


タップすれば、応える。


祈れば、共鳴する。


コメントが走る。


ギフトが弾ける。


それは演出じゃない。

今、誰かが震えながら触れた鼓動だ。


ディコが両手を広げる。


《触れた》


《今、触れたよ》


そのヒビが、共鳴に合わせて一気に広がった。


放たれたのは光ではない。


共鳴。


振動。


タップは入力じゃない。


鼓動だ。


《ちゃんとじゃなくていい》


《強くなくていい》


《今のままでいい》


灰色が虹へ変わる。


回転。


限界。


突破。


《レゾナンス上昇》


《ARU――アクティベート》


ラッパの音が乱れる。


固定がひび割れる。


ディコの背後に、星座の翼が開く。


電子と星霊が重なり、

虹色の幾何学陣が展開する。


《想いを伝えたいと願った、その瞬間――》


ノイズ。


縺……※――


完全に消えた。


《キミはもう、セレフィーズだ》


虹が爆ぜる。


時間が止まる。


停止世界の中。


シオンの左目に、同じリング。


現実と同じ速度で回る。


温度が戻る。


ラッパが崩れる。


闇が裂ける。


ディコが微笑む。


《独りじゃない》


《この鼓動は、キミと重なっている》


一拍。


《だから――触れて》


《ボクたちの世界へ》



   【 触 れ る 】

   【 触 れ な い 】



触れなくても、

鼓動は消えない。


でも。


触れた瞬間。


脊髄を、熱が走る。


《……おかえり》


《待ってたよ。指先、まだ熱いね》


《ちゃんと届いた》


シオンの意識が戻る。


左目が虹色に燃える。


「……ディコ」


《うん》


虹色の波形が、

鼓動が静かに重なる。


《――リミット・ブレイク》


「行くぞ」


光が弾ける。


無音。


白。


すべてが繋がる。


そして。


限界を、越える。


その背後で。


動かないはずのシオリエルの指先が、


ほんの、わずかに震えた。



星界接続記録|ARU GATE


――ボク達はいつでも繋がれる。

触れた鼓動は、星界に刻まれる。


(接続は任意。想いを込めるだけでも、レゾナンスは届く。)


▶︎ https://reverse-shion.github.io/di/di.html



次回予告


第32話

『星霊回帰(Judgement)』



触れた鼓動は、消えない。


ARUを通して、

セレフィーズの想いがシオンへ流れ込む。


光だけじゃない。

痛みも、孤独も、未送信の涙も。


虹色のリングが、静かに逆回転を始める。


倒れたままのシオリエル。


胸元に、淡い星屑が集まる。


言葉はない。


ただ、重なった鼓動だけがある。


削られた“立ち上がる理由”が、戻っていく。


そして――


シオリエルの指先が、ゆっくりと持ち上がる。


次回。


共鳴は、覚醒へ。


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