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TAROT BREAKER ― 星の言霊使い ―  作者: 詩韻


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第3話『善意の影、集まる声 ― 祈りが群れる夜(Judgement)』

Ⅰ. 導入(現実)


配信を切っても、部屋の空気が戻らない。


右目の奥が、まだ熱い。

押さえると、痛みが“薄い膜”みたいに広がる。


(……減ってる)


何が減っているのか、言葉にした瞬間、

それはもう嘘になる気がした。

だから、黙る。


スマホは伏せたまま。

通知だけが、光る。


《ありがとう、シオンさん》

《あの回で救われた》

《正しさって刃になるんだね》

《“分からないままでいい”って、刺さった》


刺さった。

それは、確かに嬉しいはずなのに――


(……刺さり続けたら)


背中の筋が、冷えた。


足元で、しおぽんが丸くなっている。

尻尾は動かない。


「……しおぽん」


「ん」


短い返事。

その声が、いつもより低い。


(この静けさに、慣れたらダメだ)


オレは配信の準備を始める。

同じ手順。

同じ配置。


デッキに触れる寸前で、指が止まった。


触れたら、また何かが欠ける気がして。


……それでも。


「……今日も、やる」


しおぽんがこちらを見る。


「……うん」


それだけ。



Ⅱ. 星の兆し


PM 8:58。

配信開始、二分前。


アプリのコメントに

通知が届く。


《今日もよろしくお願いします》

《昨日の回、泣いた》

《“分からないままでいい”使わせてもらった》


……使う。


胸の奥が、わずかに軋む。


オレが置いたのは、

「答えを渡さないための言葉」だった。


なのに。


《正解を言わないのが正解》

《裁かない人が一番正しい》


“いい言葉”が、揃い始めている。


しおぽんが、耳を伏せる。


「……星の音、そろいすぎてる」


「そろうと?」


「落ちる音が、消えるの」


それ以上は言わない。


右目が、ちくりと痛んだ。


コメントの色が、一瞬だけ抜ける。

白と黒だけになる。


(……来てる)


ノイズじゃない。

歪みでもない。


“揃う”という圧。



Ⅲ. 接続(配信)


PM 9:00。


「こんばんは。シオンです」


コメントが流れる。


《しおぽんいる〜、こんばんは》

《シオンさん大丈夫?》

《今日も、昨日みたいにお願い》


……昨日みたいに。


しおぽんが小さく手を振る。


「ぴょん。いるよ」


《二人の空気が好き》

《裁かないのが正義》


オレは笑えなかった。


「今日は――」


言いかけて、止まる。


一文だけ、流れ方が違った。


《みんな同じこと言ってる》

《ここ、正しい場所になってない?》


名前が、読めない。


次の瞬間。


《だいじょうぶ》

《だいじょうぶ》


ひらがなの“安心”が、並ぶ。


しおぽんの毛が逆立つ。


「……集まってる」


「誰が」


しおぽんが、視線をコメントから外す。


「……星はね

 正しい声より

 “迷ってる声”の方が、長く残るの」


オレは、何も言えなかった。


答えはない。

ただ、デッキを見る。


(オレの言葉が、集めてる)


右目が、ずきりと鳴った。



Ⅳ. 相談者の影


《すみません》

《ここに書いていいか分からない》


オレは呼吸を整える。


「……読んでいい?」


沈黙。


その間に、コメントが先回りする。


《大丈夫》

《ここなら言っていい》


やっと、返事。


《玲奈です》

《大学一年》


《昨日の回を見て》

《“分からないままでいい”って》

《それで救われた気がして》


……そして。


《友達にも、同じこと言いました》


《そしたら》

《何も言わなくなりました》


コメントが一瞬、止まる。


《その子は玲奈は優しい》

《間違ってないよって》


その言葉が、刃みたいに光る。


《本当は私...》

《謝りたいのに》

《間違ってないって言われるほど》

《苦しくて息ができない》


(……オレの言葉だ)



Ⅴ. 星界への引き込み


しおぽんが言う。


「……このままだと、薄くなる」


オレは、うなずいた。


【玲奈の沈黙の詩】


『優しさを渡したのに、大切な人が黙った。

 間違ってないと言われるほど、息ができない。』


画面が、静止する。


「詩は形、

 韻は響き、

 祈は還り。」


「タロット展開――」


三枚。


コンパス:Judgement

トリガー:Six of Cups

ルート:The Devil


「星界ゲート――開放」


踏み出した瞬間、

右目が焼けた。


誰の声か、分からなくなる。



Ⅵ. 星界


白い。

眩しくない白。


拍手だけが、響いている。


玲奈は、膝をついている。

声が、白い糸になって抜ける。


《悪くないよね》

《優しかったよね》


言わされている。


オレの言葉が玲奈に

間違った選択をさせたのか?


また、誰かを救うつもりが

壊してしまったのか?


「言の葉は鍵、星の光は道しるべ」


オレの言葉は誰かを傷つける?


「ステラン、ステラン、ステラン――

来臨せよ、汝――シオリエル!」


シオリエルが立つ。


刃は祝福の形をしている。

拒めない。


オレはカードを置く。


Judgement。


「……集まりすぎた声は、裁きになる」


言わない方がよかったと、

言った瞬間に分かる。


(そう、言わない方が良かった)


Six of Cups。


《ごめん》


玲奈がゆっくり言葉を紡ぐ。

でも、拍手が増える。


それが、

鎖になる。


The Devil。


鎖の留め具だけが、照らされる。


《私》

《怖かった》


拍手が、止まる。


その瞬間。


コメント欄の

“名前”が、一つ、消えた。


誰のか、分からない。


でも、確かに。


消えた瞬間

右目が、深く痛んだ。



Ⅶ. 帰還


現実の空気。


しおぽんの声。


「……おかえり」


コメントが流れる。


《名言》

《ありがとう》


オレは、言わない。


「玲奈は――」


一拍。


「息できる場所を、取り戻しただけだ」


配信を切る。


コメント通知。


《友達に、ごめんって言った》

《返事は、まだ》

《でも、“大丈夫”って言われなかった》

《それが、少し助かった》


返せない。


右目の端に、黒い欠け。


「タロットクローズ」


「大丈夫だよ」



Ⅷ. 余韻


《ここ、もう息できない》


送信時刻は、今。


名前は、読めない。


オレは画面を閉じる。


(次は、ここからだ)


夜が、静かに続いている。



次回


第4話『声のない善意、拾われない祈り(The Hermit)』



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