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TAROT BREAKER ― 星の言霊使い ―  作者: 詩韻


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第17話『痛みを抱いたままの強さ(Strength)』

プロローグ


——光は、嘘をつかない。

だが、光を扱えるかどうかは、

力の在り方で決まる。


澪に、どう返信したらいいのか。

シオンは、ずっと悩んでいた。


数日前。

スマホの画面に残った、短い言葉。


《今日、会える?》


それだけの一文なのに、

指が止まったまま、時間だけが過ぎていった。


会えば、何かが変わる。

それは、分かっている。


今まで保ってきた距離。

壊れていない関係。

“何も起きていない”という、安全な状態。


それを壊す勇気が、

まだ足りない気がしていた。


画面を伏せる。

通知は増えない。


(……どう返せばいい)


考えて、考えて、

それでも言葉は出てこなかった。


ふと、洗面台に置いたファンデーションが目に入る。

底が見えかけている。


(そうだ)


小さく息を吐く。


(デパートに行こう)


理由があれば、逃げなくていい。

用事があれば、言葉にできる。


スマホを持ち直し、

ゆっくりと打ち込む。


《今日、デパート行かない?

 ファンデ切れそうでさ》


送信。


少し遅れて、画面が震えた。


《いいよ。

 ちょうど会いたかった》


胸の奥で、何かがほどける。


強くなったわけじゃない。

覚悟が決まったわけでもない。


ただ、

一人で抱え込むのをやめただけだった。


それでも――

確かに“力”は、そこにあった。



デパートへ


昼下がりのデパート。


澪は、シオンの半歩前を歩いている。

人の流れを読むのが、昔から上手だった。


「久しぶりだね、こういうとこ」

「……そうだな」


並んで歩く距離が、少しだけ近い。

けれど、触れない。


床に映る二人の影が、

照明に照らされて、薄く重なっては離れる。


磨き抜かれた床は天井の光を無数に反射し、

星の海のように広がっていた。


人々の足元で揺れる光は、

それぞれの影を引き延ばし、

まるで“もう一つの顔”を映しているかのようだった。


シオンは、その光の中を歩いていた。

澪と一緒に。


コスメ売り場に近づくにつれて、

胸の奥に、別のざわめきが生まれる。


見られる自分。

澪に、そして――自分自身に。


メイク道具を手に取る指先が、わずかに止まる。


「そのファンデ、いつもの?」

「ああ。……もう、なくなりそうで」


澪は、何も言わずに隣に立つ。

見守るように、でも踏み込まない距離。


鏡の前を通り過ぎるたび、

映る顔が、少しずつ遠く感じられた。


知っているはずなのに、

どれも“本当の自分”じゃない気がする。


息を整えようとした、そのとき。


「やっぱり……シオンくんだ。」


香水の粒子が光を抱き、

その声が午後のざわめきを、やわらかく切り裂いた。


振り向いた先に立っていたのは――

アマトだった。


澪が、小さく首を傾げる。


「知り合い?」

「……ああ。学部は違うけどオレ達と

同じ大学だよ」


「はじめましてシオンの幼馴染の

澪です、よろしくお願いします」


「硬くならなくていいわよ、同い年なんだし」

「あたしはアマト、よろしく」


「フフフ、可愛い幼馴染さんねシオンくん」

「二人は付き合ってるのかしら?」


「なぁ!ち、違うよ、ただの幼馴染」

「シオンくん、かわいい照れちゃってフフフ」


《やっぱりシオンにとって私は

ただの幼馴染なんだ》


光が、揺れる。


ここから、力の本当の意味が試される。



Ⅰ. コスメ売り場


照明の下で、彼女の肌は金の粒を散らしたように輝いていた。

褐色の艶肌。そこに、バニラの甘さがほのかに溶ける。


黒いシャツの袖を少しまくり上げた腕元。

チェーンが小さく擦れて、シャラと音を立て、星のような反射を返した。


肩にかかる髪が光を撫で、

笑うと頬の陰影がやわらかく動く。


「それより……アマト、ここで働いてるのか?」


「そうよ。この光が好きなの。」


彼女は売り場を一望して、くるりと手を広げる。


「“綺麗になる”ってね、

 光と仲良くなることなのよ。」


ウインク一つ。

その言葉が、心の奥の鏡を軽く叩いた。



Ⅱ. Grace


「座って。顔、貸して♪」


アマトの指先が頬に触れた瞬間、

ひんやりとした感触が、まるで光そのもののように滑った。


「君の肌、悪くないけど……少し黄味が強いの。

 青みを足すと、光がもっと透ける。」


鏡の中で、彼女の横顔が近づく。

呼吸が頬を掠め、ファンデーションの香りが揺れた。


「緊張しなくていいの。

 あたし、無理に変えたりしないから。」


「いや、そういう問題じゃ……」

「ふふ、かわいい顔するんだもん。」


スポンジが軽やかに弾く音。

艶の層が肌に溶け、光の通り道が生まれていく。


「光は正直なの。

 隠すほど影は濃くなるけど、

 素直な顔には、ちゃんと寄り添ってくれる。


 ――力ってね、押さえ込むことじゃないの。」


その声は、

優しさの形をした力だった。



Ⅲ. 共鳴(ブラッシュアップ完全版)


「ほら、見て。」


鏡の角度が、静かに変えられる。

自然光では柔らかく、

ライトの下では輪郭が際立つ。


昼と夜の境界に、立たされているようだった。


「……すごい。別人みたいだ」

「違うわ。」


アマトは、即座に首を振る。


「これが本当の“君”。」


琥珀色の瞳が、光の粒を抱く。


「光は嘘をつかない。

 でもね、心が曇ると鏡も曇るの。」


距離が、少し近い。

香りが、混ざる。


そのとき――

澪が、何も言わずに一歩だけ位置を変えた。


割って入るわけでも、

離れるわけでもない。


ただ、視界に入る場所へ。


鏡の端に、澪の姿が映る。

穏やかな表情。

けれど、その笑顔は、どこにも向いていなかった。


(……あ)


シオンは、遅れて気づく。

自分が今、

誰の前に立っているのかを。


アマトの視線が、鏡越しに澪を捉える。

ほんの一瞬。


それだけで、十分だった。


「……なるほど」


小さな息。

楽しげで、測るような声音。


アマトは、何も言わずに一歩下がる。

距離を、戻す。


戻したはずなのに、

空気だけが、そこに残った。


「やっぱりメイクお上手ですね」


改めて向けられた声は、柔らかい。


「澪ちゃん、

 シオンくんの“光”をちゃんと見てる人ね」


澪は、少し考えてから答えた。


「……全部じゃないです」


正直すぎるほど、静かな声。


「でも、

 見えなくなったら嫌だなって思うくらいには」


その言葉は、

奪わない。

縛らない。


けれど――

逃がさなかった。


「ふふ……」


アマトは、微笑む。


それは譲歩でも、敗北でもない。


「いい共鳴ね」


そう言ってから、

再びシオンを見る。


「ね、シオンくん」


視線が戻った瞬間、

空気が、きしむ。


「強くなるってことはね……

 怖いものを、壊さずに見つめられるようになることなの」


その声は、

優しさの形をした力だった。


囁きが、耳の奥へ滑り込む。


「君の中に、ずっと眠ってる光がある。

 それがね……いま、少しだけ目を覚ましたの」


その瞬間、

シオンのブレスレットが、抗うようにではなく、

静かに――従うように光を返した。


アマトは、それを見て確信する。


「やっぱり。君の中に、星がある。」


鏡の奥で、

しおぽんの尻尾が、ふわりと揺れた。


――アマトには、それが見えていた。



Ⅳ. 光鏡(流れを保ったまま接続)


「また来てね。

 次は君に本当に似合う“光”を見つけてあげる。」


いたずらっぽい微笑み。


「あと、眉。触らせてね。

 もったいないのよ、その骨格」


冗談めいた声に、

張り詰めていた空気が、わずかに緩む。


シオンは、思わず笑った。


澪が、横から覗き込む。


「……シオン、デレデレしすぎ」

「メイクしてもらったんだから仕方ないだろ」


冗談は軽い。

けれど――


二人の間に、

戻らない距離感が、確かに生まれていた。


胸の奥で、

ゆっくりと、しかし確実に何かが動き始める。


星の光が鏡に反射し、

アマトの横顔を照らす。


それは“力”という名の、

ひとつの祈りだった。



Ⅴ. 星は囁く


“力”とは、誰かを押しのけることではない。

壊れても、優しさを失わない心。


そして――

自分の中の獣に、名前をつけて共に歩くこと。


鏡の奥で、光が脈動した。

星界が、ほんのわずかに開く音がする。


——光鏡の章。

この日、ひとりの魂が

「強さ」と「美しさ」を、同時に手にした。


それはまだ、誰にも知られない始まりの光。

やがて、涙の夜へと続く――運命の序章。



エピローグ|影の観測


星界の縁。

エテイヤは、楽しげに微笑んでいた。


「この子は、Areteが書き換える世界の子。

 ――でも、壊れない強さを選びそうね。」


背後に、二つの影。


「サヴァちゃん、ボニちゃん。

 よ〜く見ておきなさい。」



クールな声が応える。


「……エテイヤさま

Areteの歪み確かに発生している。」


明るい口調でもう一人が

「エテイヤさまが楽しそうだと、ボニも嬉しいよ!」

「ふふ、ボニちゃん、いいこと言うわね。」


一拍遅れて。


「あっ……わ、わたしだって嬉しいよ……エテイヤさま。」


「ありがとう、サヴァちゃん❤︎」


エテイヤは、愉快そうに囁いた。


《さぁシオンくん。

 その子の世界を、Areteはどう映し出すのかしら》


《あなたにだけ見える世界で》


光は、嘘をつかない。

だが――

真実を見る資格を持つ者は、限られている。



次回


第18話

『触れてしまった意思と、触れていた残響(The Magician)』


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