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TAROT BREAKER ― 星の言霊使い ―  作者: 詩韻


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第13話『決められた線、外れなかった歩幅 ― 見えてしまった未来(Death)』

Ⅰ. 導入(現実)|タダで、気軽で、充分な朝


朝の街は、忙しい。

でも、急いでいるのは足だけで――心は、急いでいない。


「Etera、昨日の件、あやまっといて」

『了解。関係修復率の高い文面で送信します』


「Etera、夕飯の買い物お願い」

『買い物リストを作成しました。最短ルートも提示します』


「Etera、ダイエットに効く食事とトレーニング」

『あなたに最適な組み合わせを提案します』


誰も隠さない。

誰も恥じない。


便利で、無料で、手触りが軽い。

それが生活に溶けた世界で、

迷いだけが、置き去りになっていく。


駅前のベンチで、

誰かがスマホを見たまま、小さく頷いた。


画面には、

《送信完了》

の文字。


指はもう、戻る場所を探していなかった。


部屋に戻ると、机の端のタロット箱が、やけに重く見えた。

触れていないのに、そこだけ在り方が濃い。


右目の奥が、熱い。

痛みじゃない。

焦点が、合いすぎている。



Ⅱ. 星の兆し|入口が、薄い


ソファの端に、しおぽんがいた。

今日は跳ねない。

目だけが、静かにこちらを見ている。


「シオンさま」

「……ん」


しおぽんは胸に手を当てた。

耳じゃなく、“中”を聞く仕草。


「きょうね……音が、来ないぴょん」

「来ない?」

「うん。……返ってこないの」


それ以上は言わない。

言った瞬間、説明になってしまうから。


オレは配信の準備をする。

いつもの手順。

いつもの配置。


それなのに、右目の奥だけが、

別の速度で動いている。



Ⅲ. 接続(配信)|視聴者はいる。相談がいない。


PM9:00。

配信開始。


「こんばんは。シオンです」


コメントは流れる。

でも、流れ方が違う。


《こんばんは》

《今日も待ってた》

《Eteraで決めたよ》

《この前の件、Eteraのおかげで成功した》


報告。

完了。

結果。


相談がない。


(……そりゃそうだ)


気軽に聞ける。

タダ。

早い。


何より、

責任が自分に戻ってこない。


《相談ってほどでもないんだけど》

と前置きしてくる人すら、いなくなった。


喉が、少しだけ乾く。

待つつもりでいた言葉が、行き場を失う。


右目の奥で、

薄い線が一本、浮く。


画面の端から端へ――

一本だけ。



Ⅳ. 相談者の影|選ばない、を選ぶ


占い希望は、ゼロ。


オレは、わざと間を置いた。

待つという行為だけを、残した。


待っても、来ない。


コメント欄は優しい。


《雑談でいいよ》

《それが1番》

《無理しないで》


優しい。

優しいから、止まらない。


その中に、ひとつだけ、

流れと温度の違う文字が混じる。


《Eteraの文面で、別れ話送った》

《すっきりした》


その直後。


《……まだ既読つかない》


オレの右目が、勝手に拾う。

その名前の背後に伸びる線だけが、

他より少し、濃い。


視聴者の名前の列。

そのひとつひとつの背後に、細い線が伸びている。


みんな、同じ太さ。

同じ角度。

同じ終点。


分岐がない。


(……決めてない)


違う。

決めてないんじゃない。


(……決めさせてる)


選択を委ねる。

判断を預ける。

責任だけを、手放す。


その軽さが、

もう“当たり前”になっている。



Ⅴ. 星界への引き込み|広がらない。一本道だけが伸びる


ふっと、部屋の温度が変わった。


星界の気配。

いつもの“入口”の感触。


――なのに、広がらない。


空間は開かず、

ただ、一本の道だけが奥へ伸びる。


右目が、焼けるように熱くなる。


コメント欄。

街。

駅。

改札。


すれ違う人の数だけ、

同じ線が、同時に走る。


世界が、

同じ書式で固定されていく。


(……やめろ)


止めたいのに、止まらない。


知ってしまった以上、

なぞる以外の動作が、

世界から削除されていく。



Ⅵ. 星界対話/覚醒|呪縛としての「Arete」


起動句が、喉を勝手に通った。


「詩は形、

 韻は響き、

 祈は還り」


言った。

確かに、言った。


それなのに、

何も返ってこない。


いつもなら、

画面の向こうから

“何か”が流れ込む。


今日は、流れ込まない。


空のまま、

確定だけが走る。


机の上のタロットに、

手を伸ばしかけて――止めた。


切れば、固まる。

切らなければ、どうなるかは分からない。


それでも。


カードの一番上が、

わずかに、音を立てた。


〈正義〉。


天秤は傾かない。

剣も、振り下ろされない。


白だったはずの余白が、

ゆっくりと沈む。


黒は塗られない。

残る。


線だけが、くっきりと残ったまま。


オレは、息を吐いた。


「……測れなくなったな」


三枠が、

それでも強制的に固まっていく。


コンパス:測れない正しさ

トリガー:逸脱しない安心

ルート:一本道


「……決めるな」


誰に向けた言葉か、分からない。

当然、通じない。


それは力じゃない。

予言でも、祝福でもない。


世界が、

オレを通して

“終わる”ようになっただけだ。


そのとき、

視界の端に、澪が映った。


――違う。

映像じゃない。


「言えなかった」だけが、

影みたいに残る。



澪は、スマホを見ていた。


《関係修復率の高い謝罪文》

《角が立たない言い回し》


「Etera……」


送信ボタンの直前で、

指が止まる。


「……そうじゃなくて」


私が言いたいのは――


言葉にならない。

理由も、整理も、ついていない。


ただ、

シオンの顔がよぎる。


迷いを置いたまま、

それでも言葉を選んでいる横顔。


澪は、文章を消さずに、

画面を伏せた。


送らなかったわけじゃない。

でも、任せきらなかった。


未送信の言葉だけが、

胸に、引っかかりとして残る。



Ⅶ. 侵食|減っていく光


無数の線が固定された、その瞬間。


世界の裏側で、

誰かが、静かに息を吐いた。


澪によく似た輪郭。

でも、澪じゃない。


エテイヤが、薄く微笑む。


喜びでも、嘲りでもない。

“整った”ものを前にした表情。


「……セレフィーズ、減ってる」


その言葉は、説明じゃなかった。

ただ、事実に名前を貼っただけ。


星の気配が、薄くなる。

生きる熱が、静かに下がっていく。


誰も泣かない。

叫ばない。


火だけが、

音もなく小さくなる。


エテイヤは、その減り方を見て、

満足そうに息を整えた。


そして、オレを見る。


「きれいだね」


甘くも、優しくもない声。


「揺れないのが、好き」


一歩、近づく。


「わたしのアレットちゃん」


呼びかけは祝福じゃない。

所有でもない。


固定されたものを、

ただ、欲しがる声だった。



Ⅷ. クローズ|助かった、の意味


オレは、配信画面に戻る。


視聴者数は、減っていない。

でも、誰も、何も預けていない。


「……今日は、ここまでだ」


コメントが流れる。


《おつ》

《頑張ったね》

《最適》


頑張った。


その言葉が、

胸に刺さらない。


刺さらないまま、

世界をなぞってしまう。


「タロットクローズ」


一拍、置いて。


「……大丈夫だよ」


言った瞬間、

右目の熱が、少しだけ残った。


――消えなかった。



Ⅸ. 余韻/次回予告|見えなかったもの


配信が終わり、

部屋が静かになる。


オレは、鏡の前に立った。


右目は、世界を見る。


街も、人も、未来も。

どれも一本の線で、

迷いなく伸びている。


決められた未来。

最適な1つの未来を

指し示す。


「なんだよこれ」

「オレをこれ以上苦しめないでくれ!」


なのに。


「はっ!?」


鏡の中の自分だけが、違った。


線が、ない。


どこへ向かうのか。

どこで終わるのか。


何も、見えない。


世界は固定されているのに、

自分だけが、未記入のまま残っている。


見えてしまったのは、

世界の未来だ。


――自分の未来だけが、見えなかった。


背後で、

空気が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


振り向く前に、

その気配は消える。


次回予告

第14話

『悪魔 ― それでも欲しいと言ったもの(The Devil)』

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