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私は…味方だ

「が、あああああっ!」


リリスの喉から、声帯を引き裂くような絶叫が迸った。


砕けた両手首から伸びる真紅の茨が、オーガの戦槌を受け止め、きしりきしりと音を立てて拮抗する。


骨が粉砕される感触。


肉がすり潰される痛み。


リリスはそれを拒絶せず、むしろ燃料として飲み込んだ。


「もっと……もっと、血を……!」


彼女の意志に応じ、千切れた血管から噴き出す鮮血が、茨の根元に吸い込まれていく。


血液という純粋な血を得た植物は、爆発的な成長を見せた。


細かった蔦が瞬時に丸太のような太さへと膨れ上がり、鋭利な棘が鋼鉄の硬度を獲得する。


茨は蛇のように絡み合い、巨大な盾となって戦槌の圧力を押し返し始めた。


「深紅の咎よ、我が命を喰らい尽くせ! 穿て――【紅茨】!」


リリスが血を吐きながら詠唱を完遂した瞬間、茨の先端が一斉に開花した。


花弁に見立てた無数の棘が、散弾のように射出される。


至近距離でそれを受けたオーガ・バーサーカーが、苦悶の咆哮を上げた。


鋼鉄の皮膚すら貫く棘が顔面に突き刺さり、片目を潰された巨人がたたらを踏む。


均衡が崩れた。


リリスは茨を鞭のように振るい、よろめいたオーガの足元を払った。


ズシンという地響きと共に、3メートルの巨躯が石畳に倒れ伏す。


だが、その代償は甚大だった。


限界を超えた魔力の奔流は、リリス自身の肉体を内側から破壊し尽くしていた。


ブチブチと嫌な音が体内から響く。


過負荷に耐えきれなくなった全身の毛細血管が一斉に破裂したのだ。


リリスの白い肌がみるみるうちに赤黒く染まり、目、鼻、耳からどす黒い血が流れ落ちる。


視界が赤一色に塗り潰され、平衡感覚が消滅する。


「な……なんだ、あれは……!」


背後から、震える声が聞こえた。


リリスは霞む視界で振り返ろうとした。


そこには、武器を構えた数人の冒険者たちが立っていた。


彼らの瞳に宿っているのは、感謝でも安堵でもない。


純粋な、原初的な「恐怖」だった。


砕けた手足から植物を生やし、全身から血を噴き出しながら魔物を倒す異形。


それは彼らにとって、守護者ではなく、新たな化け物にしか見えなかった。


「魔物だ! 魔物が中に入り込んだぞ!」


「殺せ! エヴァ様に近づけるな!」


「ひ、怯むな! 魔導師、火を放て!」


冒険者の一人が、震える手でクロスボウをリリスに向けた。


魔術師が杖を構え、攻撃魔法の詠唱を始める。


違う。


私は、リリスだ。


叫ぼうとしたが、喉から溢れる血が言葉を塞いだ。


「ごぼッ……!」


リリスは膝をついた。


茨が力を失い、ズルズルと床に広がる。


味方であるはずの彼らからの殺意が、物理的な刃となってリリスの心を切り刻む。


その一瞬の隙だった。


エヴァの背後にある窓ガラスが、音もなく砕け散った。


侵入したのは、鱗に覆われた緑色の影。


リザードマン・アサシン。


混乱に乗じ、死角から忍び寄っていた暗殺者が、音もなくエヴァの背後へと躍り出た。


手には毒を塗った曲刀が握られている。


エヴァは冒険者たちの叫びに気を取られ、背後の殺気に気づいていない。


リリスの赤い視界の端に、振り上げられる凶刃が映った。


前には、自分を殺そうとする冒険者たち。


後ろには、エヴァを殺そうとする魔物。


「あ……」


リリスは血まみれの手を、エヴァの方へと伸ばした。


曲刀が、エヴァの細い首筋へと振り下ろされようとしていた。

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