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今度は、私が守る

雨は止むことなく泥濘んだ大地を叩き続けている。


暗闇の中、赤く発光する魔石の光だけが、周囲を囲む男たちの歪んだ表情を断続的に照らし出していた。


「やれ!」


ボルコフの短い命令が、死刑宣告のように響く。


同時に、四方から雄叫びが上がり、刃の切っ先が二人へと殺到した。


「光よ、拒絶せよ――【聖域の盾】!」


エヴァが叫び、両手を広げる。


その掌から眩い光が噴出し、彼女とリリス、そして馬車の残骸を半球状に包み込んだ。


ガキンッ、ガガガッ!


数多の刃が光の壁に激突し、火花を散らす。


盗賊たちの攻撃は無慈悲で、重い一撃が加わるたびに、障壁は悲鳴のような音を立てて震えた。


「くっ……!」


エヴァの足が泥に沈む。


彼女の顔からは血の気が失われ、額には汗が滲んでいた。


治癒を本分とする彼女にとって、広範囲の物理防御を維持し続けることは、魂を削るような激務であった。


リリスは、その光のドームの中で、短剣を両手で握りしめていた。


冷たい雨が頬を伝い、唇に入る。


鉄の味と、泥の味がした。


彼女の視線は、エヴァの背中に釘付けになっていた。


あの夜、地下水路で見た、自分を導いてくれた背中。


決して汚されるべきではない、聖なる背中。


守らなきゃ。


今度は、私が。


恐怖で膝が笑っている。


心臓が早鐘を打っている。


だが、それ以上に、「この人を失いたくない」という強烈な想いが、彼女の体を突き動かした。


リリスは障壁の端、エヴァの視線が届かない死角へと走った。


そこには、障壁の薄い部分を狙って、一人の男が斧を振り下ろそうとしていた。


「させない……!」


リリスは短剣を突き出し、男の腕を狙った。


バルガスに教わった通り、殺すためではなく、動きを止めるために。


「あ? なんだこのガキ!」


男は驚いて斧を引き、その隙にリリスは泥に滑り込みながら男の足元を蹴った。


体勢を崩した男は、舌打ちをして後退する。


だが、敵は一人ではない。


次から次へと、新たな影が襲い掛かる。


「ちょこまかと……!」


別の男が剣を突き出す。


リリスはそれを短剣で受け流そうとしたが、大人の男の膂力には抗えず、弾き飛ばされて泥の中に転がった。


冷たい泥水が口に入る。


全身が痛む。


それでも、彼女は即座に這い上がった。


「リリス! 下がって!」


エヴァの悲痛な叫びが聞こえる。


しかし、リリスは首を横に振った。


「嫌です! エヴァさんこそ、逃げて……!」


彼女は再びエヴァの前に立ち塞がった。


泥だらけの小さな体で、震える短剣を構え、獣のような数多の殺意に対峙する。


自分には価値がないと思っていた。


けれど、この人の命を守る盾になれるなら、この命には意味が生まれる。


そう信じて、リリスは必死に刃を振るった。


「ハッ、いいザマだ。続けろ、もっとだ!」


ボルコフの高笑いが雨音に混じる。


彼は自ら手を下さず、安全圏から獲物が消耗していく様を愉しんでいた。


エヴァの呼吸が荒くなる。


障壁の光が明滅し、その輝きが目に見えて弱まっていた。


「聖なる源流よ……まだ、耐えて……!」


彼女は歯を食いしばり、魔力を絞り出す。


だが、限界は近かった。

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