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夜の慰み物としての再会

オルレアン侯爵邸の「水晶の間」は、人間の虚栄心と権勢欲が凝縮され、結晶化したかのような空間であった。


その名は、天井から吊り下げられた、数千、数万の水晶片で構成された巨大なシャンデリアに由来する。


それはまるで凍てついた太陽のように、魔力光を乱反射させ、その下に集う人々の顔を、青白く、そしてどこか非現実的に照らし出していた。


壁という壁は磨き上げられた巨大な鏡で覆われ、無限に続く回廊のように、この絢爛たる光景をどこまでも映し込み、空間を現実以上に広大に見せかけている。


床には、遥か東方の砂漠の国から献上されたという、深紅の絨毯が敷き詰められ、その柔らかな毛足は、貴人たちの靴音すらも吸収し、この祝宴のざわめきを、どこか夢の中の出来事のように変質させていた。


リリスは、その夢幻の光景の、最も暗い片隅に、まるで忘れ去られた置物のように佇んでいた。


彼女はバーンズ子爵によって、他の数十人の少女たちと共に、今夜の祝宴を彩る「花」として、この侯爵邸に「納品」されたのだ。


彼女たちが纏うのは、薄い絹で仕立てられた、揃いの簡素なドレス。


それは肌の大部分を露わにし、その存在が装飾品であり、同時に慰み物であることを、無言のうちに物語っていた。


他の少女たちが、緊張と、あるいは僅かな期待に頬を紅潮させている中で、リリスだけが、その表情から一切の感情を消し去っていた。


彼女の青い瞳は、シャンデリアの光を反射して、ただガラス玉のように冷たく輝くだけで、そこに映る豪華絢爛な光景も、行き交う人々の嬌声も、何一つ彼女の心には届いていない。


その魂は、この場所にはなく、ただ、地下牢の暗闇にいる母の元へと、帰り着いていた。


突如、楽団が高らかにファンファーレを奏で、広間の全ての視線が、黄金の装飾が施された巨大な両開きの扉へと注がれた。


荘重な音楽と共に扉がゆっくりと開かれ、この祝宴の主役である三人の英雄が、主催者であるオルレアン侯爵に先導され、その姿を現した。


瞬間、会場は割れんばかりの拍手と、熱狂的な賞賛の声に包まれた。


貴婦人たちは扇で口元を覆いながらも、その瞳は好奇心と崇拝の光で爛々と輝き、貴族たちはグラスを片手に、計算された賞賛の言葉を口々に囁き合った。


それは、勝利という名の美酒に酔いしれる、国家規模の祭典の幕開けであった。


その賞賛の嵐の中心に、ゼノンは立っていた。


今日の彼は、戦場での無骨な全身鎧ではなく、帝国の紋章が刻まれた白銀の儀礼鎧を纏っていた。


それは彼の鍛え抜かれた肉体の線を、より一層、彫刻のように際立たせ、英雄という名に相応しい、神々しいまでの威厳を放っていた。


しかし、その硬質な金属の輝きとは裏腹に、彼の表情は、まるで石膏の仮面のように硬く、冷え切っていた。


その灰色の瞳は、目の前で繰り広げられる歓迎の光景を一切映さず、ただ、この空間の、もっと遠い何かを射抜くように、虚空を見つめている。


六年前、娼館の庭で少女に微笑みかけた騎士の面影は、そこには微塵もなかった。


そこにいるのは、数多の死線を潜り抜け、その魂に無数の傷を刻み込まれた、一人の戦士の姿であった。


リリスの視線は、感情の波を一切伴わずに、壁際からその光景を眺めていた。


彼女の虚ろな瞳が、人々の輪の中心に立つゼノンの姿を捉える。


その顔、その姿は、六年の歳月と、戦争という名の業火によって、大きく変貌していた。


しかし、リリスは、一瞬の躊躇もなく、彼が六年前のあの騎士であることを認識した。


*ああ、あれが、あの騎士か。*


その認識は、彼女の心に、何の波紋も、さざ波すらも立てなかった。


かつて、おとぎ話の王子様のように見上げた憧れの対象。


その記憶は、バーンズ子爵の寝台の上で、とうの昔に殺された。


今の彼と自分との関係は、ただ一つ。


英雄と、その夜の慰み物として差し出される、数十の奴隷の中の一人。


所有物として、かつての所有者候補に再会する。


その冷徹で、あまりにも残酷な事実だけが、彼女の思考の中で、無機質な文字列のように、ただ静かに浮かんでいた。


ゼノンは、オルレアン侯爵や他の貴族たちからの、終わりのない賞賛の言葉に、ただ機械的に頷きを返していた。


その心は、この偽善に満ちた祝宴から、完全に遊離していた。


彼の意識の片隅では、いまだに、あの赤いバラと、汚れを知らない少女の瞳が、消えることのない残像となって明滅している。


無意識のうちに、彼の視線が、喧騒から逃れるように、会場の隅々を彷徨い始めた。


その視線が、偶然、壁際に並ぶ「花々」の一群へと向けられる。


その中に、ひときわ異質な、感情の抜け落ちた青い瞳を持つ少女がいることを、彼はまだ知らない。


彼の視線がその場所に届く寸前、隣に立ったリアムが、冗談めかして彼の肩を叩き、その意識を現実に引き戻した。


ゼノンは僅かに眉を顰め、再び目の前の虚ろな会話へと戻っていく。


一方、リリスは、ただひたすらに、自分の「奉仕」の順番が訪れる、その瞬間を、時の流れから切り離された存在のように、静かに待ち続けていた。



【作者よりお願い】


もし、この物語の中に

胸に引っかかった感情が、ほんの少しでも残ったなら。


苦しかった。

切なかった。

救いが見えなかった。


それでも――

「この先を、最後まで見届けたい」

そう感じていただけたなら。


評価【★★★★★】や、

続きを忘れずに辿っていただくための

【ブックマーク】をしていただけましたら、

それだけで、この物語は救われます。


あなたが感じてくれた、その気持ちが、

この物語を、最後の一行まで導いてくれます。


ありがとうございます。

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