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異端審問所

神聖ルミナール帝国の心臓部、帝都ルミナリス。


その地下深くに位置する異端審問所は、地上に溢れる栄光と秩序の光が決して届かぬ場所である。


冷たい石壁に囲まれた執務室の空気は、澱み、血と鉄錆の微かな臭気が染み付いている。


魔導灯の蒼白い光だけが、卓上に積み上げられた羊皮紙の山を照らし出していた。


ヴァレリウスは、革張りの椅子に深く身を沈め、サラスから早馬で届けられた封蝋付きの書簡を指先で弄ぶ。


彼は封を切り、羊皮紙を広げた。


インクの匂いと共に、フィオナ・エルハートの几帳面で神経質な筆跡が目に飛び込んでくる。


「サラス防衛線の崩壊」、「魔族の大規模侵攻」、「重要機密の盗難」。


並べられた単語は、帝国の威信を揺るがす失態の羅列であり、本来ならば憂慮すべき事態である。


だが、ヴァレリウスの口角は、書類を読み進めるにつれて、三日月のように吊り上がっていった。


彼の視線が、ある一点で止まる。


「魔族内通者の確保」。


「対象:リリス。魔族の血を引く混血種。銀髪、十代後半の少女の容姿を有す」


添付された魔法印画紙には、遠距離から隠し撮りされたと思われる少女の姿が焼き付けられていた。


ヴァレリウスは、その紙片を魔導灯の光にかざし、ためつすがめつ眺める。


銀色の髪、硝子細工のような瞳、そして未成熟ながらも完成された肢体。


そこには、魔族特有の醜悪な角も、鱗も、牙も見当たらない。


純粋な、あまりに純粋な人間の美貌がそこにあった。


「……素晴らしい」


ヴァレリウスの唇から、恍惚とした吐息が漏れる。


これまで彼が「処理」してきた異端者は、狂気に侵された老人や、薄汚れた魔物、あるいは恐怖に顔を歪めた罪人ばかりであった。


だが、この獲物は違う。


まるで聖女のような無垢な皮を被った、穢れた魔性の種。


その美しい器が、苦痛によってどのように歪み、絶望によってどのように壊れていくのか。


想像するだけで、彼の背筋を甘美な震えが走り抜ける。


ヴァレリウスは立ち上がり、壁に掛けられた拷問器具のコレクションを見上げた。


棘のついた鞭、肉を引き裂く鉄の爪、精神を侵食する魔導針。


どれもが、真実を暴くための聖なる道具であり、彼の愛すべき玩具である。


彼は最も愛用している銀製の細工針を手に取り、その先端を指の腹で愛おしげに撫でた。


「早く来い、リリス」


冷徹な執務室に、粘り気のある声が響く。


「その綺麗な顔が、恐怖でどれほど美しく歪むのか。その喉が、どのような声で啼くのか」


彼は針を卓上に突き立てた。


「私が、骨の髄まで愛してやろう」


帝都の闇の中で、審問官は新たな「魔女」の到着を、恋人を待つような情熱で待ち受けていた。


扉の外では、重い足音が響き、新たな犠牲者の悲鳴がどこか遠くから聞こえてくる。


だが、ヴァレリウスの関心は、既にまだ見ぬ銀髪の少女一人に注がれていた。

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