Ep.2 始まりの村
「吸血鬼の殺人事件?」
朝10時頃。旅人の少年は立ち寄った村でこの村在住の1人の老婦人と会話をしていた。少年の後ろでは少女が1人退屈そうにしている。彼らはいかにも10代半ばといったラフな装いだが意外にも少年は丁寧な口調で老婦人と会話を続けている。
「えぇ今朝、日も出てない頃、お隣の若い娘さんが亡くなっていたのだけどね。まるで血が吸われたみたいに干からびた遺体だったらしいのよ。
しかも、首筋に穴が空いたような傷跡までついてたみたいでね…」
「へぇ〜、それで吸血鬼なんて話になったんですね」
「そうなのよ〜。しかもここのお年寄りはそういうことを信じやすいから心配でね。夜になってから変にパニックになったりしないといいけれど…貴方たちもすぐにここを経った方がいいわ」
この老婦人は今朝この村に来た彼らを心配して声をかけてくれたのだ。街から程々に遠い場所に位置しているこの村は自然豊かで穏やかな空気が馴染んでいる。しかし今は少しピリついた緊張感も同時に併せ持っていた。
少年が今後の相談のために少女に振り返る。しかし背後には少女はおらず空振りに終わってしまった。どうやら既にどこかへ行ってしまったらしい。少年が周りを見渡すと背後の奥の方、駅があるあたりを歩いている同行人の少女を見つけた。駅手前に並んでいる地蔵を興味深そうに眺めている。ため息を吐いた少年が振り返った時、今度は新しい声が少年の耳に届いた。
「あれ?お客さんじゃん!しかも若い人なんて珍しいね〜」
「あらツバキちゃんおはよう。朝から元気ね〜」
声をかけてきたのは元気そうな少女だった。ツバキと呼ばれたその少女は動きやすいような服装をしており、少し疲れた様子で僅かに上がった息が白く曇っていた。髪を高い位置で結んでおり、簪のようなもので留められていた。
「でもツバキちゃんも聞いてるでしょう?事件があったばかりだからあんまりお外をウロウロしてはダメよ?」
「でも暇だったんだもん!ちょっとくらいいいでしょ?そんなことよりそっちの人どうしたの?」
少女は老婦人の注意をものともせずに少年に言葉をなげかける。
「俺は旅人でな、あっちにいる同行人と旅をしていてちょうどここに寄ったんだが…どうにも間が悪かったみたいだな。」
少年は一瞬悩んだ後、砕けた口調で話し始める。しかし少女は気にした様子もなく興味深そうに目を輝かせる。
「え!めっちゃ若いのにすごいじゃん!今何歳?2人旅?どこから来たの?どうしてここに寄ったの?」
質問を捲し立てる少女。さっきまでの疲れていた様子はどこへやら。興味津々といった様子で少年に詰寄る。少年が困っていると老婦人が助け舟を出すように会話に混じる。
「それならうちでゆっくりお話したらどうかしら?ついでにお昼ご飯も食べていきなさい。きっと主人も喜んでくれるわ」
「ほんと!?おばちゃんありがとう!」
「いいんですか?こんな行きずりの人間がお邪魔しちゃって…」
「いいのよいいのよ!うちは普段からお店を開いてるから、お客さんだと思ってゆっくりしていって」
「そうなんだよ!おばちゃんとこのご飯はめっちゃ美味しいんだよ!」
「そこまで言うのなら…ご厚意に甘えさせて貰いますね。ありがとうございます」
「そんな畏まらなくてもいいのよ。もっと気さくにしてくれていいからね」
「それじゃあ私は帰って準備するから、寄り道せずに来るのよ?」と一言残して老婦人は先に帰ってしまった。そしてちょうど入れ違いになる形で同行人の少女が帰ってくる。手にはペットボトルが2本握られている。どうやら自販機を探していたらしい。
「あら?さっきのおばあさんは?」
「ちょうど今帰ったよ。お昼ご飯ご馳走してくれるんだってさ。後でお前からもお礼言っといてくれ」
そのまま適当に言葉を交わしながらペットボトルがプラプラとゆらされる。受け取ろうと差し伸べた少年の手は、しかし空を切る。同行人の少女はそのまま自分のカバンに2本とも仕舞ってしまった。別に少年の分を買ってきてくれたわけではないらしい。こめかみを押える少年を他所に会話は続く。
「それでこっちのお嬢さんはどなたかしら?」
同行人の少女は簪の少女へ目を向ける。簪の少女は待ってましたとばかりに楽しそうに話し始める。
「あたしは鬼灯椿!ツバキって呼んでね!いっぱい外の話が聞かせて欲しいな!」
「あらそう?なら取っておきの話をしてあげるわ。私はイヴよ。イヴ・キャメルローグ。好きに呼んでちょうだい。」
「そういえば俺も自己紹介してなかったな。俺はシン。シン・アトラスだ。よろしく」
「それにしてもツバキの名前はあまり聞かない響きね。東方特有の名前なのかしら?」
「なんか遠くの国の言葉から取ったらしいよ?お母さんがそこの出身だったんだって。」
そんな他愛ない会話をしながら歩みを進める。こことはまた違った大自然の話、あるいは人々の繋がりが生み出した人間ドラマ。そんな旅の話をツバキは楽しそうに聞いている。しかし次第に彼女はソワソワとしだし遂には足を止め、意を決したように口を開く。
「ねぇ2人とも、吸血鬼退治に興味はない?」




