わたくしの妹は何でも“欲しgirl”
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
「それ、お姉様の新しいティアラですわよね? わたくし、それも欲しいですの」
……また始まりましたわ。
わたくしの名は、レイシア・ホシガーリ。大貴族ホシガーリ侯爵家の長女にして、王立学園でも常にトップの成績を誇る、正統派お嬢様ですの。
美貌、気品、財力、そして頭脳。何一つ欠けたものはありません。
──ただし、妹という“厄介な不具合”を除いては。
「お姉様って、なんでも持っていて、ずるいですわ。わたくしにも同じものをくださいな〜」
そう甘えた声で言うのは、妹のリーネ・ホシガーリ。
一見は愛嬌のある少女ですが、本性は──“わたくしの持ち物を何でも欲しがる少女”。そう、世に言う何でも“欲しgirl”ですの!
ドレス、宝石、舞踏会の誘い、夜食の焼きリンゴに至るまで、わたくしが持っていると知れば「欲しい」と言い、あらゆる手段で奪い去る……。
ときには腐った野菜の残りまでも。
「お姉さま、そのお野菜……美味しそうですわ。わたくしにくださいませ」
止める間もなく口に運び、案の定、翌日はお腹を壊す始末。
またあるときは、わたくしの破れたドレスに目を輝かせ──
「お姉さま、そのドレス……斬新ですわ! “ダメージドレス”という新時代の流行ですわ。わたくしにくださいませ」
──と強奪し、止める使用人たちを振り切って学園に登校。
もちろん周囲からは失笑を買いましたが、彼女は真顔でこう言ったのです。
「このハイセンスが理解できないなんて、あの学園の貴族たちも堕ちたものね」
強がりではなく、本気でそう思っている様子。
リーネはわたくしの大切なものだけでなく、不要なものまで奪っていくのです。
◇
そんなある日。
わたくしたち姉妹は王宮主催の晩餐会に招待されました。
けれども、そこでさえリーネの“欲しgirl”は健在です。
「お姉さまのお料理、美味しそうですわ。わたくしにくださいませ」
いや、同じ料理があなたの皿にも盛られていますでしょう!?
しかも招待客が大勢見ている場で……はしたないにも程がありますわ。
呆れている間に、わたくしの皿は彼女の手に。
……はあ。まったく。
そう思った瞬間。
「が、がはっ!」
リーネが血を吐き、床に倒れ伏したのです!
「キャー!」
悲鳴を上げる招待客たち。
わたくしは慌てて駆け寄り叫びました。
「リーネ! リーネ!!」
呼びかけても動かない。
ま、まさか──死んだ? 本当に死んだの?
だめ……コメディなのに死んだら悲劇! いくら厄介でも、妹がいなくなったら寂しいに決まっているじゃない……!
頬を濡らす涙。
「リーネ! リーネえ!!」
「なあに? お姉さま?」
……え、生きてる!? いや、さっき血を吐いてたでしょう!?
「リーネ、あなた今……」
「ふふ……そうよ、お姉さま。料理に仕込まれた毒で、わたくしは生死の境を彷徨ったのです。ですが、これがあれば大丈夫!」
取り出した小瓶を高々と掲げ、叫びます。
「テレレテッテレ~♪ “エナジードリンク~”!」
いや、確かに元気になるでしょうけど!?
「わたくしは常々、お姉さまを狙う悪意を探っていました。まさか毒殺するとは思いませんでしたが……」
わ、わたくし狙われてたの!? 毒で!?
「お姉さまを殺そうとした犯人は、この場にいますわ!!」
ちょっと待って、これコメディじゃなくて推理劇なの!?
「必ず暴き出してみせます! “ティラノサウルス”の名にかけて!」
ティラノサウルス!? そこは普通“じっちゃん”でしょう!? ……まあ、“じっちゃん”はわたくしの祖父でもありますけれど。
それより、わたくしはプテラノドン推しですわ。
「さすが、“光の欲しgirl”、ティラノサウルスのリーネ!」
……え? 光の欲しgirl? ティラノサウルスのリーネ? 情報量、多すぎません!?
「あなたは……! “闇の欲しgirl”、プテラノドンのアケミ!」
ア、アケミ!? 和風ネーム!? 誰!? 存じ上げませんけど!?
でも……プテラノドンはやっぱり推し決定ですわ!
「決着をつけましょう、光の欲しgirl!」
「望むところですわ!」
「出でよ、我が召喚獣──!」
まさか現れるのはティラノサウルスとプテラノドン!?
「キャー!」と逃げ惑う招待客たち。
けれど、わたくしは逃げません。なぜならプテラノドンが見たいから!
アケミの掌から放つ光が収まり、姿を現したのは……
「──カマキリ」
普通のカマキリ! 体長8cm! 圧倒的平凡!
「出でよ、我が召喚獣──!」
今度はリーネ。光が収束し、現れたのは……
「モッツァレラチーズ!」
チーズ!? 動物ですらない!?
向かい合うカマキリとモッツァレラチーズ。
互いに沈黙。微動だにせず……。
……そして、カマキリは羽ばたき、虚空へ飛び去っていきました。
きっと心の中で「俺、何やってんだろ……」と思いながら。
「ふふ、敵前逃亡とは、今回もわたくしの勝ちですわ!」
「クソ~、覚えてろ~!」
走り去るアケミ。
ここで一句。
『カマキリが 逃げ出すほどの モッツァレラ』
わたくしとリーネは、仲良くチーズを平らげましたとさ。
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