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コメディー短編(ファンタジー)

わたくしの妹は何でも“欲しgirl”

作者: 多田 笑

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

「それ、お姉様の新しいティアラですわよね? わたくし、それも欲しいですの」


 ……また始まりましたわ。


 わたくしの名は、レイシア・ホシガーリ。大貴族ホシガーリ侯爵家の長女にして、王立学園でも常にトップの成績を誇る、正統派お嬢様ですの。


 美貌、気品、財力、そして頭脳。何一つ欠けたものはありません。


 ──ただし、妹という“厄介な不具合”を除いては。


「お姉様って、なんでも持っていて、ずるいですわ。わたくしにも同じものをくださいな〜」


 そう甘えた声で言うのは、妹のリーネ・ホシガーリ。


 一見は愛嬌のある少女ですが、本性は──“わたくしの持ち物を何でも欲しがる少女”。そう、世に言う何でも“欲しgirl”ですの!


 ドレス、宝石、舞踏会の誘い、夜食の焼きリンゴに至るまで、わたくしが持っていると知れば「欲しい」と言い、あらゆる手段で奪い去る……。


 ときには腐った野菜の残りまでも。


「お姉さま、そのお野菜……美味しそうですわ。わたくしにくださいませ」


 止める間もなく口に運び、案の定、翌日はお腹を壊す始末。


 またあるときは、わたくしの破れたドレスに目を輝かせ──


「お姉さま、そのドレス……斬新ですわ! “ダメージドレス”という新時代の流行ですわ。わたくしにくださいませ」


 ──と強奪し、止める使用人たちを振り切って学園に登校。


 もちろん周囲からは失笑を買いましたが、彼女は真顔でこう言ったのです。


「このハイセンスが理解できないなんて、あの学園の貴族たちも堕ちたものね」


 強がりではなく、本気でそう思っている様子。


 リーネはわたくしの大切なものだけでなく、不要なものまで奪っていくのです。



 そんなある日。


 わたくしたち姉妹は王宮主催の晩餐会に招待されました。


 けれども、そこでさえリーネの“欲しgirl”は健在です。


「お姉さまのお料理、美味しそうですわ。わたくしにくださいませ」


 いや、同じ料理があなたの皿にも盛られていますでしょう!?


 しかも招待客が大勢見ている場で……はしたないにも程がありますわ。


 呆れている間に、わたくしの皿は彼女の手に。


 ……はあ。まったく。


 そう思った瞬間。


「が、がはっ!」


 リーネが血を吐き、床に倒れ伏したのです!


「キャー!」


 悲鳴を上げる招待客たち。

 わたくしは慌てて駆け寄り叫びました。


「リーネ! リーネ!!」


 呼びかけても動かない。


 ま、まさか──死んだ? 本当に死んだの?


 だめ……コメディなのに死んだら悲劇! いくら厄介でも、妹がいなくなったら寂しいに決まっているじゃない……!


 頬を濡らす涙。


「リーネ! リーネえ!!」


「なあに? お姉さま?」


 ……え、生きてる!? いや、さっき血を吐いてたでしょう!?


「リーネ、あなた今……」


「ふふ……そうよ、お姉さま。料理に仕込まれた毒で、わたくしは生死の境を彷徨ったのです。ですが、これがあれば大丈夫!」


 取り出した小瓶を高々と掲げ、叫びます。


「テレレテッテレ~♪ “エナジードリンク~”!」


 いや、確かに元気になるでしょうけど!?


「わたくしは常々、お姉さまを狙う悪意を探っていました。まさか毒殺するとは思いませんでしたが……」


 わ、わたくし狙われてたの!? 毒で!?


「お姉さまを殺そうとした犯人は、この場にいますわ!!」


 ちょっと待って、これコメディじゃなくて推理劇なの!?


「必ず暴き出してみせます! “ティラノサウルス”の名にかけて!」


 ティラノサウルス!? そこは普通“じっちゃん”でしょう!? ……まあ、“じっちゃん”はわたくしの祖父でもありますけれど。


 それより、わたくしはプテラノドン推しですわ。


「さすが、“光の欲しgirl”、ティラノサウルスのリーネ!」


 ……え? 光の欲しgirl? ティラノサウルスのリーネ? 情報量、多すぎません!?


「あなたは……! “闇の欲しgirl”、プテラノドンのアケミ!」


 ア、アケミ!? 和風ネーム!? 誰!? 存じ上げませんけど!?


 でも……プテラノドンはやっぱり推し決定ですわ!


「決着をつけましょう、光の欲しgirl!」


「望むところですわ!」


「出でよ、我が召喚獣──!」


 まさか現れるのはティラノサウルスとプテラノドン!?


「キャー!」と逃げ惑う招待客たち。


 けれど、わたくしは逃げません。なぜならプテラノドンが見たいから!


 アケミの掌から放つ光が収まり、姿を現したのは……


「──カマキリ」


 普通のカマキリ! 体長8cm! 圧倒的平凡!


「出でよ、我が召喚獣──!」


 今度はリーネ。光が収束し、現れたのは……


「モッツァレラチーズ!」


 チーズ!? 動物ですらない!?


 向かい合うカマキリとモッツァレラチーズ。


 互いに沈黙。微動だにせず……。


 ……そして、カマキリは羽ばたき、虚空へ飛び去っていきました。


 きっと心の中で「俺、何やってんだろ……」と思いながら。


「ふふ、敵前逃亡とは、今回もわたくしの勝ちですわ!」


「クソ~、覚えてろ~!」


 走り去るアケミ。


 ここで一句。


『カマキリが 逃げ出すほどの モッツァレラ』


 わたくしとリーネは、仲良くチーズを平らげましたとさ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
意外な展開でした! よくある王道ジャンルをここまでコメディーにできるの、すごい……!
あはは、これはハイファンジャンルでは!? (こちらもカオス) 圧倒的平凡!圧倒的平凡! (二角も気に入りました) 私はトリケラトプス派です。
カオス街道を突っ走っられていて、圧巻でございます。 実は、私自身はカマキリが苦手です。カマキリ、何故あの形態で飛ぶのか。カブトムシやゲンゴロウタイプは、飛んでも分かります。カマキリって、なんか首長い…
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