学生寮
倉利 須美、蟹沢 敏浩、興梠 修一郎の三人は渋谷駅から近いビルの上階にあるレストラン街のフロアで食事を取ることにした。
学生時代、修一郎は渋谷に敏浩は南青山に住んでいたのでこの辺りは庭のようなものだ。いつもこの辺りをふらふらと歩いてはお洒落なカフェ、夜はショットバー、はたまたファストフードで敏浩と修一郎は文学や映画について語った。
三人は余り高くない大衆レストランに入る。
席につくと須美が修一郎に話し掛けた。
「興梠さんは学生時代凄いところに住んでるいたんですね。渋谷駅から徒歩五分なんて夢の都会生活。寮だから風呂付きの光熱費込みで四千円とか。」
須美の話を聞いた修一郎は
「でも渋谷なんだよな。蟹君なんか南青山だぜ。山手線の中と外じゃ取締役と平社員程の差がある。寮費だって朝夕の食費込みで二万だろ、」
と言う。すると須美は
「流石、趣味が執筆です。それにとても解り易い比喩。敏の文章は文学を意識し過ぎて暗いしジメジメしてる。でも場所柄どちらも安いですよ。」
と修一郎を褒めた後に現実味のある言葉を付け足した。
「悪かったな。どうしてコイツが物事を全て前向きに捉えられるのか俺には全く理解できん。」
敏浩は言いたい事を言い更に続ける。
「修は打ち上げや合コンで終電無くなっても〈歩いて帰るわ。〉だもんな。嫌味だぜ。」
すると修一郎も言い返す。
「お前だって同じだろ。〈青山通りを上るヤツいるか。表参道まで俺が払うから相乗りだ。〉って言ってたくせに。」
「何を言う、僕は相乗りでみんなに協力してたんだ。」
須美はこれ程に言いたい放題の敏浩を初めて見た。