3話 予兆
尾藤が私に向き直った
「望月さん、あなたを第十三番隊に任命、配属します」
「ちょっと待て、俺はそこまで聞いてないぞ!!」
尾藤の隣にいた男、黒木が反論した
「身元も怪しい、しかも学生を入れるなんて信じられん。それにだれが上に報告すると…」
そう言っている間に尾藤はドアを蹴破りすごい音が響く
「人が話してるときはジッとして居ろ!そもそもドアを壊すんじゃねぇ!!」
「細かいことはいいじゃないか。あ、望月も拒否権はないぞ」
尾藤は笑顔で言った
「少なくても今回一人は殺してるんだ、間違いなく懲役刑はある
あやふやにするには入隊しかない、経歴は黒木がうまいことやってくれる、あとは君がどうするかだ」
「だから俺は許可してn…⁉」
尾藤が黒木の口を押えながら私に聞いてきた
多分この人の目的は私じゃなく私の力なのだろう
正直この話は私にとって都合が良すぎて怪しいが他に選択肢はない
「入ります!」私は力強くそう答えた
「そーかそうか入ってくれるか!」
尾藤が私の肩を掴んだ、と思ったらひょいと肩に担がれていた
「んじゃ黒木、後のことは頼んだよ」
「はぁ、お前は言い出したら聞かないからな…
わかった、後引き継いどくからどこまでやってあるんだ?」
尾藤は私を担いだまま廊下に出た
「何もやってないよ?」
そう言い残して尾藤は走り出した
「そういうことであと全部頼んだ!」
尾藤は走りながら黒木に向かって敬礼をした
「おまっ、ふざけんな待て止まれ仕事しろぉ!」
ワハハハハと笑いながら廊下を走っていく尾藤
後ろで暴れる黒木は周りの職員に取り押えられているがその姿が何処か可笑しかった
「これからどこに行くんですか?」
「訓練場さ、新人の紹介と歓迎会を兼ねてね」
そう言って尾藤さんが笑った
そこから数分後、ある扉を開けて中に入った
中は広くトレーニングしている人、寝ている人、しゃべっている人たちと様々だった
尾藤さんが号令をかけると部屋にいた人たちはすぐに目の前に集まってきた
「突然だが、今日からここの部隊に配属になった望月さんだ!みんな仲良くするように」
「望月マリです、よろしくお願いします」
他の隊員たちの視線はなんだかとても居心地が悪かった
「それじゃ恒例の歓迎会だなみんな準備してくれ」
尾藤さんがそう言うと数人が床に四角く線を引いた
「相手は…そうだな、宮村お前がやれ」
「了解っす」
そういうと体格のいい男が枠の中に入った
「あの、これは?」
私は嫌な予感がしたが恐る恐る聞いてみた
「歓迎会の模擬戦だ。安心しろ、うちの医務員は優秀なんだ」
そういう問題じゃない!
「宮村、手加減はいらないぞ。なんせ望月さんはあの学校の生存者だからな」
それを聞くと周りがザワリとした
「望月さん、いや、マリ
手加減はいらない。君に負けるほどこの部隊の奴らはやわじゃない」
続けて私の耳元で話し始めた
「それに感じただろ?気持ちわりぃあいつ等の視線を
これは経験談なんだが、あの視線の不快感を消すなら圧倒的な力でねじ伏せるのをお勧めするぜ?
観衆の【疑いと嘲り】の視線が【恐怖と畏怖】に変わる瞬間は
不快感を消し飛ばすほどの快感を味わえるぜ?」
耳元でそう語る尾藤さんは顔つきも口調もさっきまでとは別人で少し恐ろしかった
しかし、不快に感じたのも確かだし痛いのも嫌だ
「…やってみます」
私は意を決してリングの中に立った
「よろしくお願いします」 私はそう言って覚悟を決めた
「先手はやる、先に打ってこい」
宮村さんはそう言って構えた
(何こいつ、確かに私は新人だし得体が知れないかもしれないけど余裕ぶりすぎじゃない?)
「わかりました」
心の中で思っていることは胸の奥にそっと仕舞って
…おけるわけないでしょ!
私は力いっぱい両の手を打ち合わせる
パンッと乾いた心地いい音と共に心臓の鼓動は加速し力が湧いてくる
前回のようなことはなく自由に体が動く
これなら! 私は宮村さんの前まで飛び込み、その勢いのまま握りしめた拳でボディーブローを打った
するとなぜか、私の体が後ろに吹き飛んだ
「はぁ、戦場で馬鹿正直に突っ込んでくる奴があるか。
俺の能力は反射だ。打ったそのまま威力が相手に帰っていく
まあそれだけの威力があるってことは驚いたが、大したことはないな」
宮村さんはそう言ってまた、ため息をついた
「まだ勝負はおわってない!」
私は悔しくて立ち上がろうと手をついたが力が入らずまた倒れてしまった
「終わっただろ、利き手がソレでどうすんだよ」
そう言われ腕を見るとねじ折れたかのようにズタズタになっていた
ズキンズキンと痛みが広がっていく
ヒュッと息をのんだ後、呼吸が止まるほどの痛みが全身を侵食していった
意識が飛びそうだが痛みがそれを許さない
痛みが全身を焼いた後やっと意識が少し離れた
私はなぜこんな痛い思いをしているんだろうか
これからもこんなことが続くのだろうか
痛いのは嫌いだ。なんで私がこんな思いをしなきゃいけないんだ
ミコトに会いたい
優しくて、一緒に居るだけで楽しくて、いつでも一緒だった
でももうミコトは居ない
…ミコトもこんなに痛かったのかな
そんなはずはない。ミコトの方が痛かったに決まっている
それでも彼女は身体を切られようと最後まで私の前で笑っていた
痛いはずなのに、つらいはずなのに
それなのに私は、この程度の痛みにすら耐えられないの?
だんだんムカついてきた
馬鹿にしてきた宮村が、説明もなくこんなところに連れてきた尾藤が
ミコトを殺したあいつが、私の日常を奪ったすべてが
なにより不甲斐ない自分自身が
絶殺!まず目の前の宮村!
そう思った瞬間私の意識は深紅色の嵐に呑み込まれた




