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1話 初めての




私は走る。水たまりを踏みつけ、柵を飛び越し、ひたすらに走り続けた。

肺は空気を取り込もうと呼吸が荒くなる。しかし、止まることは許されない。

走って走って走り続けた先で私は


「ギリギリセーフ!?」


教室の扉を開け教室に飛び込む

私の頭に出席簿が降ってきた


「ギリギリアウトだ、残念だったな」


担任がニヤリと笑いながら私にそう告げる


「そんなぁ~」と私は肩を落とした


「嘘だ嘘。俺も新学期早々遅刻した生徒がいたなんて言いたくないし今回は目をつぶってやる

次からは気をつけろよ」


そういって先生は笑った

なんだかんだ許してくれるこの先生は、

やはりみんなから人気だし、私も好きだ


「許してもらえてよかったねマリちゃん」


私が席に着くと隣の子が声をかけてきた

この子は最上 命(もがみ みこと)私の唯一の親友だ


「休み明けって油断してたわ、

朝起きられなくって大変だったのよ」


「マリちゃんはいつでも朝は起きれないじゃない」


それもそう、そういって二人で笑った


「あ、ミコトほら、この間言ってた唯奈の雑誌早速持ってきたよ!」


そう言って私はカバンから雑誌を取り出しミコトに差し出した


「ありがとう!コレ探してたんだよ!」


そう言ってミコトは早速雑誌を開き目的のページを探した


「やっぱり唯奈かわいいね~」


「ね~、それにギフト持ちなんでしょ?いいなぁ、私もギフトほしいなぁ」


「ふふ、そうね」


そんな私と唯奈を見比べながらミコトは笑った

ギフトとは特殊能力を授かった人間だ

日本ではたまにこういう人が生まれる

もちろん私、【望月マリ】にそんなギフト(希少なもの)はないのだが


「もーちーずーきー?お前遅刻までして不用品まで持って来てんじゃねぇよ!」


そう聞こえると頭の上から丸めた紙が降ってきた

驚いて振り向くとプリントを丸めた先生が笑いながら立っていた


「俺さっき余計な報告を増やすなって言ったよな?

早速なにやってんだお前

最上お前もこいつに言ってやれ」


先生がそう言うとミコトがばつが悪そうに

「ごめんなさい先生、これは私が頼んだものなんです…」


そう言って小さくなっていた


「そうか、ならしょうがないか

普段はまじめな最上に免じて許してやろう」


「ははぁ、ありがたき幸せ」


そう言って私は机にひれ伏すふりをした


「ほら、始業式始まるから早く体育館行け」


先生から注意され席に荷物を置いたとき、突然教室のドアが開き男女が入ってきた


「ちょっと失礼、できれば静かにしててもらえると私たちの仕事がやりやすくて助かるのだけど?」


「失礼ですがどちら様でしょうか

私は今日何も聞いていませんが」


先生は入ってきた二人を睨みつけながら言った


「誰かは知らないですがとりあえず教室から出て行っていただきます

話は職員室で聞きますから」


そういって先生が男の人の腕をつかんだ瞬間先生は後ろに吹き飛び窓を突き破って外に飛び出していった

悲鳴が上がり、騒然となった教室。隣の教室も騒がしい、おそらく他の教室も同じような状況だろう

私は目の前で起きた夢のような出来事が呑み込めなかった


「さて、まずは全員席に座ってもらいましょうか」


笑顔で女は言った

さっき先生を引き飛ばした男が睨み、男子女子ともおとなしく指示に従い席に着いた


「私たちの組織【黒羽(くろば)】は素材が圧倒的に足りていませーん」


女が教卓前に立ち話し始めた


「おとなしく私たちに付いて来てもらえば私達はあなた達に危害は加えません

って言ったところでこんな怪しいお話

賢い皆さんなら

おとなしくしてくれる人はいないと思うので

一つ魔法をかけます」


女が指をパチンと鳴らすとみんなの様子が変わった

寝ぼけているような意識がはっきりしていない感じがする


「み、みんなどうしたの!?」


ミコトは私の隣で慌てている、ということは私と同じで意識があるのだろう


「1クラスに2人もギフトがいるなんて

私たちはどうやら当たりを引いたようだね

これは先生からボーナスもらえちゃうかも」


そういって女が私達に近づいてきた


「逃げて、マリちゃん」


ミコトがそう言って私の前に出た


「逃げてって、ミコトはどうするの!?

二人で逃げようよ!!」


「二人で逃げても捕まるだけ!

私が足止めするからあなただけ逃げなさい!」


ミコトはどこか他人行儀でミコトじゃないような気がした


「せっかくの極上素材

1匹だって逃がすわけないじゃない」


そういって女がとびかかってきた


「させません!」

ミコトがそう言いながら両手を合わせるとパンっという音とともに女が窓の方に吹き飛んだ


「ミコト、それって…ギフト?なんでミコトが!」

私はミコトがやったことが信じられなくて、怖くて…


「何やってるの!今のうちに早く逃げなさい!!」

私はハッとして廊下に飛び出した


後ろから戦闘音が聞こえたが怖くて振り向けなかった

必死だった

親友を一人残していくことに考えが及ばないほどに

転びかけながら階段を駆け下り

上履きのまま外へと飛び出した


外にはミコトがいた

体には無数の切り傷があり血が流れている

ミコトの見つめる先には教室にいた男が刀を持って

立っていた

窓から飛び降りてきたのだろうか

とっさに校舎の方を向こうとしたとき先生が倒れているのが見えた


「先生!」と思わず私は駆け寄った

駆け寄ってしまったのだ


近づいて分かったのは鉄臭い(におい)

不自然な方向に曲がった腕と首、そしてむき出した骨


一目で固まってしまった私をミコトが押しのけた

倒れた私が顔を上げるとミコトが男の腕を抑えていた

男は舌打ちをして私達から距離をとった


「覚醒したてにしてはためらいが無い

その割に戦闘慣れしてない

それと、そっちはまだ覚醒もしていないなんて

随分と平和に暮らしていたんだな」


男が初めて口を開いた


「あなた達が来なければこの子たちの平和は続いていたんですよ!」


ミコトが男を怒鳴りつけた


「あぁ、そうだな。恨むなら俺を恨め」

男が刀を鞘に戻すと居合切りのように素早く抜く

大きな音とともに風が頭の上を吹き抜けた

男は刀を再び鞘に戻し私達に背を向けると溶けるように消えていった


辺りを見渡すが男の姿はない


「いなくなったみたいだね、ミコト」


私はミコトにそういったがミコトは振り返らなかった


「ごめんなさい、本当にごめんなさい

私の力じゃ、これが限界だった」


 混乱しているのかミコトはさっきからしゃべり方がおかしい気がする


「大丈夫あなたのおかげで今まで生きてこれた

だから謝らないで」


そう言って振りむいたミコトの顔はいつも通りのミコトだ


「マリちゃん、今までありがとう

私はマリちゃんと友達になれて楽しかったよ

実はね、私の名前ってみさきっていうんだ

最後に私の本当の名前を知っておいてもらいたかったんだ」


「ミコト、なに言ってるの?」


「ごめんね説明している時間はないみたい

でも私のことはこれからもミコトって呼んであげて」


「こんな状況で冗談?やめて!面白くないよ!」


「冗談じゃないよ。

私も本当はこんな力いらなかったの

この力が嫌いだったの

でも、でも私ね、最後にできたんだよ

この力で、ちゃんと友達を守れたんだよ」


服に肩からわき腹にまっすぐ赤い線が刻まれていく


「マリちゃんが無事で私は嬉しいよ

でも、もっと一緒に居たかったなぁ」


「だから待ってよ!

なんでそんなお別れみたいなこと言うの!」


ミコトは私の頬に手を伸ばし、さすりながら言った


「泣いちゃダメだよマリちゃん

私は笑ってるマリちゃんが好きだもの」


ミコトは大きく息を吸い込んで、絞り出すように続けた


「じゃあね」


そういって笑うとミコトの上半身が滑り落ちていった

私はとっさにミコトを抱きかかえた

暖かい液体が私とミコトの服を赤く染めていく

心臓が耳元にあるかのように鼓動が大きく聞こえる


不思議と涙は出なかった

目の前の光景が信じられなかったから


理解が追い付かない


これは夢だと思っても、暖かい感触が、ミコトと鉄のような匂いが、視界に写る景色が、それを否定する

 

いつの間にか私の周りに男が三人立っていた

2人が私の腕をつかみ無理やり私を立たせた


1人はミコトを袋に詰め始める


「待って…!ミコトをどうするの?」


私はミコトの方に行こうとするが2人につかまれて動けなかった


「やめて、放して!」


男達の腕を振り解こうともがいても拘束は解けなかった

その間も男は黙々とミコトを袋へと詰めていく


「私はまた何もできないの…?」


男達は何も言わない、私をつかむ力は一層強くなる

台車の車輪の音が聞こえた

さっきまで男がいた場所は赤い水たまりだけが残っている


いつの間にか作業を終えた男が台車を押して去っていく

ミコトが詰まった袋は血を滴らせながら

その男の道筋を刻んでいた


鼓動が大きくはねた

呼吸が浅くなっていく


ミコトが運ばれていく、あんなに雑に、

まるで荷物のように


「わかった。今、私は泣かないよ」


ポツリポツリと雨が降り始めた

目に雨が入り視界がにじんでいく


「…次は私の番だ。ミコト、私に力を貸して」


空気を拒む肺に大きく息を吸い込み、私は覚悟を決めた


「ミコトは私を守ってくれたんだ、私の英雄なんだ!!

私の、私のために死んだんだ…!

お前たちあの男の仲間なんだろ!!

そんな奴にミコトは渡さない!」


目に入った雨が涙のように頬をつたっていく


「せめてこの子(ミコト)だけは絶対に守り切る」


まだ脳裏に焼き付いて離れないミコトの姿

その姿を思い出しながら私は掴まれた両腕を力いっぱいに引き寄せる


合唱、とまでいかない。不格好極まりない、

しかし微かに指先を合わせることができた


その瞬間、心臓が破裂したと錯覚するほどの衝撃とともに私を掴んでいた男達が吹き飛んだ


「私にも、できた…」


自分でも驚きだったが今はそれどころではない


「…すぐミコトを追いかけないと」


一歩足を踏み出すが足に力が入らない

私はそのまま地面に倒れこんだ

心臓が痛い

呼吸は乱れ、腕や足を動かそうにもピクリとも動かない

なんとか気力で頭をあげ、台車の男の方を見る


「!!、もうあんなところまで…!?」


動け動けと体を起こそうとするが力が入らず

それどころか意識が遠のいていく感じがした


「だめ、わたしは、まだ…!」


遠のく意識に抗う中、誰かが私の頭を撫でた


「よく頑張ったな、大丈夫あとは俺に任して」


最後に聞こえた声はとても温かく、頭をやさしくなでる大きな手は私の意識を持ち去った


‐この子はあの時と何も変わらない、今でも人のために泣けるんだね

なんで俺がここにいるのか、それはわからない。

今が何時で、ここがどこかもわからない


「でも、そんなことはどうでもいい。今やること、それは彼女の願いを叶えることだ」


俺は倒れた体を起こし、両手を打ち合わせる


「まだ俺に利用価値があったなんて、珍しく粋な仕事をしてくれたな。運命さん」


心臓が跳ね体中に力がみなぎる


「成程、いろいろ立派に育ってくれちゃって

動きにくいったらないよ」


台車の男まで追いつくまで時間はかからなかった

勢いそのまま男に殴りかかると男は防御すらせず吹き飛び壁のシミになった


「さあ、恩人は取り返した

ここからは防衛戦(ゴミそうじ)だ」


台車とマリ(おれ)を取り囲むように人が集まってきた

雨は止むどころかますます強くなる


まるで空が泣いているように

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