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【第三十五話】「?」がいない別世界2(急襲!異世界帝城)

「うっま〜い!!なにこれ!?反則だろこの美味さ!」

「聞いて聞いて!このサザエ、今朝獲れたてだって!」

『やぁ大吾、久しいな…。元気でおったか?』

「大吾、そこの醤油とバターとってくれないか?」

「ああっうんまいな〜!おおっ大谷これだな、ほらよ」

『……。おおっ!そこなに見えるは、美羽ではないか。見違えたぞ!』

「なにっ?……美奈。あんた今私を撮らなかった?」

「撮ったよ!だって美羽。あんた口いっぱいに、お肉を頬張ってるんだもん!」

「やだっ!美奈。ケータイ貸しなさい!削除するわ!」

『…………………。』

パンッパンッパンッパンッパンッ!

「はいはい!ちょっとみんな、静かにして!」

「なんだなんだ?お袋さん、どうかしたか?」

「…なにか聞こえるのよ。頭に響くような声が。ひろちゃん、あなたは聞こえないの?おじさんの声よ!なんだかとっても優しそうな声だわ!」

『んっ、んんっ、やぁ大吾!それとそこにいるのは美羽だな、大きくなったな!』

「「「「「「「「「「っ!?きっ聞こえた!」」」」」」」」」」

「「あっ!青鬼のおじちゃん?」」

「「えっ、青鬼のおじちゃんって、まさか?」」

『おおっ、どうやら我のことを知っている者もいるようだな。皆よくぞこの地に集うてくれた。感謝するぞ』

「えっ?えっ?どういうこと?集うてくれたって?」

「塩谷スマン!黙ってて悪かったと思うけど、これには深い事情があるんだ!」

「えっ?大吾くんどういうこと?」

「実を言うと、俺たちはあるヤツらに頼まれて、みんなを青鬼のおじちゃんに会わせるために、この旅行を計画したんだ」

「あるヤツら?誰だよ?俺たちの知ってるやつか?」

「えっえ〜と…………。」

そして、俺とヒロシ、雄二、美羽で代わる代わる今までの経緯をみんなに説明する。

「じゃあなに、その(夏彦?の席)に座る、1号と2号ってヤツらから頼まれて、俺たちを、そのぉ、なにか事情があって困っている青鬼のおじちゃんと会わせるために、ここまで連れてきたってわけっだな?」

「んで、今、河村が言ったように、話をまとめると至極単純な話だけど、その頼み事をしたのが、人と会話ができるインテリジェンスな学校の席で、会わなければならないのが、これまたインテリジェンスな5メートルを超える大きな青鬼さんっだったわけだ…。そりゃ大吾、言えんよな俺たちに…。だって誰も信じなかったろうし…」

「そうなんだ。本当に騙して連れてきたようで申し訳ない!大谷が言ったように、ただ話しても信じてもらえないと思って…。実際に青鬼のおじちゃんの姿を見てもらって話した方が早いと思ってな…」

「そうなの…、みんなごめんなさい!でも青鬼のおじちゃんを見ても驚かないでね。大きくて怖そうだけど、私たちの命の恩人でもあるし、とっても優しい人なの。」

みんな困惑の表情を浮かべているが、どうやら同意してくれたようで、ゆっくりと頷いてくれた。

「おじちゃん、今近くまで来てるんでしょ?姿を見せてくれる?」

ズンッウゥゥン、ズンッウゥゥン、ズンッウゥゥン、ズンッウゥゥン……、

美羽の呼びかけに、海の方から重低音の足音が響いてくる。

やがて海面が盛り上がり、遠くの方で額に2本の立派なツノがある青鬼のおじちゃんの顔が見えてくる。実際は結構離れているが、とても近くにいるように見えた。

「「「「「「「「「「おっおっおっおっおっ……」」」」」」」」」」

みんな仰天しているのか、「おっ」の発音を繰り返している。

そして、おじちゃんは俺たちのいる砂浜にたどり着く。

「「「「「「「「「「おっおっおっおっおっ……おっっきいぃぃぃ!!!」」」」」」」」」」

『やっやあ!みんな、よく来てくれたね!元気かいっ?』

「ちょっと!おじちゃん、無理してそんな話し方しなくてもいいのよ!」

『おっ?ああ、そうなのか?その方が我は助かるが…』

開口一番、おじちゃんがフランクな口調で、みんなに挨拶したが、美羽はおじちゃんのところにすっ飛んでいって、おじちゃんの太ももにグーパンしながら、説き伏せる。

「でっけ〜なー!あんたが青鬼のおっちゃんだな。俺は三島ヒロシってんだ。よろしく!」

「あっあっあっあの〜、美波雄二といいます。よろしくお願いしますっ!」

『ああ!よろしく!よく来てくれたな。感謝する』

美羽の気兼ねない態度と、ヒロシと雄二が挨拶を交わしているところを見た他のみんなは、少し緊張がほぐれたのか、おじちゃんと挨拶を交わしていく。

ズサッ!

誰かが砂浜に倒れたよな音がする。

音の方を見ると父が、砂浜にひざまづいていた。

「うっうううぅぅ…。大吾、美羽、お前たちの話は本当だったんだな!すまない!信じてやれなくてすまない!」

「ちょっと〜、お父さん、泣かないで。私たちはなんとも思っていないから!」

「そっそうなのか…?そっそれじゃあ、青鬼殿!私たちの子供を助けていただき、心から感謝申し上げる!本当に、本当にありがとう!うっうううぅぅ…」

『なんの、なんの!あの時の大吾と美羽の行いは立派だったぞ。良き子らに恵まれて、羨ましく思う次第だ!』

「ちょっと!ちょっと!ふたりともやめて!恥ずかしいじゃない!」

どうやら父もおじちゃんと仲良くなれそうだ。よかった、よかった。

「して青鬼殿、貴殿にはなにやらお困り事があると聞いている。私でよければ、なんでもご助力するが、子供達には危険はないのだろうか?」

『正直に言おう。危険が全くないとは言えない。だが、我はこの世界ではないが、別の世界の神と謳われる存在。その神の力において、子らには傷一つ追わせることが無いようにするつもりだ。しかし、無理強いをするつもりは微塵もない。とりあえず我の話を聞いてみてくれぬだろうか…』

おじちゃんの問いかけに、みんな神妙な顔つきになり、黙って深く頷いた。

おじちゃんは、みんなの頷きを確認すると、静かに目を瞑り、話をし始めた。

おじちゃんの話はまるでファンタジーの世界そのもので、ラノベ好きの塩谷、三人衆は、身を乗り出して聞き入っている。塩谷たちの様子につられたのか、他のみんなも真剣な表情でおじちゃんの話に耳を傾ける。

「なるほど、青鬼さんのいる異世界は、その魔素の激減によって、みんな絶滅の危機に瀕しているんだね」

「そして、その危機を回避するために、異世界の魔物たちが、私たちが住むここ日本に、魔素を求めて攻めてくると…」

「全く人ごとじゃないよな…それは…」

「それで、私たちが青鬼さんに協力すれば、異世界は救われて…、そうなれば必然的に魔物たちも、ここ日本に攻め込んでくることも無くなると…」

「俺的には結論は出たな!もちろん青鬼のおっちゃんに協力するよ!」

「そうね、私も是永くんに同意するわ」

「サチコ先輩が協力するなら、もちろん私も!」

「どうやら他のみんなも、俺らと同じだって顔してるな」

裕太先輩がそう言い、みんなを見渡す。

みんなは裕太先輩をしっかり見据えながら、力強く頷いた。

『皆、我の話を信じ、そして協力をもしてくれると言うのだな…。ありがとう!深く深く感謝する!』

「なに言ってんの、おじちゃん。感謝するのは俺らの方さ、日本の危機を知らせてくれて、しかもそれを回避する手立てまで示してくれるなんて。なあ!みんなっ」

「ああ!全くだぜ!」

「それに、おじちゃんが言う通り、危険が全くないとは言えないけど、私たちは戦いに行くんじゃなくて、話し合いに行くんだし、それほど危険があるとは思えないわ」

「別に俺たちは戦ってもいいぜ!なあヨコ?ムラ?」

「「ああ!腕がなるぜ!」」

「なに言ってんのこの三人衆はっ!おじちゃんの話しちゃんと聞いてた?いいっ?私たちは平和的に解決するの!わかってるの?」

「「「あっ、ああ…、すみません…わかりました…」」」

「でっ、その異世界の帝城?皇帝のところにいつ乗り込むの?」

『できれば、本日即時に行動したいのだが…。ちょうど今、帝城では皇帝の他に主だった大臣たちも集って、今後の方針や進捗状況を話し合う会議をしているのでな』

「了解!私は問題ないわ!」

「ああ、俺たちも問題ないよな?」

「「「「「「「大丈夫!」」」」」」

『そうか!ありがとう!では先ほども話したが、ここでゲートを発現させるのは目立ち過ぎるので、我が根城としている海底洞窟まで来てもらうことになる。かまわぬかな?』

「うひょ〜!それじゃ今から海底散歩と洒落込むわけだな、ワクワクするぜ!」

「ちょっと〜、遊びじゃないのよ。でも確かにワクワクするわね!」

そして俺たちは、おじちゃんが根城としている海底洞窟まで、海の中を歩いていくことになった…。


「すっごーい!海の中でも息ができる!みんなの声もちゃんと聞こえるわ!」

「ああっ?どうなってんだ?見てみろよ、俺たちが来ている服も全然濡れてないぞ!」

「あっ!イルカ!イルカの親子だよ!」

「きゃー!かわいい!」

騒々しい一行が海底を歩いていると、周りにいる魚たちは物珍しいのか、近くに寄ってくるものもいた…。う〜ん、めちゃくちゃ楽しい!

しばらく海底散歩を楽しんでいると、前を歩く青鬼のおじちゃんの向こう側に大きな海底洞窟が姿を現した。

「あの洞窟かしら?」

『ああ、あの洞窟だ。あそこならゲート出現の際に出る、光の渦も外界にもれることは無いからな』

その洞窟内はおじちゃんには少し狭いように感じたが、俺たちにとっては十分すぎるスペースがあった。

『さあ、今からゲートの出現の術式を教える。ぶつけ本番で上手くいくとは思えんので後ほどゲート出現の練習を行うことにする。皆良いか?』

青鬼のおじちゃんはみんなにゲートの出現方法を懇切丁寧にレクチャーしていく。

案の定というか、一番はじめに術式を成功させたのは、裕太先輩と雄二だった。

「うわ!まぶしい!こんな強烈な光だと、陸上で発現させたら確かにひと騒動起こしてもおかしく無いなぁ」

「はわわわっ、すごい!」

『どれ、ヌシらのイメージ通りの場所に出口が繋がっているか、確認してくるがいいぞ』

おじちゃんに言われて、ふたりはそれぞれが出現させたゲートに入っていく。

「大丈夫!ちゃんと俺の部屋に繋がっていたよ!」

「ぼっ僕も自分の部屋に繋がってました!」

『成功だな!よかった!それでは残りの皆も頑張ってみてくれ』

しばらくみんなも練習を重ねるうちに、成功するものが増えていく。そして俺たち友人たちの中で最後まで残っていた、是永も随分と苦労したみたいだが、発現を成功させることができた。

「そっそんなぁ…、なんで私だけができないのだ…」

心から残念そうな声を出しているのは父だ。

あれだけ苦労した是永でも初っ端から、懐中電灯ぐらいの小さな光の渦を発生させることが出来たというのに、なぜか父だけは何の兆候すら見せることが出来なかった。

「ダーリン…。大丈夫よ、私がゲートを発現させるから、あなたは私の後ろからついてきてくれればいいわ」

「くっうううっ…。致し方がない、みんなに迷惑をかけるわけにもいかないから、母さんよろしく頼むよ…」

そしていよいよ、父を除き、青鬼のおじちゃんを含めた14人分のゲートを異世界帝城の会議室へと出現させる準備が整う。

『では、皆、帝城のイメージはしっかり掴めたな?』

「大丈夫だ!おっちゃんが念で送ってくれたイメージで、帝城の間取りはもちろん、調度品の位置まで手に取るようにわかるぜ!なあっみんな」

ヒロシの問いかけに、みんな笑顔でしっかりと頷いて見せた。

『それでは、皆、参るぞ!』



時を同じく、場所は異世界の帝城、大会議室。

縦に長く伸びたテーブルの最奥には皇帝が鎮座している。

ちょうど今、地方の視察に散らばっていた大臣たちの中で一番の重鎮が、現場の状況をその場にいる皇帝と各大臣たちに報告していた。

「もってあと10年…。それ以降はその地に生きているものは皆無になるかと…」

「そうか…。それほどまでか…」

皇帝が悲壮感もあらわに、深いため息混じりに言葉を発していた時だった。

ヴオォォン、ヴオォォン、ヴオォォン、ヴオォォン、ヴオォォン、ヴオォォン……。

会議テーブルに着席している皇帝と大臣たちを囲むようにゲートが現れる。

「なっなんだ!?…ゲート?…しかもこの数は…。どういうことだ!?」

皇帝の疑問の声に応えるように、ゲートの中から声が響く。

「久しいな、我が息子二世よ、いや皇帝陛下と呼んだほうが良いか?」

「青鬼殿…、なぜあなたが…。衛兵!衛兵!不届きものが侵入しているぞ!」

「よせっ!どうやら、衛兵を呼んでも無駄なようだ…」

その皇帝の声に呼応するように、大会議室の扉が開き、一体のゴブリン、そして一体の大きなウズラが姿を見せる。

「青鬼神様、こちらは全て制圧しております。どうぞご安心を…」

「ご苦労だったな、ドニー・リーよ」

「ははっ!勿体なきお言葉!」

青鬼のおじちゃんの労いの言葉に、大きなウズラは畏まって見せた。

「フッ…、不殺がこの場にいたとはな、是非も無し…。しからば父上、何故にこのような唐突な登場の仕方をされたのかお聞かせ願おう」

『ああ、その前に皆に客人たちを紹介しよう…。客人たちよ、この場の安全は確保された、姿を現してくれ』

おじちゃんの言葉を合図に、俺たち全員大会議場に姿を現す。

「なっ何と日本人かっ?」

「そうだ、この者たちは、今異世界が抱えている魔素現象問題を解決すべく、ここに集うてくれたのだ」

「なに?この者たちが我らの世界を救うてくれると?」

「その通り、ヌシらの周りを見よ!今までの我らの常識であった二つまでしか発現できぬはずのゲートが、この場に14もある。それが異世界救済の鍵となるだ!」

「14…?父上、私には13しかないように見えるのだが…」

「えっ?13?そんな馬鹿な…。ひぃ、ふぅ、みぃ…………。っ!13しか無い!」

「「「「「「「「「「えっ?えええぇぇ〜!」」」」」」」」」」

確かに13しか無い!

誰かがゲートの出現に失敗したのだろうか?

俺はその場を見渡す。

すぐに母の姿が見えないことに気づいたが、母は父の背中にベッタリ張り付いて隠れるように立っていた。

あの出たがりの母が何でだ?

いやいや、そんなことより、誰がこの場にいないんだ?

「しっ塩谷くんがいないわ!」

「「「「「「「「「「えっ?えええぇぇ〜!」」」」」」」」」」



大吾たちが帝城の大会議室に姿を見せる数分前。

塩谷はその大会議室の真上にある、皇帝の私室にいた……。

「えっ?えっ?ここはどこ?どう見ても会議室には見えないんだけど…」

事前の打ち合わせ通り、ゲートの出口付近で待機していた塩谷だが、そこから見える風景に疑問を感じ、恐る恐るゲートから顔を出す。

「だっ誰もいない!わーっ!わーっ!どうしよう!どうしようっ。僕だけ違う場所に来ちゃったよ!どうしよう!どうしよう!」

『落ち着け!塩谷…』

「だっ誰?」

『んんっ?俺は1号だ。大吾たちから聞いているだろ?』

「えっ!君が1号くん…?大吾くんから話は聞いているよ。なんでも誰も使って無い席にもうひとり2号くんと一緒に座っているんだよね!へぇ〜本当にいたんだ!不思議なこともあるもんだねぇ〜!へぇ〜」

『塩谷………。おまえそれどころじゃ無いだろ?』

「はっ!どうしよう?どうしよう?1号くん、僕だけ違う場所にいるみたいなんだ!どうしよう?」

『だから、落ち着けって…。いいか塩谷、とりあえずゲートから元にいた場所に戻るんだ。戻ったらすぐにゲートを消す。とりあえずそこまでやってくれ。いいな…』

「わかった!すぐに戻るよ!」

塩谷は直ちに回れ右をして、元いた海底洞窟に戻ると、すぐさまゲートを消失させる。

『さあ、2号。ここからはおまえの番だぜ、そんなところで笑って無いで手伝ってくれよ!』

『クックッ…ククククッ。ハア〜。塩谷くん、君は随分と面白い人なんだね、僕は君を気に入ったよ。クックッ』

「わっ!君が2号くんだね!気に入ってくれて嬉しいよ!よろしくね!」

『ハハッ、どうやら落ち着いたみたいだね…。それじゃ僕がちゃんと大会議室まで行ける手助けをするから、僕の言う通りにしてね。大丈夫だよ、なん度失敗しても、僕たちがそばにいるからね!』

「わかった!ありがとう!よろしくお願いするよ!」



時は戻り、大吾たちのいる大会議場……。

「息子よ!しばし待て!日本からの客人がひとり足りない!すぐになんとかするから!しばし待て!」

俺たちが塩谷がいないことに気がつき、右往左往してる時、ヴオォォンと音を立てて、14個目のゲートが大会議室に姿を現す。

「ごっごめんね〜……」

情けない声をあげながら、塩谷がゲートから顔を出す。

「「「「塩谷ぃ〜!よかった〜」」」」

「ハハハハハハッ!父上、どうやら最後の客人も無事、姿を現したようですな」

「よかった…。んんっ!息子よどうやらそのようだ…。では、ピロッシよここへ参れ!」

「はいっス!青鬼神様!」

おじちゃんから呼ばれたのは一体のゴブリン。元気良く返事をすると、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。

「それでは息子よ、いや皇帝よ、今から日本の若者ふたりが異世界を救う手立てを話す。ここに集いし大臣たちも、しかとその話を聞いてくれ!それから客人たちは異世界の言葉が使えぬゆえ、ここからは念話での会話とする。念話でも会話が滞った場合、ここにいるピロッシが通訳として会話の橋渡しをするので、その旨心得てくれ」

おじちゃんの声に、皇帝と大臣たちは不安そうな顔で深く首を縦に振る。

すると、おじちゃんは何かに気づいた様子で、皇帝の前に歩み寄り、皇帝だけに聞こえる声で何かを話していた。

「おっ伯母上が!…」

おじちゃんの耳打ちに、皇帝が一瞬驚いたような声をあげたが、異世界の言葉なので、何を言ったかまではわからなかった。

『ではっ裕太、雄二よろしく頼む!』

『了解!任せて!』

『はい!任せてください!』

おじちゃんに呼ばれて、裕太先輩と雄二が皇帝の前まで進み出る。

『先ずは、本来、ふつたつしか発現することができないと思われていたゲートが、なぜこの会議室に14もの数で現れたのか説明します…』

裕太先輩は、現在の地球上には地球の女神の子孫が多数存在し、その子孫たちは女神の遺伝ゆえか、ほとんどの者がゲートの発現ができることを伝える。そしてこの場にゲートを発現させた我々もその女神の子孫であることも伝えた。

『そして我々は、地球上に多数存在する女神たちの子孫たちに協力をあおぎ、地球と異世界を多数のゲートで繋げ、地球上の魔素を異世界に大量に送り込む。と考える次第です』

次に雄二が、皇帝や大臣たちに説明を終えると、皇帝から質問が出てくる。

『なるほど、それほどのゲートがあれば、大量の魔素を異世界に送り込むことはできるであろう…。だが、それほどの多数のゲートを発現させるとなれば、広大な土地が地球上でも必要となる。それはもはや国家規模の事業となるであろう。国を説得できる案はあるのか?』

『はい、その件について、まずあちらの席にいる日本人の男性を紹介いたします。お父さん、よろしくお願い致します』

指名されて、父が席を立ち自己紹介を始めた。

『ただいま紹介に預かりました、私は立花慎一郎と申します。私は現在、日本の国防を担う陸上自衛隊と称す国家が運営する団体に属しており、隊を統率する立場にあります。以後お見知り置きを』

『お父さん、ありがとうございます…。いま自己紹介された立花さんは、陸上自衛隊の一等陸佐という地位にあり、国家に対して発言を許された立場でもあります』

『なるほど、立花殿を仲介役として、地球に存在する国のうち、まずは日本から交渉を始めるのだな』

『その通りです。そして我々は飴と鞭ではありませんが、日本側にこのような交渉を持ち掛ければ良いのではないかと、異世界側に進言いたします。それは……』

そして、裕太先輩と雄二は、代わる代わる皇帝たちに説明を進める。

『なるほどっ、日本に対して交渉決裂の際は異世界からの進軍があることを匂わせ、交渉がうまくいく場合は、異世界にある豊富なレアアースなどの天然資源を提供する用意があると伝えるのだな』

『そうです、「戦争による被害」と「天然資源による発展」。天秤にかけるとすれば、「天然資源による発展」に傾く公算は大きいかと…。そして世界に異世界と手を組んだ日本が、どれだけ良い結果となったかを見せつければ、自ずと…』

『日本に続けと、諸外国も交渉の席に自ら赴いてくると…。面白い!乗ったぞ、裕太殿、雄二殿!』

『おっ!お待ちください!陛下!このような異世界の存続を左右する重大な案件を、そう安易に決めてはなりませんぞっ!』

『まあ、落ち着け。落ち着け…』

『これが落ち着けるわけ無いではないですか!陛下、それに、この者たちとは、つい今し方出会ったばかりですぞ!』

『なぁ、環境大臣よ。其方は「オルギウス王国一夜の滅亡」のはなし、当然知っておるよのぉ?』

『はぁ?陛下このような時にお戯れですか…、はぁっわかりましたよ…、お答えします。当然知っております!』

『その「オルギウス王国一夜の滅亡」の崩御されたといわれる「怒りの女神」が、実は復活を遂げられ、現在地球におわして、さらに我らの地球侵攻計画をご存知だと言ったらどうする…?もしかしたら、其方の発言、どこかから聞いておられるかもしれんなぁ』

『『『『『『『『っ!なっなんと!誠の話でございましょうか?』』』』』』』』

『ああっ!誠の話だな。父上も最近その女神にお目通りを許されておる』

青鬼のおじちゃんを見ると、皇帝の話は真実だと言わんばかりに、首をコクコクと縦に振っている。

『へっへっ陛下!よくよく考えてみれば、こちらの日本の若者の話は妙案!いや、天啓と言えるのでは無いでしょうか!是が非でもこの提案に乗りましょうぞ!』

『そうか、そうか、わかってくれたか!』

こうして、怒りの女神?のおかげで、異世界側はこちらの提案をすんなりと聞き入れることとなった。



「しっかっし、意外なほどすんなりと異世界側は受け入れたな!」

俺たちは異世界から元いた海底洞窟へと戻っていた。

皇帝たちは俺たちを救世主だと持ち上げ、どうか心ばかりだが、もてなしを受けてくれと、強くせがまれたが、親戚の家のものが心配するからまた次回にでも、と丁重にお断りを入れての帰還だった。

「怒りの女神?それって本当に地球にいるのかしら?」

「青鬼のおじちゃんも認めてるんだ、本当にいるんじゃ無いの?(それ)とか言ってると罰が当たるぞ!」

「あっっごめんなさい!ごめんなさい!女神さまぁ〜」

『ハッハッハッ!それにしても裕太と雄二、大義だったな』

「それそれ!特に雄二、おまえどうしたんだ、いつもはオドオドしているのに、今日はやけに堂々としてカッコよかったぞ!もちろん裕太先輩もな!」

「いやぁ、それは裕太くんが隣にいたから…。なぜか裕太くんがそばにいると落ち着くというか、勇気が出るというか…」

「裕太くん?おまえいつから裕太先輩のこと(くん)づけで呼ぶほど仲良くなつたんだ?」

「そうだな、いつからだろう?いつの間にか仲良くなってたんだよな。なぁ雄二?」

「そうなんだ、気がついたらそうなってたね」

「へぇ、それはいいことじゃないか…。あっ!それはそうと塩谷!びっくりさせるなよな!」

「ごっごめん、ごめん!でもゲートの失敗して、いいこともあったよ!」

「なんだ?そのいいことって?」

「どうやら、僕は間違えて大会議室の真上にある皇帝の私室に出てしまったらしいんだけど、その時僕が慌てふためいているとね、なんと、1号くんと2号くんが助けに来てくれたんだ!」

「えっ?1号と2号が?…いいなぁおまえ!」

「でしょ!でしょ!それでね、2号くんが手助けをしてくれてね…………」

異世界での興奮が冷めやらぬみんなが盛り上がっているところだったが、裕太先輩が俺とヒロシ、そして雄二に声をかけてきた。

「盛り上がってるところゴメンな…実を言うとおまえたち三人に、相談事というか、お願い事というか…。この後、大吾の親戚ん家に泊まるだろ、その時に他のヤツらには悪いが、おまえたち三人だけに聞いて欲しい話があるんだ…」

皇帝に対して堂々と話ししていた時とは違い、少し顔色が悪い裕太先輩は、それでも吹っ切れたというか、意を決したような表情で俺たちにそう伝える。

話の内容や雰囲気で、良い話では無いことはわかった…。

でも、しっかり聞こう!そして裕太先輩が困っているのであれば、全力で助けてあげよう!そう心に決める。

ヒロシや雄二を見ても、どうやら俺と同じ気持ちでいるようで、真剣な顔つきでいる。

俺たちは、再び海底散歩を楽しむ愉快な仲間たちを、少し離れた後ろから眺めながら、黙々と地上に向かって歩いていくのだった…………。

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