【第十五話】三人衆の懺悔
ブルッン、ブルブルブル………
「おっ!まだあったよ、コレ!ムラ!」
「ああっ、懐かしいなぁ」
「当然寄っていくだろ、なっヨコ!」
「ああ、もちろん!」
俺たち三人はツーリングの帰りに、昔立ち寄ったことのある、思い出深いファミリーレストランに再び立ち寄っていた。
あれから四年かぁ〜
雄二に謝罪を受け入れてもらい、それどころか今では頻繁に連絡を取り合う間柄となるきっかけをくれた懐かしいファミリーレストラン。
その時のことは今でも鮮明に覚えている、そういば、はじめのうちは雄二のこと、怖がらせまいとして、美波くんって呼んでたっけぇ……。
……美波雄二くんを悪者バイカー達から救出後、僕たちは昼食を食べに近所にあったファミレスに立ち寄ることにした。
美波くんは夏休みに公園であった時と比べ、随分と顔色もよくなって、元気そうにしていたので安心している。あの公園で久々に再会した時は、えっ!死んでる?って思ったほど顔色が悪くて元気が無かったかったから……。
元気になった美波くんは、今も隣にいる是永に「まだあの団地に住んでるの?」と懐かしそうに聞いている。その顔には死相のしの字も見えない。本当に良かった。
しばらく美波くんは是永と話をしていたが、突然、僕と是永、河村の顔を見回すと申し訳なさそうな顔で聞いてくる。
「ところで、君たちの喋り方、普段いつも使っている喋り方じゃないよね?…できればいつも使っている喋り方に戻して欲しいんだけど…」
えっ?バレてた?
「だから言っただろぉ、ヨコ〜。美波くんにキモがられるって」
呆れ顔で俺に文句を言った河村に美波くんは告げる。
「いや違うんだ、横山君たちは僕を怖がらせないようにとわざとそんな話し方をしているんだって分かっている。だけど、もう大丈夫なんだ。それに普段の口調じゃないと、本当の君たちと喋れていない気がして…。僕は素の君たちと話がしたいんだ…」
「「「………………」」」
「えへへ、そうか、分かったよ。そうさせてもらうよ。」
「あのよ〜、それじゃ美波くんのこと雄二って呼んでもいいかい?」
「もちろん!そっちの方が君たちと話してるって気がするし」
笑顔で答える美波くん…もとい雄二。そして雄二はおずおずと、俺たちに聞いてきた。
「あの…もし良かったら、なぜ僕に謝ろうって気になったのか教えてくれないか…」
それに対し、是永と河村が同時に俺の方に顔を向ける。えっ俺かよ!と思ったけど、もしも雄二に会うことがあれば、心から謝りたいと言い出したのは確かに俺だ。とっても恥ずかしいが、仕方がないので俺はポツポツと話し出す…
「俺たちが雄二に謝りたいと思ったのはここにいる大吾と博がきっかけだったんだ…」
(えっ?俺っ)て顔で大吾とヒロシは自分の顔を指さしている。
「中学に進学してね、俺たち3人はバラバラのクラスになったんだ。それも随分と離れたクラスにね。それで俺は大吾とヒロシの一緒のクラスになったんだけど、俺と仲のいい友達はそのクラスにはひとりもいなくて、ひとりぼっちだったんだ…」
「それはお前らが悪ガキだったからクラスを離されたんだろうが。」
ヒロシがチャチャを入れるがスルーする。
「それでも俺はこのクラスを牛耳るつもりでいてね、まずは小学校の時から悪名を轟かせていた三島博に喧嘩をふっかけてコテンパンにして、このクラスで一番強いのは俺だ!って宣言するつもりだったんだけど…こいつ逃げ足が速いって言うか、躱すのが上手いって言うか、全くそのチャンスをくれなくて、仕方がないから標的を博の相棒の大吾に移して、喧嘩を挑んだんだけど……まっったく歯が立たなかったよ……って言うか相手すらされていない感じだったな。全力で殴りかかっているのに、全く反撃してこない。ついに力尽きてへばっていると「よく頑張った!」って言って、頭をポンポンってされたよ…」
「何言っているんだ、ヨコっ!お前あの時、頑張ったじゃないか!」
「はぁ〜。そうゆうとこだよ。大吾ぉ」
「えっ?どうゆうとこだ?」
周りを見ると苦笑している。ホントに大丈夫か大吾?…まあいい…。
「え〜とそれでね、その敗北で俺はますますクラスで浮いた存在になったんだ。休み時間のたびにクラスでひとりぼっちになるのが嫌で、いつも河村や是永のところに行きたいって思ってたんだけど。でも負けて逃げてきたって、こいつらに思われるのが嫌で、仕方がないからずっとひとりぼっち状態を耐えていたんだ。でもいつからだったか忘れてしまったけど、そんなひとりぼっち状態の俺に隣の席に座る塩谷って子だけは話しかけてくれるようになったんだ。その塩谷は小柄なおとなしいヤツで、俺はそんな弱そうなヤツと話しているところを誰かに見られるのは恥ずかしかったから、いつも仏頂面で相手してたんだけど…」
こんな話しに退屈してるんじゃないかと思って、話を一旦切って雄二を見る。
「ふん、ふん、それで!」
まっすぐ俺を見て話しの先を催促している。そんな雄二の表情にホッとして俺は話しの続きをしはじめた。
「話しているうちに、なんだコイツ意外と楽しいヤツだな。って思ってきて、結構仲良くなったよ。特に面白かったのはラノベの話し。本を読むなんて真っ平だったんで、塩谷から本の内容を話してもらってたんだけど、聞いてるうちに興味が湧いてきてね、自分でも読んでみたいと思うようになって、それで塩谷から借りて読むようになったなぁ。すっかりハマったよ、今じゃ、コレもムラもどハマりしてるよ」
「「ああ!ラノベは神だ!」」
同意したふたりを見て、気をよくした俺の話しは勢いづく。
「ところがだよ!ある日、塩谷は目に青タンつくって学校に来たんだ。当然俺はどうしたんだ?って聞くんだけど、塩谷はちょっとコケたとしか言わない。次の日もクソ暑い日だっていうのに、長袖なんか着てるから、有無を言わさず長袖をめくってみたんだ。そした腕中アザだらけ。訳を聞いてもまたコケたとしか言わない。あいつ弱っちいくせに根性だけはあるからちっとも俺に弱音を吐かない。埒が開かないと思ってその日から学校帰りの塩谷をつけることにしたんだ…」
ちょっと白熱しすぎたかな。と思って周りを見ると、みんな俺の顔を真剣な顔で見つめている。おっなんか気持ちいい!と思いながら話の続きをする。
「塩谷が住む町に近づいた時に、ヤツは現れた!ヤツとは誰だ!それはチンケな悪党で知られる大谷だった!仲間たちと一緒に塩谷を囲んで、何やら揉めている。そしたら大谷の野郎、いきなり塩谷にローキックをかましやがった!俺は頭にカーッて血がのぼり、すぐさま大谷に近づき、胸倉掴んで宙に浮かせ「何してんだ!」と怒鳴る。後ろで塩谷が俺のシャツの背中を掴んで「違うんだ!大丈なんだ!」と叫んでいる。あまりにも必死に叫ぶんで、その場は塩谷の顔に免じて大谷を解放してやった。その後しばらく大谷たちも大人しかったが、それから3、4日経ったこ頃にナンとっ!」
一気ににそこまで捲し立て、一旦息継ぎに話を止めると。「すみません…お客様。もう少しお静かに…」とお店の人に注意される。
俺たち全員、恐縮してその店員さんに詫びをいれるが、俺の話しを聞くヤツらの目はまだ死んじゃぁいなかった。深呼吸をして心を落ち着かせ、静かに話の続きをはじめる。
「なんとだっ。塩谷は腕にギブスをはめて登校してきたんだ。俺はまた頭に血がカーッとのぼったが、塩谷が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。泣きそうな塩谷の顔をみて一旦心を落ち着かせ「大谷たちだな?」と静かに聞く。だけど塩谷は首を降り「違うよ!」と強く否定してくる。なんだコイツ?頑固にも程があるだろ!と思ったが、また俺が暴れて、その仕返しが塩谷に来ることを考えると、ハラワタは煮えくりかえるが、ここはグッと我慢することにする。しばらく大人しくしてると、俺からはもう反撃はないと決めてかかったヤツらは、いじめのターゲットを俺にも向けてきたんだ。」
「嘘でしょ!?横山くんをいじめる?」
「いや事実なんだ。直接俺を攻撃してくる訳じゃないけど、机に「死ね!」とか靴箱の上履きに土がてんこ盛りとか、ここ中学校だけど小学生紛れてない?と思うような幼稚ないじめな…。それで…その〜…その時、雄二のことを思い出したんだ…そういえば俺たちもこんなことしたなぁって、もちろんもっと酷いことをしたことも覚えているよ…。でも今、ハラワタが煮えくり変えるぐらい、憎くて堪らない大谷は昔の俺だ…。今更ながらそれに気づいて、昔の俺に無性に腹が立ってきたんだ…」
「……なるほどそれで……わかった理解したよ。でもその時、僕のこと思い出してくれたんでしょ?嬉しいよ!…それで、その後横山くんと塩谷くんはどうなったの?」
「雄二………。うん!それでその後はというと。いよいよ真打の三島ヒロシの登場だ!」
「お前…大袈裟だよ!」
ヒロシは照れているが、その時の俺はどれだけスカッとしたことか!ヒロシに感謝を込めて話を続ける。
「そうなんだ、ヒロシが全て解決した。あとで分かったんだが、ヒロシは俺と塩谷のことを知って行動に移してくれてたんだ。そして大谷たちの身辺にピッタリ張り付いて、ヤツら悪さの証拠をたくさん掴んでいった。例えば、塩谷みたいな、おとなしいヤツから金を巻き上げているところとか、万引きしているところとか…、それはもう、出てくる出てくる…数々の証拠の写真が。それで博はその写真をネタに大谷たちを脅しあげた末に、今まで悪事で手にした金を全て被害者たちに返金するなら、このことは黙っておいてやると言って、新聞配達の仕事まで大谷たちに世話をして、罪滅ぼしをさせたんだ」
「へー!すごい!中学生でそこまで出来る人なんていないよ!それで、それで、その大谷って子たちは、罪を償い終えたの?」
「ああ、中学を卒業するまでに償い終えたはずだ。それどころか罪を償い終えた大谷たちは中学入学当時と別人と思えるほど、いいヤツになっていてな、どうしてそうなった?って聞いたら、ヤツら「俺たちは目覚めたんだよ!」とかなんとか言い出して、「額に汗して稼いだお金の有り難さ…」「働く仲間との絆…」「働く俺たちを応援してくれる皆さんの暖かい人情…」とかほざき始めて、新聞配達をしていた時の思い出話をし始めたんだ…。毎朝ヤクルトを渡すために大谷を玄関前で待ってくれているお爺さんの話とか、配達する家を間違えた時に、一緒に謝りに行ってくれた高校生のお兄さんの話とか。それはもう長々と続いたよ。俺、いつになったら家に帰れるの?って思ったぐらい永遠と…」
俺はその当時を思い出して、うんざり顔になっているのを気づき、気を取り直してこの話の締めの部分を口にする。
「改心して、生き生きとした大谷を見て、俺も決心したんだ。雄二に謝って、いつか許してもらえるように頑張ろうと!ここにいる河村や是永も同じだぞ!知らなかったけど、実を言うと、コイツらも俺と同じような境遇にいたんだ。俺と塩谷そして大谷の話をしたら、熱心に聞いてくれて、そして俺の決意に賛同してくれた。そう懺悔の気持ちは俺と全く同じなんだ!」
「………うんっ分かったよ!その謝罪の全て、僕は受け入れよう!」
「えっ本当か!?」
俺は仰天していた。河村や是永も鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
えっ?そんなにあっさり?………。
河村を見ると目がウルウルしていて今にも泣き出しそうだ。いや是永もか…。
「お前、何泣いてるんだよ…」
と是永が泣き笑いで聞いてくる。
俺も泣いているのか?………。
大吾を見ると、腕を組んでウンウンと頷いている。どこのお爺さんだよ!
ヒロシといえば「俺ちょっと便所!」と言ってトイレに直行。なんだよこの感動の場面で!
みんなが落ち着いた頃にヒロシがトイレから戻ってくる。ちょっとした沈黙がその場に訪れていたが、そんなに悪い気分ではないなって思っていた時に、雄二が口を開く。
「ところで、僕が乗ってた車を囲んだ怖いお兄さんたちが言っていたけど、『C中の三人衆』ってなに?」
「ブッブゥゥゥゥゥ!」
冷めたコーヒーを飲んでいたヒロシが噴き出す!
飛び散ったコーヒーを気にも止めず、ヒロシは爆笑しながら俺たちを問いただしてくる。
「ブハハハ!思い出した!ワハハッお前ら何?C中の三人衆って呼ばれてたの?ブハハハ!どこの時代劇だよ!」
「……そうだけど、別に俺らが名乗った訳じゃないからな!」
俺が、そう言うとヒロシは笑いをおさめ、真剣な顔で俺たちに聞いてくる。
「……それで親分の仇を打ちには、いつ旅立つんだ?………ブッ、ヒーッ死ぬぅ!」
「「ブッ、ブウゥゥ!」」
テーブルの一点を見つめ、顔を真っ赤にして、必死に笑いを堪えていた大吾も噴き出す!。
なんのこと?とキョトンとしていた雄二まで…。
「……酷いよぉ、雄二まで?……」
「クックッッ、はぁ〜、いやぁ、ごめん、ごめん。三度笠かぶった旅装束の3人を想像したら、すごく似合ってたんで…つい…」
「ブッ、やめろ〜雄二!俺を殺す気か〜?」
爆笑し続けるヒロシと大吾。
「おっお前らだって、なんだよ『不動の大吾』って!」
「おうっ!そうだ!『謀略のヒロシ』だって?…お前らどこの戦国大名だよ!」
是永と河村は反撃に出る!
「ゔっ!ブゥゥゥゥゥ!アハハハハッ…」
辛抱たまらんとばかり、雄二が爆笑し出した。
「なんだよぉ雄二!お前どっちの味方なんだよ?」
不満げに雄二に抗議するヒロシ…。
「いやっ!僕はどっちの味方もしないよ!だって、どっちの味方でも恥ずかしい!」
ヒロシの抗議に、キッパリと言い切る雄二。
「「「「「………………ぶっ!…ブゥゥゥゥッ!ワッハッハハハハハハッ!」」」」」
雄二の切り返しに、散々6人で笑っていたら、再び店員さんの「あの〜お客様……」。
すぐさま腰を直角に曲げて「「「「「「すみませんでした!」」」」」」と謝罪して、コソコソとレジにむかう俺たち。
「さっきお金取られちゃったでしょ?」
と言って俺たちの金も出そうとする雄二を止めながら、河村が言う。
「それには及ばないぜ!」
「グッ!だから時代劇かって!」
と言いながら笑いを堪えるヒロシを無視して、俺たちはおもむろに、シュッとベルトをズボンから外すと、ベルトの裏にある隠しポケットから一万円札を取り出す。
「仕込みベルト……」
そう呟いた大吾に、辛抱たまらんと店内から外へ飛び出すヒロシ。
会計を済ませて、店内から外に出た5人は、外でうずくまっていたヒロシを拾ろって、少々遠いが家路に向かって歩き出す。ファミレスまで乗せてきてくれた運転手さんも俺たちが店の前で車を降りた時点でそのまま帰ってもらっている。
乗ってきたバイクは空き地に置いたままだ。どうせオンボロバイクだ、盗られたってかまやぁしない。そんなことより俺は6人で歩いて帰りたかった。
河村と是永も同じ思いだったようで、バイクをその場に残して、6人揃ってバカ話をしながら、テクテクと国道の道を歩いていく。
空が薄暗くなった頃には、ひとり減り、ふたり減りと、それぞの家路へと向かって別れていった。
俺ひとりになった頃には、もう外は真っ暗だった。
ふと空を見上げると、今朝方の雨で綺麗になったのか、星がキラキラ瞬いている。
「なんだか、空から、嬉しいだとか、楽しいとかが降ってきてるみたいだ…」
思ったことが、そのまま口から出てくる。
『ポエマー?』
ヒロシがいたら、そう突っ込まれていただろうセリフに、少し恥ずかしくなりながら、見えてきた我が家に向かう足を少しだけ遅くして、また空を見上げ続けた。
「なんだか明日が待ちどうしいな…」
明日は普通の月曜日、なんでもない1日のはずだが、俺は明日が来るのがとっても嬉しくなるのだった。