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【第十三話】高校生探偵、三島ヒロシ

シャーーーァ シャーーーァ

ここは自衛隊基地にあるシャワー室。

俺はまだ、東郷夏彦のことを回想していた。

思い返すだけでも、それなりの時間を要する必要があったからだ。

悪い意味でそれだけ深く俺の心に刻みついた記憶……。



高校入学当時、東極夏彦に微かな疑念をいただいた俺は、大吾から夏彦の話を聞き、微かだった疑念がより大きな疑念に変わった。

間違いない、夏彦は何か悪巧みをしている…。そう確信した俺は、まず手始めに大吾から聞いた港の倉庫から調べることにする。

倉庫の所有者については役所で登記簿を確認したらすぐにわかる。調べた結果その倉庫は間違いなく、夏彦の父親が経営する会社の所有物件であった。

実際に現場にも脚を運ぶ。例の倉庫の前に大型の船が停泊しており、どうやら外国への輸出入の拠点のひとつのようだ。

「夏彦のヤツ、まさか海外のヤバいものの取引に手を出しているとか?」

そう独りごちたが、自分で言ったことが悪い冗談に思えて心の中ですぐさま否定する。

この倉庫を単なる高校生が調べ回るのには限界があると思い、倉庫付近の調査は後回しにして、次に大吾から聞いた、廃工場での出来事を調べることにする。

まず気になったのは立花兄妹が探していたとういう美羽の友達の家出少女のことだ、家出少女の名前は「藤谷美奈」といい、その件に関しては美羽に直接話を聞いた。

「美奈ったら、お兄ちゃんとふたりで探しに行った次の日の早朝に、ここから20キロも離れた場所でフラフラ歩いてるところを、不審に思ったおわまりさんに保護されたんだって。ケガや服装の乱れも無いし、念の為事情を話してお医者さんに診てもらっみたい。診断結果も別に異常はみられないってことで、心配していたことは全然無かったってわかったけど、私散々説教してやったわ!」

当時のことを思い出し、時折怒気を含みながら俺に説明をする。

「保護される前の日はやっぱりあの廃工場に隠れていたそうなの。夕方近くにお腹が空いたので近くのコンビニまで買い物にいったはいいけど、おばちゃんと口論になってカッとして、そのまま家を飛び出したものだから、ろくにお金を持っていなかったみたいなの。それでコンビニの前でウロウロしているところに同じ歳ぐらいの男の子に声をかけられて、事情を話すと、ご飯代を出してくれるというので、その男の子にお弁当やらお菓子を買わせて、美奈はひとりじゃ寂しいからって、一緒に廃工場で晩御飯を食べようってなったみたい…」

「え?それはどんなヤツ?」

「簡単にいううとストリートギャング風?それなりの服装で、キャップを目深に被ってサングラスまでしていたからどんな顔だかハッキリしないみたい。ご飯を食べてる最中でも外そうとはしなかったようね」

「ほ〜それは大層内気なナンパ野郎だなぁ」

「それでお酒を勧められて、ついムシャクシャしてたからそのお酒、飲んじゃったみたいなの。それほど飲んだつもりはないのに、途中で記憶が途絶えて、気がついたら知らない場所で朝を迎えてたってわけ…」

「ふ〜ん、それにしてもその家出娘はえらい豪気な娘だな」

「そうなの〜美奈、喧嘩がとっても強いの。その男の子は割と小柄な方で、美奈は自分と身長が変わらなかったって言っていたから、多分160cmぐらいだと思う。そんな華奢な男の子ひとりぐらいどうにでもなると思って、油断しちゃったみたい」

うーん、夏彦の身長は俺と同じぐらいだから175、6cmってところだろう。その内気なナンパ野郎は夏彦では無いということか…。

「ちなみに、その家出娘の写真とか見れるか?」

「うん、別にいいけど…。ヒロシくん何かあったの?」

美羽は俺に心配そうな顔をして尋ねてきた。

俺は別に隠すこともないと思い、大吾との会話から東郷夏彦という男が、何やら悪巧みをしているように思えて仕方がないので、調べて回っていると告げる。

「そう…。ヒロシくんの勘って結構当たるもんね…。わかったわ見せてあげる。美奈に事情を話して、美奈がいいって言ったら、この写真、ヒロシくんのスマホにもおくってあげるね」

といいつつ美羽は家出娘の写真を見せてくれた。

色白で少し面長な顔立ち、若干吊り上がった細めの目は、いかにも気の強そうな雰囲気を醸し出している。髪はストレートで肩甲骨あたりまであるのかな?間違いなく美人の類だろう。とても中学生には見えず、大人びた女の子だった。

「随分大人っぽいな、俺より年上って言ってもみんな信じそうだ」

「そうね、歳は私と同じなのに、いつも化粧をしているから、よけい大人っぽく感じるよね。確かにヒロシくんより年上ですって言っても通りそうね」

その後、美羽には何か分かったら連絡すると伝え、次の目的地に俺は向かった。


「う〜ん…。家出娘と夏彦…。なんか引っかかるんだよな〜」

美羽から聞いた限りでは家出娘と夏彦との接点はあまり無いように思えるが、なぜか全く無関係だとは思えなかった。

次に話を聞きに行ったのは、元悪ガキ仲間の女子の中心的存在サチコのところだった。

サチコは自宅から出てくると「ウ〜ン」と伸びをする。ちょっと疲れた様子だったので、何をしていた?と聞いてみる。

「勉強だよ。」

サチコはさらりと返答する。

昔の彼女を知る者が聞いたらびっくり仰天だ。しかし彼女も随分と変わった。雰囲気や言動は昔のままだが、なんとなく知性を感じるようになった。サチコはひとつ学年が下の中学三年生。今は受験生だ。例の家出娘はサチコと同じ中学で一つ下だから面識があるかもしれない。俺や大吾と同じ超難関高校を受験するつもりでいるようで。俺はこの頑張りが実れば良いと心から祈っている。

サチコも俺と同様、昔は相当の悪ガキだったが、俺とは違い大吾ではなく美羽に「いい人」にされた口だ。一人っ子だが美羽を実の妹のように可愛がっている。

挨拶もそこそこに俺は聞きたかったことをサチコに尋ね始める。

「忙しいところ悪いな。少し聞きたいことがある。いいかな?」

「ああ構わないよ。なんだい?」

「最近オマエの耳に入った情報で、夜遊びをしていて、ナンパされて、それで酒に酔わされて…そのなんだ…、いかがわしい被害に遭ったって女の子はいるか?」

「酒に酔わされてって娘はいないけど、薬物で釣られて、って話はたくさんあるよ」

「薬物っ!?」

「そうさ、ちょっと前までは大麻やマリファナだったけど、最近はなんだかわからないドラッグってやつ?錠剤になってるらしいけど、それを飲まされてハイになってるところを犯られたって話はよく聞いているよ」

「なんでまた、そんなヤバそうなモノに手を出すんだ…」

「彼女たちは、いつも逃げたがっているからね」

「逃げる?なにから?」

「日常だよ。家族だとか学校からのしがらみからさ。彼女たちはその日常から逃げるために、レイプされるのも厭わず薬物を求めるのさ」

「それはその娘たち自ら望んでってことだな…」

「そうだよ…。あたしもそんなヤバいことやめさせようとしたけど、無理だったよ。彼女たちはもちろん自分の身に降りかかる危険なんて百も承知なんだ…。だけどそんな危険よりも日常から逃げ出すことを自ら選んだんだ…。あたしの声なんかちっとも届かなかったよ…」

「そうか……………」

全く知らなかった…。

仲間内のサチコや他の女子たちからも、今までそんな話し聞いたことがなかった。自分たちのことなら話してくれたかもしれない、だけど俺たちが全く知らない女子たちの話しを無責任に言いふらすことはできなかったんだ…。

俺とは付き合いの長いサチコだ、今回俺のいつになく真剣な雰囲気を察して話そうと思ってくれたんだろう。

夏彦を探っていたら、とんでもない話とぶち当たってしまった。

俺と同世代の女の子たちが深い闇に堕ちようとしている。俺はかなり動揺した。だけど明らかに高校生である俺の手に負える問題では無い。それにもしも夏彦の企んでいることがこの薬物の一件と関わっていたら?

いやいや!それは流石に無いだろう……。

心では否定してみたが、なぜか引っかかる。どうしても否定しきれない…。

港付近を探っていた時にふと思った「夏彦のヤツ、まさか海外のヤバいものの取引に手を出しているとか?」と独り言でつぶやいた自分の言葉を思い出す。

そういえば美羽はこう話していなかったか?「それほど飲んだつもりはない」家出少女はそう言っていったと……。もしもその酒の中に危険ドラッグが混入されていたとしたら?……

これは後で美羽にもう一度確認するしか無いな……。

しばらく黙考していた俺に、不意にサチコが声をあげる。

「あっ!そういえば思い出したよ。酒に酔わされた女子のこと」

「えっ?それはつい最近、20キロ以上離れた場所でフラフラしているところを補導された女子のことか?」

「えっ?三島先輩その娘のこと知ってたのか?でもそれとは違う話もあるんだよ!」

「そうなのか!?聞かせてくれ!その話」

「ああ!その話を聞いたのはいつだっけかなぁ?ま、とにかくその酔わされたって娘は別にレイプされたわけじゃ無いんだ。その娘、遊ぼうと思って訪ねた友達が留守にしていたんで、これからどうやって暇を潰そうって思いながら家に帰ってるところに同じ歳ぐらいのひとりの男子に声をかけられたそうなんだよ。」

「それで?」

「ちょうどいい!こいつにタカって暇を潰そうって考えたその娘は、焼肉?だっけか居酒屋?だっけか忘れたけど、そこで奢らせることにしたんだ。」

「んで、そこで酔いつぶされてしまうと?」

「そうそう!それでここからが変な話になるんだけど。その娘は酔いつぶされてしまうんだけど、酔いが少し覚めて、正気に戻ったら、目隠しされててね、手足を縛られて、身動きできない状況になってたんだ!」

「そいつはかなりヤバく無いか?」

「そうなんだよ、その娘もかなり焦ったらしいけど、人が近づいている気配がして、もうダメかも?って思ってたら、いきなりスカートをたくし上げられ、太腿を叩かれ始めたんだ。それもなんだか平ぺったい細い板のようなもので。もちろんそれなりに痛かったらしいんだけど、痛みは皮膚の部分だけで大怪我するようなものじゃ無かったらしい」

「なんだ?変態野郎か?」

「その娘もその変態野郎だと思って、そのプレイが終わるまで我慢してれば解放されるかもって?思ってたら。そいつ、いきなりその娘に「なぜこんな夜更けまで遊び回っている?」って、説教を始めたらしいんだ。しかもご丁寧に声が変わって聞こえるイヤホンまでつけられているから、男か女かもわからない状況で」

「はぁ?それで」

「その後も説教されながら叩かれ続けるから、その娘キレちゃってそいつに罵声を飛ばしたらしいんだけど、さらに説教と叩かれるのが酷くなって、とうとうその娘、根をあげて、そいつに「ごめんなさい、これからは夜遊びはしません!」って言ったのね。そしたらそいつ急に優しくなって、少し涙声になりながら「わかった許すよ」とかなんとか言いながら傷の手当てまでしてくれて、目隠しと手当てをされたまま車で遠い場所まで運ばれて、そこで解放されたんだって。結局、説教と叩かれる以外はなにもされずにね」

サチコはなんだか笑い話をしているように、時折、笑顔を見せながら、その事件の全容を話してくれた。彼女たちからすれば日頃の修羅場のような状況と比べるとこの話は笑い話の類に入るのであろう。

そんなサチコに俺は真剣な面持ちで尋ねる。

「………ちょっと聞くが、その娘は酒に弱いのか?」

「………いいや、あたしは直接見たわけじゃないけど、その娘とよくつるんでいる友達から聞いたことがある。平気でウイスキーのボトルを2、3本を開けて、それでも顔色ひとつ変えないってね…」

深刻な顔をして尋ねた俺に、サチコの顔から笑みは消え緊張した面持ちとなる。俺の表情になにかあると察し、余計なことは言わずに俺の聞きたかったことだけを答える。サチコは賢くて助かるぜ。

「そうか、もしよかったらその娘の写真見せてもらえないか?」

少しの間考え込んで、サチコは自分のスマホを取り出し、その娘が写った画像を見せてくれる。

「っ!」

その画像を見て驚いいる俺に、サチコは少し不安げに尋ねてくる。

「どうしたんだい!」

「この娘、さっきちょっと話した家出娘と似てないか?」

「家出娘?…。ああっごめん、あたしその家出娘のことは美羽から聞いただけで、顔までは知らないんだ」

どうやら美羽は家出娘を探していた際にサチコのところにも顔を出していたようで、家出娘が見つかったときに、無事だったことをサチコに報告していたらしい。

「ちょっと、これを見てくれ」

俺はついさっき美羽が送ってくれた家出娘の画像をサチコに見せる。

「ああ、たしかによく似てるな…」

サチコに説教娘の写真を俺のスマホに送ってくれないかと頼んでみる、サチコは何やらただならぬ状況になっていると察したのか、すぐさまその説教娘と連絡をとって了承を得、俺のスマホにその子の画像を送ってくれた。

その説教娘の名前は「橋田ユキ」というらしい。

どこかで聞いたことのある名前だ。

そのユキとの連絡の際、サチコに、ナンパしてきた男の特徴を聞いてもらう。

その男も俺たちと同年代で、やはり帽子を目深に被りサングラスをかけたヤンチャな感じだったそうだ。身長は170cm以上はあったとのことで、家出娘をナンパした男とは一致しなかった。だが、耳はもちろん鼻や口に多数のピアスを開けていたという、人相を変えるためにフェイクのピアスじゃ無かったか?と訪ねたが、その男は自慢げにそのピアスを間近で見せてくれたらしく、どの部分にもしっかり穴が空いていたという。

今回もこのナンパ男は夏彦とは別人物だ。夏彦はピアスの穴なんてどこにも開けていない…。

その後サチコに礼をいい、なにか聞きたいことや分かったことがあれば連絡すると伝え、その場を後にした。


サチコの家からの帰り道、俺の心は重く沈んでいた。

正直に言うと、夏彦のことを調べようと思ったのは「これはなんだか面白くなりそうだ…」と遊び半分の気持ちからだった。どうせ高校生がするような悪さだ、高が知れていると舐めてかかっていた。だが「違法ドラッグ」の話が出たあたりから、「遊び半分ではすまないのでは…」と心が不安で満たされそうになる。

ふと悪ガキだった頃に世話になったおまわりさんのことを思い出す。今では出世して少年課の刑事に昇進している。

だが、今のところ夏彦が事件に関わっている証拠は何も見つかっていない。その刑事に相談したところで、「そうか、そうか、それは心配だな…」で済まされるだろう。

「ダメだ!ダメだ!」

俺はどんどん弱気になっている自分の気持ちに喝を入れる。

ここまで関わってヤバいと思った瞬間、シッポを巻いて逃げ出すなんてダサすぎる!

それに俺は別に夏彦のことを嫌っているわけじゃ無い。

何事にも全力で取り組む夏彦のことを、ちょっとウザいとは思いつつも、多少の好感も抱いている。

そう、初めは遊び半分だったが、そのもう半分は、もしも夏彦がなにか悪さをしているなら、それを正し、反省させるのが目的だったはずだ。

俺が大吾にしてもらったように、夏彦にも「いいヤツ」になって欲しかったから始めたんじゃ無かったのかっ!(まだ悪さをしていると決めてかかるには早いが…)。

そう自分を鼓舞すると、だんだん力が戻ってくる。

「よし!将を射んと欲すれば先ず馬を射よだ!」

俺はまず、夏彦には直接当たらず、夏彦の周りから攻めていくことにした。

「待ってろよ夏彦!俺が必ず悪の道から救い出して見せる!」(まだ悪さをしていると決めてかかるには早いが…)

そう心に決め、明日からの行動を計画し始めるのだった。

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