【第十一話】勇者激昂す!
「なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!……なぜだ!」
「なぜ僕の部隊が壊滅している!ありえないっ!」
僕は手始めに、見過ごしていれば間違いなくこれからの日本侵攻の弊害となるであろう、立花大吾を血祭りに上げるべく、500の兵を立花大吾の住む町へと送り込んだ。
今頃は立花大吾の住む町は壊滅、持ち帰った立花大吾の骸を眺め、安心して日本侵略へと駒を進めているはずだった。それなのになぜ!?
立花大吾の組織『Z』が動いている?いやそれは無い、ヤツらは犯罪集団ではあるけど、戦闘集団というわけでは無い。戦いには不慣れなはずだ……。
確か立花大吾は防衛大学に通っていると聞いている。まさかあいつが僕らの潜伏に気づいて自衛隊を動かした?
いやいや、それも無い。仮に立花大吾が自衛隊を動かしたとしても、魔物たちの死因はどれもこれも鈍器で殴られたような撲殺だ。銃火器による傷はひとつも無かった。
それに現場には薬莢のひとつも落ちていなかったし…、いやまて、もしかして新しい兵器を開発していたのか?…例えば強力に圧縮した空気を殺傷能力を持つに至るまで高め放出する?…。
そんな兵器を開発しているなら、『Z』の介入も視野に入れなくてはならない。
もう一度、魔物の死体を検死する必要があるなぁ…。
ここは一度、異世界に撤退した方がいいのか?…………。
ダメだダメだ!。
ここまで準備するために、どれだけの時間を要したと思う!四年だぞ!あっさり諦めるには余りにも惜しい。それに異世界滅亡までの時間はすぐそこまで迫っている。計画のやり直しなんてあり得ない!
それになぜだ?あそこまで魔物を殲滅できる兵力を持っているのに、殲滅後はあっさりと撤収している。逃げていく魔物たちも確認できているはずなのに、周辺を捜索した様子もない。やろうと思えば僕らの拠点まで強襲することぐらい簡単なことだろうに………。何を企んでいる?
とりあえず僕らの拠点だけでも移動するか?
それもダメだ。あれだけの部隊を動かすのは目立ちすぎる。狙い撃ちしてくれと言っているようなものだ。
それに幸いなことに拠点は地下に展開している。敵がどんな兵器を持っているかはわからないが、あれだけの火力だ、それなりに大型の兵器と推測できる。狭い地下では取り回しが難しいだろうし、あの強力な火力を地下で使用してしまうと地盤の崩落を招くことになるだろう。それは敵にとって自殺行為だ。未知の兵器の使用は無いと考えていい……?
そうか!
敵は僕らの拠点が地下であることを察知して、どう攻め込むかを考えあぐねているんじゃ無いのか?…そうだそうに違いない。地下では拠点の正確な規模を把握するのは難しい。どんな兵器でどれだけの攻撃をするのか決めかねている?。それに地下内の地の理は僕たちにある、トラップの存在も無視できない。突入して味方に甚大な被害を出す可能性に躊躇している?。敵の今の状況はそんなところなのでは?。
僕が考察するに、敵はつい最近僕らの存在に気づき、僕らの拠点まで突き止めてはいた。そしてなんらかの方法で今回の急襲を察知し、あの謎の兵器を装備し僕らの部隊を待ち伏せして殲滅まで追い込んだ。だが、まだ拠点の制圧する術までは考えついていなかった……。
今回の敵の待ち伏せに際して、敵は急遽登山口を閉鎖した。斥候部隊から閉鎖の事実を聞かされている。
ここら辺は一般市民も登山や散策にやってくる。長期間の閉鎖は市民たちに疑念を抱かせるだろう。騒ぎを大きくしたく無い敵は、殲滅した部隊を仕事が終わり次第速やかに撤収させた……。それなら凡その辻褄はあう。
異世界への撤退も出来ない。拠点の移動も出来ない。それなら僕たちが出来ることは籠城しかない。今のうちに地下拠点の強化と地下通路の拡張をして脱出路の数を増やしておこう。
日本全国に散らばった、他の拠点が敵にどれだけ把握されているのはわからないが、今の時点で他の拠点からはそのような報告を受けてはいない。ならば、僕らの拠点を囮にし、敵の意識をこちらに集中させて、他の拠点からの攻撃を優位に進める。
こうなった以上それしか道は無いように思えたが、僕はすぐさま緊急作戦会議に他の幹部たちを招集し、これまでに至った考察を話し、今後の作戦を幹部たちに伝え異論や他に気づいたことが無いか尋ねる。
本来なら総司令官である宰相に指示を仰ぎたいところだが、宰相は無理が祟ったのか、二日前の夜に倒れてしまい、意識も戻らず、急遽陛下に救援を求め、異世界に送還されていた。
招集した幹部からは多少の質問を受けただけで、今後の作戦は僕の考えた通りに進むこととなる。他の拠点の幹部たちには作戦の延期と今回の出来事の概要、そして対応策を念話で伝え、僕の長い長い1日は終わりを迎えた。
ベッドの中で僕は今日一日を振り返る…。
決めてかかるのは良く無いと思うが、今回の敵はおそらく自衛隊で間違い無いだろう。今回の攻撃は国に許可を求めず、独断で動いた。だから国への発覚を恐れて、思い切った攻撃ができない。そんなところでは無いだろうか…。
そうなるとどうしても気になるのが立花大吾の存在だ。
僕がまだ高校生だった頃の忌まわしい記憶が蘇る。
高校生だったころ、僕は立花大吾に散々煮湯を飲まされた…。
あの夜もそうだ…。
あの夜、僕には大事な仕事があった。『Z』壊滅のための大事な仕事だった。どうしても秘密裏に動かなければならなかった僕は身元がわからないように十分に気を払い、ある港まで足を運んでいた。
誰もいないとわかっていても気を抜かず、これでもかってほど周りを警戒していたのに…。
街灯から逃れるように倉庫の影に潜みつつ目的の場所に向かう僕に、いきなりあいつは僕にぶつかってきた。
突然、仰向けにひっくり返され、目深に被っていたフードはめくれ、かけていたサングラスも吹き飛ばされた。
「すっ!すみません!………………あれっ?東郷?」
あいつは素っ頓狂な声で僕を助け起こした。
隣にはあいつの妹。名前は確か…美羽が申し訳なさそうにこちらを覗き込んでいる。
父の仕事の手伝いでこの港に来ていると、その場をなんとか誤魔化し兄妹たちが僕から遠ざかると、すぐにその場を離れる、今夜の計画は中止だ。僕は用心深い。それに今回出会ったのはあの立花大吾だ。あいつとはまさかこんな場所で?という場面で何度も遭遇している。そんな様子は微塵も感じないが、あいつは僕の計画に薄々勘付いているのでは?と思わされてしまう。
その港での出来事の2週間ほど前にもあいつら兄妹と、まさかこんな所で?という場所で出会っている。場所は夜の廃工場だった。その時も出会い頭の正面からの衝突で、僕はすっ転がされてしまう。
日本を憂い、日本のためだけに、自分を捨ててまで働き続ける僕にとってその夜は、自分を見つめ直すための重要な時間だった。だが、立花大吾のおかげですっかり興醒めしてしまい、僕のためにその場を用意してくれた人たちに連絡を入れ、詫びを入れてその場にはもう行かないと告げる。
その後だ、僕が立花大吾が『Z』の幹部であることに気付いたのは。
偶然にしては出来すぎている、度重なる立花大吾との出会い頭の衝突。
僕は立花大吾をマークすることにした。
教室内に隠しカメラを設置して、立花大吾の席のある場所を四六時中、録画して観察し、ヤツの席には盗聴器を仕込んで、ヤツの周りにいる者たちとの会話も録音した。
そして、ついに僕は証拠となる映像や録音された会話を入手することになる。
まず一つ目、当時、立花大吾の近くには三島ヒロシというヤツの手下が控えていたのだが、ある日その三島ヒロシが、不在にしていた立花大吾の席に、一枚のメモを投入する動画を発見する。
僕は最新式の画像解析ソフトで、そのメモになにが書かれているのか読み取らせてみた。
そのメモに書かれていたのは、「1900よりZ」間違いなくそこには『Z』と書かれていた。メモの内容は19時から何らかの『Z』での活動があることを知らせようとしているのでは、と推測できる。
そのメモの発覚で、もしかすると立花大吾は『Z』の関係者では?と疑うようになり、ますます監視体制を強めることとなる。
そしてついに、決定的な会話の録音に成功する。
またしてもヤツの手下、三島ヒロシとの会話だった。
ヤツらは周りを酷く気にしている様子で、かなり小声で会話をしていたが、高性能マイクのおかげで、その会話をバッチリ録音することに成功する。
話の内容は…
「今日の夜七時、Zの会合があるけど、おまえ来れるよな?ていうか、おまえ大幹部だからきてもらわねぇと困るんだけど…」
「ああ、大丈夫だ必ず行くとしよう!」
間違いない!立花大吾は間違いなく『Z』の幹部、それも大幹部だと聞いて、僕は小躍りしそうなぐらいに喜んだ!
これで立花大吾から『Z』の手がかりはおろか、組織の動きや規模、もしかすると泣きどころまで掴めるかもしれない!
僕はあらゆる手段を使って、立花大吾の動きを徹底的にマークする。
だが流石は、世界的大犯罪集団『Z』の大幹部、なかなか尻尾を掴ませない。
僕も忙しい身だ、立花大吾だけにかまっている暇はない。
以前より計画していた『Z』対抗手段の肝となる製薬会社設立のために奔走し、いち早く納得のゆく成果を出すために、陰ながら支援していたからだ。
その新会社は同じ高校に通う優秀な生徒に運営を任せていた。将来この国のリーダーとなる器を持った生徒たちだ。彼らは驚くべきスピードで、僕の満足のいく成果を出すことになる。
さて、そこからは僕の出番だ。
僕は早速、『Z』への攻撃を開始した。
優秀な生徒たちのおかげで僕の攻撃は功を奏し、『Z』へ大打撃をあたることに成功!
あとは『Z』本体への直接攻撃を開始するだけだ。そう思っていた矢先……。
その最悪の日は突然訪れた。
僕の最も信頼する親友「美波雄二」の裏切り。
その裏切りにより、僕は全国指名手配犯として日本中の警察から追われることになる…。
追われる身となる直前。美波雄二は僕の目を盗んで立花大吾とちょくちょく接触していると他の仲間から耳にしていた。
だが、不在にしがちな僕の代わりに、立花大吾の監視を、信頼する美波雄二に頼んでいた僕は、その監視活動の一環だろうと高を括っていた。
不良どもを親の仇のように忌み嫌う美波雄二、しかも立花大吾はその不良たちのリーダー格で最も毛嫌いしていた。なのに……。
間違いない!美波雄二は立花大吾に唆されたのだ!
勇者となり強大な力を得た僕は、どこかで立花大吾は取るに足らない存在と舐めてかかっていたのかもしれない……。
改めて立花大吾の身辺を徹底的に調べることにした僕は、斥候部隊の諜報員たちを、ここに呼び付けることにした。