第72話「さ、そういうわけで。たくみん。どっちを彼女に選ぶの? アタシ、それとも美月?」
「2人とも、盗み聞きしてごめんなさい。本当にすみませんでした。でも盗み聞きするつもりは本当になくて、つい隠れてしまったら、そこからはもう出ていくに出ていけなくて。それは本当なんだ」
俺は2人に謝罪した。
しっかりと頭を下げて、言葉だけでなく態度でも詫びる。
もはやこれ以上の言い訳をすることは許されなかった。
それは2人が互いを思い合う真摯な気持ちへの冒涜だ。
そんな俺の誠意が伝わったのか。
陽菜はさっきまでのツンツンモードから一転、少し照れたように頬を染めながら言った。
「でもま、ちょうどいいと言えば、ちょうどいいのかもね」
「ちょうどいい……とは?」
「もうこうなったら、ここで聞くしかないよね」
「き、聞くって何をだよ?」
「それはもちろん、アタシと美月のどっちを選ぶかってこと。話、全部聞いてたんでしょ?」
「そ、それは――」
「ひ、陽菜ちゃん!? いきなりなに言って――」
血の気の引いた真っ白な顔で、死んだ魚のような焦点の合っていない目で、壊れたスピーカーのようにブツブツ言っていた木陰さんが、ハッとした顔で話に入ってきた。
「だってもうアタシと美月の気持ちは、たくみんに知られてるんだよ? ここで聞かないでどこで聞くのよ?」
「だってそんな、こ、心の準備とかも、全然できてないし――」
「アタシだって心の準備なんてできてないし?」
「だ、だったら──」
「大丈夫、美月にはアタシが付いてるから安心して♪」
陽菜がウインクしながら右手の親指をグッと立てた。
とてもチャーミングで、今の状況も相まって俺のドキドキゲージが一気に加速していく。
「普段なら頼りになるし嬉しいんだけどぉ! この状況でそれはどうかなぁ? 今、私は陽菜ちゃんと勝負してるんだよね!?」
「細かいことは気にしないのー」
「ちっとも細かくないよね? 陽菜ちゃんか私か、どっちが選ばれるかって、とっても大事な場面だよね!?」
木陰さんはなおも抵抗する様子を見せたものの、陽菜はニッコリ笑顔でそれをサクッとスルーすると、俺を見て言った。
「さ、そういうわけで。たくみん。どっちを彼女に選ぶの? アタシ、それとも美月?」
「え、いや、その──」
「もしかして頭の中がこんがらがってる感じ? じゃあ改めてまとめるね。アタシは6年前に颯爽と現れて助けてくれたたくみんのことが、今もずっと好きで」
「お、おう……」
陽菜に面と向かって好きとか言われるのは、ものすっご~~~く恥ずかしい。
「美月は美月で、子猫を拾ってあげるような優しい人が好みのタイプなんだって。あはっ、つまりどっちもたくみんが好きってこと。いやーん、たくみんモテモテじゃーん♪ ウケるー♪」
「理解はできているんだけどな? けど、急にどっちか1人を選べと言われてもさ……」
モブ男子Aに、おそれ多くもキラキラ女子2人のうちから1人を彼女に選べと、陽菜さん貴女はそうおっしゃるのですか?
しかも2人とも俺のことが好きだって?
ははっ、やれやれ。
俺は自己顕示欲がムキムキな中学二年生の男子が見るような、アホな夢でも見ているのだろうか?
思い切りほっぺをつねってみると、とても痛かった。
やっぱりこれは現実らしい。
つまり俺はキラキラ美少女ツートップの陽菜と木陰さんの2人から告白され、そのどちらかを彼女として選ばなければいけないようだった。
なんだよそれ、意味わかんないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?




