第71話「キカレテタ、キカレテタ、キカレテタ……」
「えっと、その……だな? 木陰さんが手を振り上げるのが見えたから、止めようと思って飛び出たんだけど、ぜんぜん間に合わなかったっていうか……」
俺は陽菜の強烈な視線に気圧されながら、モゴモゴと言い訳を始めた。
「へぇ。ってことは、こっそり隠れて盗み聞きしてたんだ?」
「あー……、いや……、その……、だから……」
「だから?」
「け、決して盗み聞きしようとして、していたわけではないんだ……ぞ? 成りゆきと言いうか、不可抗力と言うか。2人の様子がただならなくて……さ?」
「つまり、やましいことがあったから隠れたんだよね?」
「そ、そうとも言う……」
陽菜にド直球で問い詰められて、俺の言葉はどんどんとモニョっていく。
親友2人が仲直りしてこの物語はハッピーエンド──のはずが、俺の物語はまだ終わらせてはもらえないようだった。
「っていうかクロトもいるじゃん」
「そ、そうなんだよ! クロトが外に遊びに行きたいって言うから、ちょっとだけ家の出してあげたんだ。そしたら庭を出てどんどん外に行っちゃってさ! ぜんぜん戻ってくれないから仕方なく見守りながら付いて行ったら、向かった先の公園に2人がいて、なんかただならぬ雰囲気だったから反射的につい隠れてしまったんだ」
俺はここぞとばかりに、クロトに責任をなすりつけることにした。
すまんクロト、ここはお前を言い訳に使わせてもらう!
あとでお詫びのチュルルを腹いっぱい食べさせてやるから、今だけは許してくれ!
「そういえば、話し始めた時に猫が鳴いてたけど、あれってクロトだったんだ」
「そうそう! クロトがさー、そういう感じでさー。だから仕方なくてさー」
「ってことはつまり、たくみん最初から全部丸ごと聞いてたってことじゃん!」
「…………(滝汗)」
うげぇぇ!?
しまった!
どこから聞いていたかは、まだバレていなかったんだった!
だって言うのにこれじゃあ、最初から聞いてたのを自白したに等しいじゃないか!
完全に墓穴を掘っちゃってるじゃん!
「たくみ~ん?」
「ご、ごめん! 深刻な話が始まったから、出ていくに出ていけなくてさ! しかも途中から俺の話になったみたいで、さらに出ていけなくなって! もうこれは隠れ続けるしかなかったっていうか!」
「だから、そもそも隠れなきゃ盗み聞きもしないで済んだんだよね?」
「えっと、あ、はい……」
俺はクロトに濡れ衣を着せたりしつつ、愚かな言い訳を繰り返したものの、陽菜は理路整然と俺を追い詰めてくる。
陽菜ってば、なんかやけにツンツンしてないか?
あ、あれかな?
俺を好きだったことを知られて、その恥ずかしさを誤魔化すために過剰にツンツンしてるのかな?
なんてことを冗談でも言ったら、金輪際2度と口をきいてくれなくなるかもしれないので、俺はそれ以上は口答えせずに口を閉ざした。
そして心優しき木陰さんへ、すがるように視線を向ける。
すると木陰さんは口をパクパクとさせていた。
「キカレテタ、キカレテタ、キカレテタ……」
顔をリンゴのように真っ赤にしながら、うわごとのようにブツブツと声にならない言葉を呟く木陰さん。
こっちはこっちで、もしかして俺の存在に今の今まで気付いてなかったのか?
陽菜のことに全集中だった感じ?
木陰さんっていつも目の前のことに一生懸命だもんな。
それが一番の親友のことともなれば、周りのことなんてこれっぽっちも気にしてなかったとしても不思議じゃない。
さすが木陰さん、ものすごい集中力だ。
そしてそこまで一生懸命にお互いを思い合い、想いをぶつけあった木陰さんと陽菜のやり取りを盗み聞きをしていたという罪悪感で、俺の心はいっぱいになっていた。
もう俺がすべきことは決まっていた。
いや、最初から決まっていたんだ。




