第64話「任せて。ちゃんと2人を仲直りさせてみせるから」
「だってほら。陽菜ちゃんって昔からすごくモテるから。だから仲良くなった男の子はみんな陽菜ちゃんを好きになっちゃって。それで告白するんだけど、陽菜ちゃんはOKしなくて。それで気まずくなっちゃうの」
なるほど。
陽菜の一番の親友である木陰さんとしては、この状況はある種の「陽菜あるある」に見えてしまうわけだ。
だけど俺が陽菜に告白するなんて、さすがに無理ゲーが過ぎるだろ?
そういうのは陽菜に釣り合うようなイケイケ男子の話であって、俺は十把一絡げのモブ男子Aだぞ?
もはや無謀とか蛮勇とかそういうレベルだ。
まったく木陰さんは俺を過大評価し過ぎだっての。
「たしかに陽菜はモテそうだよなぁ。でも告白はしてないんだよな――って、あっ」
俺はあることに思い至って小さく声を上げた。
「何か思い出したの? やっぱり、こ、告白しちゃってた!?」
「いやいや、だから告白したんじゃないんだよ。日曜日にスーパーに行った帰りに、たまたま陽菜と会ってさ。話の流れで小さい頃に会ってたって話をしたんだけど」
「昔の話……? えっ? 2人って昔からの知り合いだったの?」
「それがさ。実は小さい頃に一度だけ、俺と陽菜が会ってたんだよ」
俺はまたもや上がりそうになるテンションを、しかし今度はしっかりと自制する。
「それって──」
「そういえば木陰さんは知ってるんだっけか。陽菜のマウンテンバイクのチェーンが外れて困ってたのを、俺が助けてあげたことがあったんだ」
別に隠すことでもないと思った俺は、例の話を木陰さんに告げた。
「──」
「かれこれもう5,6年前の話なんだけど。陽菜の家まで送って行った時に、ガレージにそのマウンテンバイクが置いてあるのを見つけてさ」
「────」
「それで俺、思わずテンション上がっちゃって、思い出語りしちゃったんだよな。初恋だったとかつい言っちゃって。それが陽菜からしたらちょっとキモかったのかもしれないなって、今はかなり反省してはいるんだけど」
改めて説明してみると、あの時の俺ヤバすぎだろ。
ガッツき過ぎだ。
そりゃ陽菜も距離を取ろうとするよ。
「それだよ、拓海くん」
木陰さんが大きく一度頷いた。
「やっぱりかぁ。あーあ、やっちゃったなぁ。マジかって感じで、俺すごく興奮しちゃっててさ。陽菜は全然冷静だったのに、俺は好き放題しゃべり続けちゃったんだよな」
「陽菜ちゃん、冷静だったんだ?」
「最初は驚いてはいたけど、途中からは『ふーん、あっそ』って感じだったな。ああもう! ちゃんと陽菜の反応を見て、俺ももっと冷静になるべきだったよなぁ」
「そっか……そうだったんだね。うん、陽菜ちゃんの気持ちなんとなくわかったと思う」
「やっぱり俺のせいだよな」
後悔先に立たず、なんてことわざが頭をよぎった俺に、しかし木陰さんは言った。
「ううん、違うよ。拓海くんはむしろいいことをしたはずだから」
「いいことって? えっと、どういう意味?」
「私、ちょっと陽菜ちゃんと話してみるね」
だけど木陰さんは俺の疑問には答えずにそれだけ言うと、スマホを取り出した。
話の流れ的に、今から陽菜に連絡をするんだろう。
「お、おう」
木陰さんが何に納得したのかわからないまま、俺はうなずいて成り行きを見守る。
文字を打っているので、ラインで連絡をしているようだ。
「ごめんなさい拓海くん、今日はもう帰るね」
「えーっと、陽菜とは話はついたのか?」
「それはまだなの」
「そっか」
「ごめんね」
「そんな、ぜんぜん」
「じゃあまた、バイバイ」
「ああ、バイバイ。その、上手く行くことを願ってる」
「任せて。ちゃんと2人を仲直りさせてみせるから」
木陰さんが断言するようにはっきりと言い切る。
その言い方が木陰さんらしくないなと、なんとなく思った。
俺は木陰さんを玄関まで見送る。
ローファーをはいた木陰さんがドアを開けて外に出る。
手を振って別れた。
ついには木陰さんも居なくなり、ばあちゃんちには俺とクロトだけが取り残された。




