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第62話 ~陽菜SIDE~(2)「神さま酷いよ……。こんなのって、ないよ……。酷すぎるよ……」

 でも実際はそうではなかった。


 今さらになって陽菜は、拓海こそが陽菜の好みの顔立ちをしているのだということを、理解していた。


 より正しく言えば王子様である拓海の顔を、陽菜はあの初めて会った子供時代からずっと無意識に好いていて、拓海の顔こそが1番のイケメンだと心の中で設定してしまったのだ。


 クロトを保護した日に「初めて会った」拓海をいい感じの男の子だなと思ったのも、潜在意識に強く刻み込まれた好意のなせる技だった。


 なにせ運命を感じた相手なのだから、無意識下で気を許してしまっても当然だ。

 理性は気付いていなくとも、陽菜の本能はちゃんと拓海が王子様だと認識していた。


「つじつまもバッチリ合うもんね……。ラフな格好だけど地元の子じゃなかったのは、おばあちゃんの家に遊びに来てたから……。だからどれだけ地元を探しても出会うことはなかったんだ……」


 今日、スーパー帰りの拓海と出会った時のように、陽菜は暇を見つけてはよく散歩に出かけていたのだが、それは全て自転車の王子様と再会する可能性を上げるためだった。

 そして今日、ついに再会してしまったのだ。


「これだってたくみんに話を聞いた時に、気付けなくはなかったじゃんか……」


 知ってしまえばとても簡単な話だ。

 だけど陽菜は今の今まで、それにも気付くことができなかった。


 そのせいで陽菜は、悪夢のような状況を招いてしまったのだ。


「ようやく自転車の王子様が――運命の人が見つかったのに……。6年も待ったのに……。なのにどうして彼が、美月の好きな人なの……?」


 なんで?

 どうして?


 陽菜の頭の中で、「なんで?」と「どうして?」がグルグルグルグルと回り続ける。


「美月にたくみんのこと応援するって言っちゃったもん……。なのにやっぱりアタシもたくみんが欲しいだなんて、今さら言えないよ……。そんなことしたらアタシ最低女じゃん……」


 美月は陽菜にとって、小学校からずっと一緒の一番の親友だ。

 その親友の想い人を奪うなど、およそ人のしてしていいことではない。

 犬畜生にも劣る行いだ。


「神さま酷いよ……。こんなのって、ないよ……。酷すぎるよ……」


 だから陽菜にはもう、決壊しそうになる涙腺を必死に堪えながら、神さまを呪うことしかできなかった。


「美月には知られちゃいけない……。たくみんが自転車の王子様ってことは隠さないといけない……。だって知ったら美月は絶対、アタシにたくみんを譲ろうとするから……。美月はそういう優しい子だから……。だから絶対に知られちゃいけないんだ……」


『陽菜ちゃんがずっと想ってきた人なんでしょ。だったら私はいいよ。遠慮しないでアタックして』

 美月が少し悲しそうにしながらも、だけど優しい笑顔を浮かべてそんなセリフで応援してくれるであろうことが、長年の親友である陽菜には手に取るようにわかってしまう。


 だから。


「これからはたくみんとは距離を取らないと……。一緒にいるのはダメ……。アタシは美月を裏切りたくない……」


 拓海と一緒にいると、込み上げてくる積年の想いが抑えきれないだろうから。

 拓海の顔を見ると、欲しくて欲しくて堪らなくなるだろうから。


 だから陽菜は、拓海の家に行くのをやめた。

 一番の親友が初めて好きになった人を奪うような最低女にだけは、なりたくなかったから。




~陽菜SIDE~ END


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