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第60話 だけどその日から、陽菜は俺んちに来なくなった。

「えっ。あ、ご、ごめん。アタシこそなんかビックリしちゃって、頭の中がこんがらがっちゃってて。ごめん――」


「だよなぁ。俺も気付いてマジでビックリしたし。でもまさかあの時の女の子が、陽菜だったなんてな」


「う、うん……」


「実は俺さ、話しかける前はその子が男子だって思い込んでたんだ。だから女の子だってわかって、めちゃくちゃドキドキしたんだよ。しかもすごく可愛い女の子だろ? どうしようどうしようって、心の中では緊張しまくりだったんだぞ?」


「そ、そうだったんだ……」


「そうそうあの時、友達と待ち合わせしてたって言ってたよな? 間に合ったのか?」


「うん、それは、うん、なんとか……」


「それはよかった。俺も手伝った甲斐があったよ」

「えっと、うん……あの時は本当に助かったの。うん……すごく……」


「これも今だから言うけどさ。多分あれが俺の初恋だったんだよな。ほんとドキドキしたのを今でも思い出せるよ」


「…………」


 しかしどこか様子がおかしかった陽菜は、そこで完全に黙り込んでしまった。


 あ、あれ?

 なんか俺のテンションと全然違うんだけど。


 俺はなんかもう運命とかデスティニーを感じちゃったりしてて、今のアゲアゲな気持ちを陽菜と分かち合いたくて分かち合いたくて、しょうがないんだけど。


「……………………」


 えーと、陽菜?

 なんでなにも言ってくれないんだ?


 いつもみたいに、


『たくみんがあの時の男子だったとか、マジウケる~♪ 世界狭すぎっしょー! っていうか? さらっと言ったけど、初恋ってなに? まさかアタシをナンパしようとしてるの? やだー、せんせー! なんかたくみんが超チャラいんですけどぉ~』


 とか言ってくれていいんだぞ?


「……………………」


 いやマジで、なにか言ってよ?

 俺だけテンションが高くて恥ずかしいし、気まずいじゃん。


 いやーな感じの沈黙が続く中、俺がなんと言ったものかと頭を悩ませていると、陽菜が妙に冷めた口調で言った。


「今日は送ってくれてありがと。じゃあね、また」


 陽菜は早口でそれだけ言うと、くるりと背中を向けて、駆け足で家の中へと入って行ってしまった。


「あ、うん。また明日……」


 家の前に取り残された俺は、何が何やらまったくわからないまま、小さく手を振ってそれに応えたものの。

 陽菜は振り返りもしなかったので、聞こえていなかったのかもしれなかった。


「……陽菜のやつ、どうしたってんだよ? 俺、なんか気に障ることでも言ったかな? 俺の態度がキモかったとか? 多分俺、かなり興奮してたもんな」


 モブ男子Aがキラキラ女子とちょっと仲良くなったからって、急に早口で、


『実は昔、君と会ったことあったんだよね。初恋の相手なんだ(*´ω`*)デュフフ』


 とか言い出したら、客観的に見てまぁキモイと思う。


 初恋の相手が陽菜だとわかって、さっきの俺はかなりテンションが上がってたもんな。

 こんな偶然あるんだって、それを陽菜に伝えたくて必死だったから。


 今、冷静になってみると、ちょっとキモくなり過ぎていたかもしれなかった。


「気を付けないとだよな。俺に言い寄られたように感じて、怖かったり不愉快だったりしたのかも」


 自分の感情を一方的に押し付けるのはよくない。

 要反省だ。


 俺にとっては大事な思い出でも、陽菜にとってはそんなこともあったな程度だったんだろう。


「でもま、陽菜の性格なら、明日になったらケロッとした顔で『たくみん、おはよー。昨日はなんかごめんねー』とか挨拶してくれるだろ」


 誰にでも優しい陽菜だって人間だし、機嫌が悪い日もあるはずだ。

 女の子はなにかと大変だって保健の授業でも少し習ったしな。


 俺は深く考えることもなく、陽菜の家を後にした。


 だけどその日から、陽菜は俺んちに来なくなった。

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