第56話 休日の陽菜
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それはとある休日のことだった。
「あれ、たくみんじゃん。こんなところで会うなんて、奇遇だねー」
駅前のスーパーに¥98の特売玉子(おひとり様1個まで、超重要)と、その他食材、牛乳、ゼロカロリーコーラ、インスタント食品などなどを買いに行った帰りに、俺は陽菜とバッタリと出くわした。
「よっ、陽菜。奇遇だな」
「だよねー。っていうか、たくみんと休みの日に会うのは初めてだもんね」
「だよな。陽菜の私服を見るの初めてだし」
「どうどう、可愛いでしょ?」
陽菜は軽くウインクをすると、くるりと回った。
膝丈のフレアスカートがふわりと舞う。
さらに右手を腰に当てて、モデルっぽい決めポーズをとる。
それだけでどこにでもあるアスファルトの道が、ランウェイへと早変わりしてしまった。
トップスはボーダーのロンTで、いたってシンプルな着こなしだが、シンプルである故に、陽菜本人の可愛さがこれでもかと引き立っている。
素材が良いから、味付けはむしろ控えめな方がいいんだろうなぁ。
制服姿も可愛いけど、私服姿はマジ半端なかった。
「よ、よく似合ってる……と思う……ぞ」
俺は私服キラキラ女子の放つカジュアルキラキラオーラに気恥ずかしさを盛大に感じながら、なんとか言葉を絞り出した。
顔がカァッと赤くなるのがわかる。
いやもうマジで私服の陽菜は可愛すぎるんだが!?
男子の心をくすぐる小悪魔系アイドルなんだが!?
「ありがとー、たくみん」
陽菜がにっこりと微笑むと、キラキラ度合いがさらに増した。
「陽菜も買い出しか?」
「買い出しって、何の?」
口元に人差し指を当てながら小首をかしげる陽菜。
「今日はそこのスーパーで玉子の特売をやってるだろ? ちょうど今、夕方のセールタイムなんだ」
朝・昼・夕方の3回、特売の玉子は放出される。
俺は中身がいっぱいのエコバッグを掲げて見せた。
玉子は割れやすいので一番上に載っている。
「いやいや、そんな主婦目線の情報、女子高生は知らないしー」
「た、たしかに」
「でもそっか。たくみんって一人暮らしだから、そういうのちゃんとチェックしてるんだね。えらいじゃーん♪ やるぅ! 陽菜ちゃんポイント10点進呈♪」
陽菜がポイント加算しつつ、俺の胸をツンツンと人差し指で突ついてくる。
「ちょ、道端でそういうのは恥ずかしいっての」
あちらの買い物帰りのマダムが俺たちを見ながら、ほのぼのとした笑みを浮かべてるじゃないか。
絶対あれ「あらあら、若いっていいわねぇ」とか思われてるぞ。
ちなみに陽菜ちゃんポイントは現状、大きくマイナスしている。
まぁ増えても減っても陽菜の態度はまったく変わらないし──多分その場のノリと思われる──増減にあんまり意味はなさそうだが。
「別にこれくらい普通でしょー? うりうり、なに恥ずかしがってんだ、このシャイボーイめ~♪」
「普通かなぁ……?」
普通って割りには、他の男子にやってるのは見たことないけどなぁ。
「そんなんだと、気付かないうちにたくみんに気がある女の子を逃がしちゃうぞー?」
「あはは、俺にそんな状況はありえないっての。それはそれとして、結局、陽菜は何してるんだ?」
「てきとーに散歩だよー。アタシの家、このすぐ近くだし」
行動にハッキリとした明確な理由があることの多い陽菜にしては、目的もなく散歩するのはらしくないと、なんとなく思った。
いやまぁ短い付き合いなんで、思っただけなんだけど。
なので、もちろんそれを口に出しはしない。
「そっか。陽菜と木陰さんはここが地元なんだっけ」
中学までとは違って、高校は周囲のいろんな地区から集まってくるから、みんな地元の中学までとは違って、なんか新鮮な感覚だな。
ちなみに俺の地元は数駅隣だ。
土日は親に顔を見せるために実家に帰ることも多い。
近いからな。




