第49話「ほんとかなぁ? あ、早速、怪しげな段ボールをハッケーン♪」
「ほんとかなぁ? あ、早速、怪しげな段ボールをハッケーン♪」
陽菜がベッドの下から段ボールを引っ張り出した。
「ああ、その段ボールは――」
俺が説明する前に「ふんふーん♪」と陽菜が喜々として段ボールを開く。
すると中にはTシャツやら半袖のシャツやらが、綺麗に畳まれて入っていた。
「……なにこれ?」
「なにって、夏服はまだ着ないから、引っ越し用の段ボールから出さずにベッドの下に入れて仕舞ってたんだけど」
「たーくみーん?」
「な、なんだよ?」
陽菜がなぜかジト目を向けてきた。
「その展開は超つまんなーい! 陽菜ちゃんポイントマイナス20点!」
「そんなこと言われてもさぁ」
俺にどうしろと?
「いやでも待って?」
「え?」
「夏服が入ってるだけと思わせて、この中に隠してある可能性がワンチャンあるかもだよね」
陽菜が段ボールの中を漁り出す。
「陽菜ちゃん、人の物を勝手に漁っちゃだめだよぉ」
「あのね、美月。これはアタシがやりたいからじゃなくて、たくみんの無実を晴らすためにやってるんだから……ね?」
「ねって、最後に疑問形で言われてもな……」
なんて会話をしている間にも陽菜の段ボール漁りは続いており、すぐに中からとあるものが出てきた。
もちろんえっちなアレやコレではない。
「うんしょっと……。えっと? たくみん、なにこれ?」
陽菜が取り出したのは格闘ゲームをするためのアケコンだった。
棒レバーと8つのボタンが付いた、少し古いタイプだ。
「そういや予備のアケコンを、服をクッション代わりにして一緒に入れてたんだっけ」
「あけこん?」
アケコンを知らなかったのだろう、陽菜が小首をかしげる。
「アーケードコントローラーの略……だったかな? 格闘ゲームをするための専用コントローラーだよ」
「アーケードって商店街の屋根のことでしょ? ゲームとどんな関係があるの?」
「え? いや、俺も細かい名前の由来は知らないけど……」
たしかに言われてみればアーケードコントローラーのアーケードって、どういう意味だ?
アケコンにアーケード的な物はついてないよな?
考えたこともなかったけど、確かに謎だ。
「拓海くんって、ゲームするんだ? 結構いろいろやるの?」
「沢山はしないけど、好きなのをちょっとやり込む感じかな」
「男子はゲーム好きだよねー。クラスでも時々、男子がゲームの話してるもんねー」
「男子高校生ならゲームはまぁ普通に好きだろ?」
知らんけど。
「それで、なんでアケコンが服の中に隠してあったの?」
「隠してたんじゃなくて。これは昔使ってたヤツで今は使ってないんだけど、壊れた時用に一応予備で持ってきてたんだ。アケコンって、いいのは結構高いからさ」
1フレーム(=1/60秒)単位で勝負する格闘ゲームのコントローラーは、入力精度が命。
そして入力精度がいいアケコンは、それなりに高い。
つまり買い替えるのが結構大変なのだ。
高校生のお小遣い的においそれとは捨てられない。
「なるほどねー。あ、そうだ! アタシ、ゲームあんまりやらないから、せっかくだし、やってるとこ見たいなー」
「いいけど、格ゲー知らないと、見てもあんまりおもしろくないと思うぞ?」
マリカーとか割と女子も知ってそうなのがあればよかったんだけど、パーティゲーム系のは持ってないんだよな。
一緒にやる相手もいないし。
「面白くなかったら、すぐ言うしー」
「陽菜はそうだよな」
陽菜の素直な一言に、俺は小さく苦笑した。
割となんでもストレートに言ってくるのが、陽菜のいいところだ。
「拓海くんがゲームするところ、私も見てみたいかも」
しかも木陰さんにまで言われてしまったら、俺としては断る理由はない。
「じゃあ適当にネット対戦するから、飽きたら言ってくれな」
俺はパソコンの電源を入れると、デスクトップのアイコンをクリックして、最近流行りの格闘ゲーム「ストライクファイターVI」を起動した。




