第45話 「そういえばたくみんの部屋ってどんななの?」
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それからも、木陰さんと陽菜は頻繁に俺んちに遊びに来るようになった。
「そういえばたくみんの部屋ってどんななの?」
陽菜がクロトにカリカリをあげながら、ふと思い出したようにつぶやく。
「どんなって、特になにもない普通の部屋だけど」
「アタシ見てみたいな~。男子の部屋って入ったことないんだよね」
「へー、意外だな」
「意外ってなにさー?」
陽菜がムッとしたような顔を向けてくる。
しまった。
つい口から素直な感想がまろび出てしまった。
俺的には悪気とか偏見は全然なくて、本当に陽菜がモテるってことを言ったつもりだった。
だけど受け取りようによっては、陽菜のことを男の部屋にホイホイ遊びに行くような軽い女の子って言ったようにも聞こえてしまう。
「あ、いや、その。ほら、陽菜ってすごくモテそうだからさ。そういう経験もあるのかなって思ったんだ。だから男慣れしてそうとかそういう意図は全然なくて、ディスるつもりもマジでなくて――」
俺は慌てて言い訳(自分でもキモイぐらいに早口)をしたのだが、
「あはは、たくみん急に必死すぎ~! ウケる~!」
俺の反応を見た途端に、陽菜の顔がにゅふふーと小悪魔なスマイルを浮かべた。
「……また俺をからかったな?」
「えー? べーつにー? アタシはただ理由を聞いただけじゃーん?」
「くっ……! 完膚なきまでに言い返せない……!」
「あははー♪ たくみんはほんと可愛いよねー♪ ま、自分で言うのもなんだけど、モテるのは間違いないんだけどね。でもアタシには運命の――おおっと、これはまだたくみんには内緒だった♪」
「運命……? デスティニー?」
「ふふふーん♪ ふふふふーん♪」
「なんだよー? そんな単語が出てきたら気になるだろー? そこまで言ったなら、何がデスティニーなのか教えてくれるのがジャスティスだろー?」
「残念、たくみんはまだ陽菜ちゃんポイント不足です」
「例の謎ポイントに、まさかこんな使い道があったなんて……!」
こんなことならもっと積極的にポイントを集めておくべきだった!
「まぁ、その辺はおいおいねー。そんなことより、ねぇ美月。美月もたくみんのお部屋を見てみたいよね?」
「わ、私? もちろん見てみた――あ、えっと、そういうのはプライバシーだから……」
カリカリを食べるクロトを撫で撫でしつつ、俺と陽菜とのやりとりを時々、苦笑しながら聞いていた木陰さんが、途中まで見たいと言いかけて、慌てて言い直した。
「だってー。美月も見てみたいってー♪ たくみんのお部屋に興味ある感じだってー♪」
「ひ、陽菜ちゃーん!?」
「あはは。別に俺は構わないよ。俺だって2人の部屋に興味ないかって聞かれたら嘘になるしさ。でも本当に普通の部屋だぞ?」
「そこはアタシたちが厳正にジャッジしてあげるから。じゃあ、たくみんもオッケーってことで。今からみんなでワクワクドキドキ! たくみんのお部屋見学~♪」
「ワクワクドキドキって、陽菜がいったい何を期待してるのかは知らないけど、見て楽しいものはマジで置いてないからな?」
むしろ期待に応えられなくて申し訳なくなるまでありそうだ。
ということで、俺は自分の部屋にキラキラ美少女2人を案内することになった。
って、これ。
よく考えたら俺の部屋に初めて女の子が来るってことだよな!?
俺の部屋に女の子が!?
な、なんだってーーっ!?
ちなみにクロトは我関せずで、カリカリを食べ終えると、満足そうにキャットタワーの上から2番目のお気に入りの台座で毛づくろいを始めた。




