第41話『はにゃーん。はにゃーん』
そして翌日の放課後も、木陰さんと陽菜はクロトに会いに俺んちへとやってきていた。
これで2人が俺んちに来るのは3日連続だ。
クロト、おまえは本当にすごいやつだな!
「あれ、まだキャットタワーで寝てるよ?」
しかし陽菜が頭を撫でても、クロトはお気に入りの足場の上でベタンと身体を投げ出しながら寝入ったままだ。
「もしかして昨日からずっとここにいるの?」
「今は寝てるけど、時々思い出したようにキャットタワーを上ったり下りたりしてるし、猫ハウスに戻って丸まったりもしてるから、安心して。エサもちゃんと食べてるよ」
「よかったぁ」
木陰さんがホッとしたように胸に手を当てたところで、クロトがむくりと起き上がって、キャットタワーを上下し始めた。
「あ、動いた」
「な、言っただろ?」
クロトは特に目的もなさそうに、上に行ったり下に行ったりを繰り返す。
「やっぱり運動したいのかな?」
「かもしれないな。猫だし」
「だったら美月、アレがちょうどいいじゃん。ほら、アレアレ」
陽菜が2023年の阪神タイガースのスローガンみたいなことを言い始めた。
「アレって?」
「今日は美月が、いいもの持ってきてるんだよねー」
「いいもの?」
「いわゆるプ・レ・ゼ・ン・ト♪ ねー、美月♪」
「俺に? え、マジで?」
きゅ、急にプレゼントとか言われても俺、心の準備ができてないんだけど!?
だって女の子からのプレゼントだぞ?
木陰さんからプレゼントとか、そりゃ欲しくないわけがない。
だけどどういう意図で木陰さんが俺にプレゼントをくれるんだ?
もしかして木陰さんって、俺に好意があるとか──(ちょっと女の子に優しくされると好意があると考えてしまう哀れな男子脳)
「あ、うん。これなんだけどね」
そう言って木陰さんが通学カバンから取りだしたのは、小さな釣り竿の先から紐が伸びていて、その先エビフライみたいなモフモフがついたオモチャだった。
「じゃじゃーん! 猫じゃらしでーす」
「猫じゃらしって……あ、そういうこと……」
その瞬間、俺は己の早とちりを理解した。
「そーいうこと♪」
「つまりクロトへのプレゼントってことな……」
なるほど。
そりゃそうだよな。
うん。
そりゃそうだ。
「あれあれ~? なにその反応~? もしかしてたくみん、美月から自分へのプレゼントだと思って期待しちゃってた~?」
「そ、そんなことはないぞ! うん、ないぞ!」
「ふーん? その割には鼻の下が伸びてたけど~?」
「そ、そんなことは――って、あっ!」
とっさに口元を隠すように右手を当ててしまったところで、俺は陽菜の計略に気が付いた。
「ふふふー♪」
「うぐっ……」
「ご、ごめんね拓海くん。変に期待させちゃったみたいで……」
木陰さんがすっごく申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
「いやいやいやいやいや! 木陰さんは、なんっっっにも悪いことしてないから気にしないで」
「そうそう、たくみんが美月からプレゼント貰えるなんて嬉しいーとか勝手に思っちゃっただけだから」
やめて!
本人の前で解説されるとか、死ぬほど恥ずかしいからやめてさしあげて!
俺のライフはもうゼロだよ!
「もー。陽菜ちゃんの言い方がよくなかったのもあるでしょー。あんな風に言われたら、拓海くんが勘違いしても仕方ないよ」
「おやおや~? どうも美月はたくみんの味方のようですな~」
「何キャラだよそれ……でもあれ? なんで木陰さんが猫じゃらしなんて持ってるんだ? 木陰さんの家は猫はダメなんだよな?」
「あー、えっと、その。これには深いわけがあってね……」
「美月ってば、猫は飼えないけど、猫じゃらしだけは買ってたんだよね~」
「まぁ、うん……そうなの」
「猫と遊んでるのを想像しながらエア猫じゃらしを振る美月、ちょお可愛くない?」
陽菜に言われて、俺も想像してしまう。
部屋で一人、想像のにゃんこ相手に猫じゃらしを振って遊ぶ木陰さん。
『はにゃーん。はにゃーん』(俺の勝手なイメージ)
か、可愛い。
可愛過ぎるぞ木陰さん!
可愛さ余って可愛さ100倍。
もはや可愛さの総合商社だろ!?
そんなもの見せられたら俺のメンタルもはにゃーんしてしまうよ!(意味不明)
「じゃあ散々イメトレしてきた猫じゃらしを、今日ついに実戦投入ってわけだ」
チラリとクロトを見ると、既にその目はランラン。
木陰さんの持つねこじゃらしに釘付けだった。




