第38話「それを言うなら野次猫だったりして? ふふっ」
「そっか。足元がさわさわってしたと思ったら、クロトだったんだぁ」
木陰さんが納得したように呟いた。
「クロトのやつ、さっきは猫ハウスの中で素知らぬ顔をしてたのに、いつの間に……ぜんぜん足音とかしなかったよな?」
「さすが猫って感じー? しかも黒いから物陰にいると地味にわかりづらいよねー」
「クロトはまだ小さいから余計に見えにくいのかも」
どうもそういう事らしかった。
こっそりやってきたクロトに急に足にスリスリされたことで、木陰さんは驚いてこけそうになったのだ。
クロトはまったく悪気はないんだろうが、事故のもとだ。
ここは少し注意をしておこう。
「おーい、クロト。危ないからあんまり驚かせちゃだめだぞ。ちゃんと自分がいるアピールをしないとだ」
しかしクロトはよくわかってないようで、俺を見上げながら小さく首を傾げた。
すると代わりに陽菜が猫語(?)で伝えてくれる。
「クロト、にゃあ、にゃあ、にゃあ? にゃにゃ!」
みゃあ!
可愛らしく鳴き真似をした陽菜に、クロトは元気よく鳴いて返すと、部屋を出て行った。
すぐにトントントンと、軽やかに階段を降りていく音が聞こえてくる。
「え? もしかして今の通じたのか?」
「まぁ? アタシほどになれば? これくらい余裕的な?」
陽菜がドヤ顔で胸を張った。
木陰さんほどではないが平均以上に豊かな陽菜マウンテンが強調される。
制服を着崩していることで陽菜バレーがチラリしており、エロ可愛すぎて男子高校生にはいろいろとアオハルだった。
俺はつい見とれそうになる弱い心をなんとか叱咤激励して視線を逸らす。
「陽菜ちゃん、絶対適当に言ってたでしょ」
「そんなことないしー。ちゃんと気持ちで伝わってたしー」
「気持ちか。気持ちは大事だよな」
「でしょでしょ? さすがたくみん、話わかる~♪」
陽菜の言葉に、妙に納得した俺だった。
「でもクロトは何しに来たのかな? すぐに1階に戻っていったし」
「アタシたちが何してるのか気になったんじゃない? 猫って好奇心旺盛なんでしょ?」
「つまり野次馬か」
「それを言うなら野次猫だったりして? ふふっ」
「美月それナイスぅ!」
「上手いこと言うなぁ。さすが木陰さんだ」
「べ、別にそんなつもりじゃなかったんだけど……ほ、ほんとだよ?」
もじもじとはにかんだ木陰さんは、それはもう可愛かった。
右を見れば木陰さん、左を見れば陽菜。
物がいっぱいで手狭なだけの物置部屋も、キラキラ女子が2人も居ればキラキラルームになるんだなぁ。
もちろん俺は物置部屋をキラキラルームにするために、2人を連れてきたわけではない。
「それじゃあキャットタワー探索を再開しよう」
「はーい」
「そうだね」
俺たちはキャットタワー探しを再開した。
その後は特に何があるわけでもなく、
「あった、これだな」
「やったね、拓海くん」
「ミッション、コンプリート♪」
分解されて綺麗に収納されたキャットタワーを無事、発見した。
キャットタワーを箱のまま1階のリビングまで運び出してから、組み立てる。
「どう、拓海くん? 作れそう?」
「説明書も組み立て工具も入ってるし、順番に組み立てるだけだからできると思うけど……」
ここで「俺に任せとけ」なんてカッコよく断言できないのが、いかにもモブ男子Aらしいと思ってしまう。
キラキラ女子にはきっと、そういうことをさらりと言えちゃうカッコいいイケイケ男子が似合うんだろうなと、なんとなく思ってしまった。
ま、そもそも俺じゃ釣り合いが取れるわけがない。
そもそも同じクラス以外に接点がなかったキラキラ女子たちと仲良くなれた時点で、俺的には望外の幸運なんだ。
それ以上の関係を望むなんて身の程を知れってなもんだよな。
「そうそう、たくみんなら余裕でできるよねー」
「俺ならって、どんな根拠があるのかまったく分からないんだが……」
「なんとなくそんな気がするから!」
「あ、うん。そうなんだ……」
「ちなみにアタシ的には、物を作ったり直したりできる人って結構ポイント高いよ?」
「へぇ……まぁせっかくみんなで見つけたんだし、頑張ってはみるよ」
陽菜ってモノづくりに興味でもあるのかな?
女の子にしては珍しいかも。
なんてことを少し思いながら、俺は説明書を読みながら組み立てていく。
しかし俺の不安をよそに、キャットタワーは特に問題もなく組み上がった。
できあがったのは柱の左右に足場(って言うのか? 猫が乗れるスペースだ)が互い違いについている、いかにもなキャットタワー。
とりあえず完成させられたことに、俺はホッと一安心した。




